作者のつぶやき


ハイパーテキスト小説を書くにあたって
読者のみなさん( 96.5.8 )
助けてください( 96.5.24 )
ごめんね( 96.5.31 )
にゃー( 96.6.14 )
みなさんの声を聞かせてください( 96.7.26 )
100人目の乗客!( 96.9.20 )
ゼロ( 96.11.15 )
明けましておめでとうございます( 97.1.10 )
いいわけ( 97.2.14 )
ひさびさ( 97.11.14 )


ハイパーテキスト小説
  『99人の最終電車』を書くにあたって

 
 小説は、ふつう、最初のページと最後のページを持っています。
 当たり前のことです。

 でも、それ、ほんとうに当たり前のことなのでしょうか?

 その昔、まだ文字というものがなくて、だからもちろん〈本〉
も存在していないころ……語り部たちは〈お話〉を口伝えに語り
継ぎ、歌い継いでいました。これを「口承文芸」などと呼んでい
ます。もちろん、この「口承文芸」を「小説」と称していいもの
かどうかは私にはわかりません。まるで違うものだという考え方
も、もちろんあると思います。
 ですけれど、この「口承文芸」が現在の「小説」とかなり密接
な関わりを持っていることだけは確かだろうと思います。「口承
文芸」の中で培われた〈お話〉の技法が、現在の「小説」でもち
ゃんと受け継がれているのですから。
 この「口承文芸」には、固定化された最初のページや最後のペ
ージというものは存在しませんでした。〈お話〉の始まりや終わ
りは語り部たちそれぞれの記憶や気分や体調などによって、その
時々で変化しただろうと思うからです。

 最初のページ、最後のページ、というものが登場したのは、小
説が〈本〉という形を獲得したときでした。
 その時から、小説には、始まりがあって、終わりがある、とい
う基本的なルールができあがったのです。古今東西の小説家たち
は、小説の魅力的な「プロローグ」や「エピローグ」を様々に模
索し、そしてそれは数多くの技法や定型を生み出すことになりま
した。

 そして、小説は、ふつう、読み進む順番というものが定められ
ています。
 これも、当たり前のことです。

 まれに、小説のラストを最初に読むという人もいるようですが、
この読み方は〈邪道〉です。小説家もそのような読み方を期待し
てはいません。
 最初のページを読んだら、次のページに進み、そしてまた次の
ページ……そうやって最後のページまで読み進む。これが小説の
「まっとうな」読み方です。
 この読み方のルールも、小説が〈本〉という形を獲得したとき
にできあがりました。

 小説は〈本〉というメディアに載せられることによって、その
基本的な構造を決定されることになったのです。

 この基本的なルールを小説から剥奪してみたら、どんなことが
起こるんだろう?

 私が『99人の最終電車』を書こうと考えたのは、そんな興味
からでした。

 いまここに、私たちは、ハイパーテキストという新しいメディ
アを持っています。
 現在、インターネット上の代表格のようになってしまったWW
Wは、それ自体が巨大なハイパーリンクで組み上げられています。
世界中のあちこちにあるホームページを見て歩くとき、私たちに
は「最初のページ」も「最後のページ」もありません。

 なのに、小説は、やっぱり最初と最後を持っている……。

 WWWのあちこちに、たくさんの小説が置かれています。私が
見逃しているだけのことかもしれませんが、その小説たちも、や
はり最初のページと最後のページ、始まりと終わり、定められた
読み方を継承しているようです。

 ハイパーテキストは〈本〉とはまったく違った「読み方」を可
能にするメディアです。
 だとすれば、ふつうの小説とはまったく違う構造を持った《ハ
イパーテキスト小説》なるものが存在してもいいのではないか…
…と、私は考えました。

 読まれ方が違うということは、書き方も違うということです。
 具体的にどう違うのか、いまの私はまるで知りません。
 それを形にしてみることが、どのような意味を持っているのか、
それも、私は知りません。
 書き上げたものを、はたして「小説」と称していいものなのか、
それさえ知りません。
 ただ、とにかく書いてみたいと思っています。

 さて、ハイパーテキスト小説『99人の最終電車』は、どのよ
うに読んでいただけるのでしょうか?

                       (1996.4.5)


 

読者のみなさん

 
 まだ連載も始まったばかりだというのに、たくさんの方たちか
らいっぱいメールをいただきました。どうもありがとうございま
す。
 そのお一人お一人にお返事を書きたいところなのですが、原稿
も書かずにそんなことをしていると担当の西尾琢郎(仮名)がナ
タを振り上げておどすのです。まあ、電話の向こうで何を振り上
げられても、さほど怖くはないのですが、ここでまとめてメール
のお礼を申し上げてしまいます。感謝、感謝、です。
 今回の『99人の最終電車』は、僕としてもはじめての試みで、
かなり興奮しながら書いています。同時に、どんなふうに読んで
いただけるものか、不安もいっぱいでした。メールをたくさんい
ただいて、ちょっとホッとしています。(こういうこと、雑誌の
連載でもまずないですよね。連載が始まったばかりで読者からの
応援がいただけるというのも、ネットワークの威力でしょうか。
やめらんないなあ、やっぱり)
 かなり重いページがいっぱいあって、ダイアルアップでご覧に
なっている方には申し訳のないことだと思います。さらに、更新
のたびにインデックスページもその都度書き換わっていってしま
いますから、この先、もっともっと重くなる……どうも、すいま
せん。
 ブラウザのキャッシュが生きていると、更新に気づかないこと
があると思います。キャッシュは、なるべく「セッションごとの
更新」に設定してから覗きにきて下さい。(いちいちリロードボ
タンをクリックするのも面倒でしょ?)
 とにかく、どんどん面白くなるようなものにしたいと考えてお
りますので、これからもよろしくお願いします。
 
                   96.5.8   井上夢人


 

助けてください

 
 連載が始まってまださほどにはならないというのに、僕のハー
ドディスクの中はすでにゴチャゴチャの状態。乗客たちのファイ
ルが、古いの、新しいの、書き直したの、放り出したの、消した
はずの、紛れ込んだの……と、もうわけがわからん。
 思いつくままにディレクトリを建て増しし、分割し、統合した
結果、どこに何が入っているのか探すだけで一苦労なのですね。
 もともと、整理の良くないたちだってことは、よーくわかって
るつもりだったんだけど、ここにいたってほとんどパニック状態
であります。
 ああ、誰か、ハイパーテキスト小説用のワープロなりエディタ
なり、作ってくれないものかしらん。
 よーするに、大量の文書ファイルのリンク関係、3次元構造を、
そのままGUIインターフェースによって扱えるようなファイラ
があればいいってことかな。ついでに、そのまま電子メールにし
て西尾(仮名)君のところに送れちゃったりしたら申し分ないん
だけどね。
 もうずいぶん前にVisual Basic4.0は買い込んで、ちゃんとイ
ンストールもしてあるんだけど、それをいじくり回す時間がない
のでありますよ。
 誰か、助けてくれません?
 
                   96.5.24   井上夢人


 

ごめんね

 
 いやあ、今週の更新は、たったの6ページです。
 クリックしてもクリックしても「準備中」の文字しかないじゃ
ないか! と、お怒りの諸姉諸兄、まことに相済みません。
 推理作家協会賞の選考に時間をくわれただとか、久しぶりに東
京に行ったらえらく疲れて二日ほど死んでたとか、来月出版する
ための単行本の見直しに追われてただの、原因不明のマシントラ
ブルに襲われてファイルの修復に発狂寸前だったとか……そうい
う言い訳はいっさいいたしません。<(めいっぱいしてるぢゃな
いか![西尾(仮名)])
 まあ、こういうこともあります。はははは。
 
 あ、それから kohyeah@リムネット さん、ご心配いただいてど
ーも。
 執筆は、パイパーテキストのエディタとブラウザ、及びデータ
ベースの併用でやってまして、至近距離のリンクは確認できる状
態にはありますが、ファイル群全体のリンク構造関係を一望でき
るようなソフトがないもんかなーと……まあ、難しいですね、こ
ういうのは。
 
 さ、書かなきゃ。
 
                       96.5.31 井上夢人


 

にゃー

 
うちのネコです。うちのネコはよく笑います。
                     96.6.14 井上夢人

うちのネコ
「げんこー、書けないんだってさー。わらっちゃうよなー。キャハハハハ」

 

みなさんの声を聞かせてください

 
 豊田正史さん、とても面白いアイデアをどうもありがとう。
 実は、同じようなことを、僕自身も考えているんです。ただ、
豊田さんのお書きになったイメージとは、やや違うものですけど
ね。
 ハイパーテキスト小説では、いろんな形での実験ができるだろ
うと思っています。時間軸に関してのリンク構造もその一つです。
ただ、現在のような発表の仕方(毎週、時間軸に沿って書き進め
ていくというやり方)だと、かなり難しい部分もあります。時間
を逆行する人物自体を描くことはもちろん可能ですが、その人物
とほかの人物たちをどのようにリンクさせるか、ほかの人物の時
間軸とどんな形での関わりを持たせるかということが非常に難し
い。(その人物にとってみると、ほかの人物たちの時間こそ逆行
している(!)ように見えているはずですから)
 ある意味で、そういった時間軸についての仕掛け(イタズラ?)
も作っていきたいと思っていますが、本格的な実現は、連載終了
後、CD-ROMにまとめるときにでも書き加える形でやるしか
ないかなあ……とも考えています。
 ともあれ、刺激的なメールをありがとうございました。
 こういう形で、読者の方が作品に参加してくださるのを、実は
心待ちにしておりました。
 オンライン小説は、インタラクティブ小説でもあるわけですか
ら、僕が書いていると同時に、読んでくださっている読者の方た
ちそれぞれが作り上げていけるものであればいいなあ……と考え
ているんです。
 とってもうれしいメールでした。
 ハイパーテキスト小説は、書いている僕自身にとっても未知の
メディアです。
 オンラインソフトには、β版というのが存在しますね。この
『99人の最終電車』はβ版なんです。
 読者のみなさん、ハイパーテキスト小説に対して持っているご
自分のお考えや、希望や、そして『99人の最終電車』への不満
など、ぜひお聞かせください。
 どうぞよろしく。
 
                       96.7.26 井上夢人


 

100人目の乗客!

 
 今週から我孫子武丸さんの書かれた「100人目の乗客」が登
場しています。先月から実施している乗客大募集に、友人で作家
仲間の我孫子さんが、とっても素晴らしい乗客を一人送ってくれ
たのです。
 我孫子さんをご存じの方はたくさんいらっしゃるでしょうが、
彼のことをもっとよく知りたいとお思いなら、我孫子飯店という
彼のホームページへ行ってみてください。かわいらしいポテ君が
お出迎えしてくれますよ。そしてさらに、彼が僕のために書いて
くれた『あくむ』の文庫解説もどうぞ。
 
 さあ、我孫子さんの「松戸征夫」を読んで、みなさんもどんど
ん乗客を送ってください。
 僕や波乗王編集部にしてみれば、これは「オンライン小説にど
んなことが可能か」という試みの一つではありますけれど、もち
ろんみなさんは気楽に、きらーくに考えていただいてけっこうで
す。みなさんご自身が乗客になってくださってもいいのですし、
みなさんのお友達をモデルにして書いてくださってもいいのです。
 
 ただ、一つだけお願いしておきます。乗客は、みなさんのオリ
ジナルにしてください。どこかの映画や小説や漫画などから借り
てきたキャラクターをそのまま、というのはやめてください。そ
ういった人物の登場する原稿をここに載せることはできません。
 
 待ってますよーぉ!
 
                   96.9.20 井上夢人


 

ゼロ

 
 最近、どうも更新ページが少なすぎると、あちこちからお叱
りをいただいておりますが、今週は、なんとゼロであります。
もう、こうなると居直りしかありません。
 どうだ、文句あっか。……あるだろうな、やっぱり。ごめん。
 その代わり、と言ってはナンですが、今週は、あの岬商店で
おなじみのSF作家・岬兄悟さんが乗客を1人乗っけてくれま
した。そう、我孫子武丸さんに続いて101人目の乗客であり
ます。可愛らしいゾウさんの大冒険(?)をお楽しみください。
岬さんについて詳しいことをお知りになりたい方は彼のミニホ
ームページにもアクセスしてみてください。
 それから「乗客大募集」に、たくさんのご応募ありがとうご
ざいました。ただいま、編集部と僕とで読んでます。ただ、ち
ょっとばかり、審議ランプがつきっぱなしで……と、その詳し
いところは発表のときにお話ししましょう。
 あ、ついでに、衛星放送をご覧になれる方は、17日の0時
10分(16日土曜日の深夜24時10分)NHK・BS1の
「TVインターネット」という番組を覗いてみてください。
「Yumiのネットトーク」ってコーナーで、僕、この『99
人の最終電車』についておしゃべりします。
 ヨロシク。
 
                  96.11.15 井上夢人


 

明けましておめでとうございます

 
 みなさん、明けましておめでとうございます。
 
 昨年の4月から連載を開始したこの『99人の最終電車』も、
とうとう2年目に突入してしまうことになりました。なのに進
んだ時間は、たったの「9分」!……いやあ、世界一遅い地下
鉄になってしまいましたよ、ははは。
 
 連載開始当初は、こういう試みを受け入れていただけるもの
かどうか、不安もかなりあったのですが、支持してくださる読
者の方々もずいぶん増え、本当にありがたいと思っています。
新しい年の始まりを区切りとして、読者のみなさんにあらため
てお礼を申し上げます。
 
 この数年のメディア革命は、世界的な規模で私たちの環境を
変えつつあります。その大変動の中で、自分自身をどう位置づ
け、他との関わりをどのように築いていくかということは、私
たち一人一人が考えていかなければならない課題だと思います。
 
 この『99人の最終電車』は、その新しい世界への、僕にと
っての第一歩なのだと自覚しています。小さくて、頼りない第
一歩ではありますけれど、地面をしっかりと踏みしめて、次の
一歩へ向かう足がかりにしたいと思っています。
 
 カメ……いや、ナメクジのようにゆっくりした最終電車です
が、さらに面白いものに仕上がるよう精一杯書き続けたいと思
います。引き続き、ご感想、ご意見、ご叱正をお待ちしており
ます。
 
 ということで、今年もよろしくお願い申しあげます。
 
                  97.1.10 井上夢人


 

いいわけ

 
 ごめんなさい。またまた、今週の更新はゼロです。
 先週で24時5分が終わり、さあ、これから6分に突入する
ところです。実は、この24時6分には、かなり大勢の人物た
ちが新登場するのです。人物たちの関わりがさらに複雑化して
くるために、その配置計算にやや時間がかかっている……とい
うのが、正直な更新ゼロの理由です。
『99人の最終電車』の登場人物たちは、様々な形で奇妙な連
携プレイを演じます。ある人物たちは目に見える形で関わり合
い、またある人物たちは無関係に時間と場所だけを共有しなが
ら、しかしやはり微妙なつながりを持っています。
 この〈ハイパーテキスト小説〉では、紙の上に書かれる普通
の小説と違った「計算」をしなければなりません。それは、ど
こか連立方程式を解くにも似た奇妙な作業であることに、僕は
書き進めるに従って気づかされることになりました。方程式は、
回を重ねるに従い、登場人物が増えるに従って級数的に複雑化
してきます。そのパズルを解くのは、けっこうホネですが、で
もまた面白いところでもあるのです。
 今回、いささかパズルが込み入っていて、時間がかかってい
るってわけなんですね。
 なんてことは、もちろん言い訳にすぎませんので、もう一度、
お詫びします。ごめんなさい。
 
                  97.2.14 井上夢人


 

ひさびさ

 
 談話室ができてから、ほとんどこちらには書いておりませんで
した。
 書くと、いつもお詫びのようになってしまうのも、ナンであり
ますが。はい。
今週はゼロであります。更新なしです。
 
 本日の某編集部との電話での会話。
「すみません。週末まで……」
「週末って……いつなんですか? 土曜日ですか? 日曜日?」
「えーと。土曜中になんとか、と思ってますが、ひょっとすると
日曜日の朝とか……」
「……(無言)……」
「すみません」
「わかりましたっ! 日曜日の朝にお待ちしてます!」
「ごめんなさ――(通話断)」
 
 まあ、こんな会話が毎週のごとく繰り返されているわけであり
ます。
 ははは。
 笑っている場合ではないのですが、人間、ある領域を超えると
笑ってしまうという――ほら、よくあるでしょ。ジェットコース
ターに乗って、なんか笑っちゃうのって。あんなもんですな。
 わははははは。
 
                  97.11.14 井上夢人