Special Contents Part III(第3回)

鼎談:井上夢人×「くろけん」×「さる編」

企画当初は「92人の最終電車」だった!? 「くろけん」こと黒田研二さんの「乗客公募」入選秘話、「さる編」こと西尾琢郎さんの「99人」への熱い思い……。「99人」の歩みを隅々まで知る3人による、4時間におよぶ大鼎談。


◆鼎談 第3回 パイオニアの「苦と楽」



西尾 連載当初から井上さんと話していたのは、「99人」が触媒、触発剤になって、ネット上で新しい形の作品を書いてくれる人が後から出てきてくれるんじゃないか、ということでした。それに、繰り返し確認しあったのは、この「99人の最終電車」はあくまで小説であって、ゲームとかその他の形態のコンテンツではないということだった。既存の小説ではないけれども、ハイパーテキストという新しい形をとった小説だ、読み物だという制約がありました。そういう強い制約がなければ、もっとゲームライクな作品になっていたかもしれないですね。

井上 うん。実際、その後ゲームの世界では「99人」的なものがいろいろと出てきているね。しかし、残念ながら小説ではまだ……。

西尾 続く人の前に「99人」が立ちはだかっているのかもしれない。

井上 「99人」はちょっとでか過ぎたかもしれない。何年もかけて、こんなどでかいものやれるわけないじゃないか、井上みたいに暇じゃあないよ、って言われそうだ。もともとの心づもりでは、規模も小さくて、期間も半年。こんな何年も続ける覚悟はとてもじゃないけど持っていなかった。

編集 たしかに、スタンダードにするにはちょっと巨大になってしまいましたね。これから書こうとする人には、何らかの点で「99人」を超えねば、少なくとも匹敵するものはつくらねば、というプレッシャーがかかる。だから、ショボいことはやれません(笑)。

井上 「99人」をずっと書いてきて、新しい発見をしたり自分の思い違いに気づかされたりと、僕もかなり勉強させてもらった。おかげでいま、ネットがなんとなく少しわかってきたかなという思いもあるし、またべつの何かで挑戦してみたいなと思わなくもない(笑)。実際に、3社くらいから、うちでもネット上で何かやりませんか、という話があったんです。でも、「いまは『99人』で精一杯です、お願いですから別の人のところに持っていってください」とお断りした。その後、ネット上で何かが始まったという話を聞きませんから、企画そのものがつぶれたんでしょうね。

黒田 似たような試みはあってもよさそうなのに、ありませんねえ。

井上 いや、アマチュアの方では何人か見かけたことがありますよ。最近調べてないからもっと増えているかもしれませんが、2、3ありました。その前書きに、井上夢人が「99人の最終電車」というのをやっている、これをみてインスパイアされた、というようなことを書いてくれている。うれしいし、光栄なことだと思いました。でも、逆に言えば物書きのプロがやるのは難しいかもしれない。締切をいっぱい抱えて、こんなものを書くのはかなり無鉄砲なヤツか計算ができないヤツじゃないとね(笑)。

編集 仕事を抱えて忙しくしている日本の作家が、「99人」を超える作品に取り組むのは現実問題としてひじょうに難しいでしょうね。

井上 誤解がないように付け加えると、これはその人の能力の問題じゃなくて、時間と根気と覚悟の問題なんですよ。

西尾 ネットはやはり、最終的には本にするために、つまり既存の意味合いでの作家になるための道具として使われていますよね。繰り返しになりますが、そうじゃない人も出てきてほしかった。今後出てきてくれると思うんですが……。

井上 それは出てくるでしょう。こんなことをしている僕だって「本と言えば紙」といった固定観念を持っている。その固定観念はかなり強固なものなんですね。でも、それにとらわれないネット作家がすでに登場していますし、アマチュアもいます。その中の才能を持った人が取り組めば「99人」を超えた方向を示してくれるだろう、書いてくれるだろうという気がします。たとえば、これまでのリレー小説といった形ではない、作家が何人か集まってひとつの作品を創り上げるという、新しい小説上のコラボレーションといった試みも可能かもしれません。言ってみれば、いまは黎明期、それこそインフラをつくっている時期だから。たとえばね、僕は小学校のときにお金持ちの家に押し掛けて月光仮面やプロレスとかを見ていたけれど、生まれたときにすでに横でテレビ番組が流れていた若い世代がいる。いまテレビを面白くしているのは、そういう若い世代ですよね。同じようなことが、インターネット、コンピュータにも言えて、彼らは、明らかに僕たち古い世代の想像を超えた発想を持っているだろうし、もっともっと生活基盤のなかに入り込んでいるだろう。すでに冷蔵庫にまでコンピュータがついているような時代でしょう。だから、あと数年くらいで、そういった試みがどんどん出てくるんじゃないですかね。いま僕らはパイオニアのおもしろさを味わっているわけです。柳の下の2匹目、3匹目はいい思いをするものだけど、1匹目のドジョウはたいていこけるんですね。一所懸命になって一番損な役回りをこなしているのかもしれない(笑)。せめて、1匹目の楽しいところを楽しもう、せめて楽しもうというところなんです。

編集 そのパイオニアとしてですが、どういったご苦労、工夫があったんでしょうか。

井上 最初は、やはりインターフェースの部分が一番問題になりました。あとになって実感したことだけれど、ウェブ上――あるいは電子書籍では、このインターフェースが非常に大きな役割を持つんです。最初のプロトタイプでは僕自身がインデックスをつくってみたんですよ。表組みを作成して、人物を配置して、それをクリックするという俯瞰タイプのインデックス。それを西尾くんが見て、これじゃあ、この人物はここで終わるということが読む前から読者にバレバレだ、と。じゃあ、どこまで隠してどこから見せるか。当時はまだはしりだった3Dのテクノロジーを使ってキー操作で進むとそこの駅名やらが表示されて、近づくと今度はどういう人物が並んでいるとか、そんなアイディアもいろいろと出たんですよ。

西尾 しかし、そうすると当然ながらものすごく重いものになってしまう。だから、デザイナーの向井さんも加わって一所懸命にディスカッションをやったわけです。当時の144――9600さえあった――の通信に耐えられるように、できるだけ軽くして、しかし視認性がよくて操作性がよくてという現在の格好になってきたわけです。ともかく、軽くしなければいけなかった。

井上 時代なんですよ。連載を始めたころは、とにかく重くちゃいかん、重いのは犯罪だという風潮があった(笑)。絵も256色で抑えなくちゃいかんと、そういう制約がいっぱいあった。

西尾 実際には、256色もないですよね。どの絵柄もたぶん32色くらいですね。

黒田 それでも、当時は重かったですからね、すごく。いまは、ケーブルだとそれこそ一瞬ですけど。

井上 連載を始めて1年くらいのころかな。分量はそれほど多くはなかったはずなんだけど、どこかの掲示板に「いま『99人の最終電車』をダウンロード中。2時間経ってもまだダウンロードが終わらないから、ここに遊びにきました」って書いてある。おいおい!……(笑)。その時代だとモデムの通信速度は288か144あたりじゃないかと思うんですよ。

西尾 それに、事故も多かった。何回ぐらいありましたかね。「西尾くん、ごめん」って電話がかかってくるわけですよ。

井上 事故は数知れず、だものね。何度泣いたかわからない(笑)。「99人」を始める前の話だけど、200枚の原稿がポンと消えちゃったことがある。「マーフィーの法則」だね、そういうときに限ってバックアップを取っていない。ウィンドウズはマルチタスクだけど、そのころはDOSベースだったので、基本的にシングルタスクでしょ。僕はDOS上で疑似マルチタスクをやっていてね。「一太郎5」で書いていた原稿が一段落して、その疑似マルチタスク状態を一時休ませたつもりで――休ませるというのはメモリーのなかに入っているデータをディスクの方に落としておいて、次のを立ち上げるわけですが――何を勘違いしたかウェッブかなんかを見に行ってしまって……戻ってみたら悲劇が待っていた(笑)。

西尾 筆が止まったら、瞬間的にもうバックアップ。保存、保存で行かないと。でも、最近は事故が減りましたよ。

井上 現在の僕の仕事場では、最低4台が同時に稼働しているから、事故があっても、どれかは生き残ってくれると思ってるんですけどね。

西尾 それもあるでしょうし、その間の、やはりPCのテクノロジーの進化があるんじゃないかと思いますね。それぐらいの年月が経っている。

井上 去年、パソコンの年間売上台数が1000万台を超えたでしょう。ウィンドウズ95が売り出されたときは、まだCD-ROMの他にフロッピーディスクベースのものも出てましたね。フロッピーが10枚くらいかな。

西尾 いや、20数枚だったと思いますよ。

井上 すると、ウィンドウズ2000のOSがフロッピーベースだったら、段ボール箱1杯分のフロッピーか(笑)。

黒田 連載が中断したときというのは、たいていはパソコンのトラブルからですか。

西尾 あとはメンタル上の事故というか(笑)。

井上 僕って、たいへん脆い人間なんだよね(笑)。ひじょうに繊細なところがあって、簡単なことですぐ折れるんだ。

黒田 折れるというのは、もう今週は原稿を書くのをやめておこうとか。

井上 何を書いているのか、わけがわからなくなるんだよ(笑)。

西尾 黒田さんも原稿はやはりパソコンで書くんですか。

黒田 そうですね。「99人」のキャラクター公募のときにもらった「一太郎8」、いまだにあれを使っています。

井上 物持ちがいいなあ。まだあれ使ってんの?

黒田 ええ、貴重品ですね(笑)。

井上 話が違うけれど、作者としてとてもうれしかったのは、ふだん小説を読まない人たちが「99人」を読みに来てくれてることですね。「小説を読む習慣は持っていませんけれど、ここには毎週来ています」といった反響を見ると、ああ、やってよかっ たなと思いますよ。「99人」を契機に、本屋に足を運んでくれて、僕の本やら黒田研二の本を買ってくれるわけですから(笑)。しかし、「読者談話室」を見ると、「ずっと未来永劫続いてほしい」というような、とんでもない書き込みがある(笑)。

西尾 「99人」じゃなくて、「9999人」を書けとか、「談話室は永遠に残せ」とか。永遠にって、そんなこと言われても(笑)。

井上 だいたいこの手の掲示板はだんだん寂れてゆくもんなんですよ。一時期はワイワイにぎやかでも、やがて閑古鳥が鳴き始めて、歯が抜けてゆくように書き込みが少なくなって、そのうちだれもアクセスしなくなる。「談話室」もそうなるだろうと思っていたんだけど、意外にもいまだにずっと続いている。あの過去ログの量は大したもんだね。

西尾 とんでもない分量ですよね。

編集 間がいいんですよね、たぶん。管理人の「さる編」さんの出てくる間が。

井上 中心メンバーの何人かが、もうあれを生き甲斐にしているんじゃないか、と思わせるような書き込みがある(笑)。

編集 だれだれがやっと更新されたとか、読書ガイドとしてもけっこう役に立ってます。

井上 でもね、意外な展開もあるんだ。常連だからわかってるもんだと思って書いていたら、ずっと前に犯人だと明かしてあった人物のことを、彼が犯人だなんてびっくりした、なんて書いてあって……。

西尾 けっこう忘れている人がいるんですね。

井上 何年も前に書いたことだものね。危うく僕も忘れるところだった(笑)。

編集 連載からずいぶん年月が経った現在、「99人」はネット上でいろんな形で載っていますが、「99人」に限らない現象ですが、既存の媒体はやはり強い影響力があって、紹介されるとアクセス数が急に増えますね。

井上 5月の初めに、NHKのBSで「IT王決定戦」とかいうクイズ番組にちらっと出たんですよ。そのなかで、ほんの2、3分くらいだったけど「99人」と「e-NOVELS」の話をしているんです。

西尾 テレビはURLを載せないことが多いけど、必ずアクセスがガーンと増える。あれは、検索してくるんですね。

編集 そうですね。放映は5月1日で、その日のアクセスは約2万8180、翌日は3万1000を超えています。通常は1万前後で、多いときが1万6000くらいですから、たしかに急激に増えています。普通は月間35万程度ですが、5月はページビューが47万に跳ね上がっています。

黒田 僕のホームページでも、ある日突然アクセス数が増えることがあって、何で増えたのか、その理由がわからないときがあるんですよ。

編集 どこかで紹介されているんですよ。検索で調べたら「あっ、これか」という場合もありますが、全部を追いようがないんです。

西尾 密かに載っているんです(笑)。

井上 この6年間ずっとあっちこっちで、割とコンスタントに紹介され続けているんで、もういい加減みんな飽きちゃうんじゃないかと思ってたけど(笑)。ところが、いまの方がジャスト時代よりも増えているんですよね。ジャストの時から、ジリジリ上がってきている。

編集 いよいよ大詰めですが、ラストはいったいどうなるんでしょう。

井上 それはもちろん秘密(笑)。いま準備中の24時13分でいっぺんに80人くらいドーンと出さなくちゃならない。そのために時間がかかっている。

西尾 80人はいないんじゃないですか。

井上 ……いないか。50数人ってところかな。

黒田 24時12分が終了した時点で、キャラは、99人全員登場しているんですか。

井上 いや、あと一人だけ、登場した途端に小説が終わっちゃうという、すごく可哀想なヤツがいる(笑)。

編集 24時12分に英語をしゃべる人物(「佐伯エマ」)が出てきましたけど、外国の人はその一人だけですね。

井上 現実として、いまの東京の地下鉄には、いろんな言葉を使う人がいなくちゃおかしいでしょう? 最初は、いろいろ考えたんですよ。いろんな国の人を登場させたいと思って。でも、外国人は母国語で考えなきゃおかしい。だからそのページは外国語で書かなきゃならない。表記上の問題もある。英語はまだしも、韓国語だとハングル文字でしょう。イランから来た人とかもいるだろうし。

編集 浅草あたりだとイラン人が出てこないと。

井上 そう、出てこないとおかしいでしょう。でも、そうするともう手がつけられなくなる。だから、これはほっかむりしちゃおう、連載途中で増えた駅もほっかむりしたことだし(笑)。だから、英語だけはとにかくとね。

編集 今度は、CD-ROM版の「99人」にとりかかることになりますが。

井上 CD-ROMだとたぶん読まれ方はずいぶん違うんじゃないかな。だから、そのあたりの工夫もあるといいね。

西尾 ウェブとはまた違って、新鮮に読めるための工夫というのを、ROMに関しては入れたいと思っているんですけどね。

黒田 連載中は、登場人物全員を1分毎に読んでいくのが普通だったじゃないですか。でも完全版が出たら、まず一人の人物だけを一気に最後まで読んでしまって、それから次の人物に、という読み方になっちゃいそうですね。そうなると、作品から受ける印象もずいぶん変わってくるような気がします。

井上 1分ずつを数日毎に読んでいるという読者、頑なにそれを守り続けている掲示板の常連がいる。あれはすごいなあ。「早くCD-ROMにしてくれ、絶対買いますから」という読者もいるわけで、そうすると、うーん、滅多なものはつくれない。

編集 電話線で読んでくださっている場合は、毎回ハードディスクに保存していない限り、早くCD-ROMにという方は多いでしょうね。

井上 一番トラブルが多かったのが、ショックウェーブだけどね。いまでも時々起きてるけど。

編集 表紙の時計ですか?

井上 いや、そうじゃなくて「西尾琢郎(仮名)」のところ。もともと「西尾(仮名)」はメタ・フィクション的な書き方をしているんですよ。つまり、彼の膝の上に置いてあるパソコンのなかに、この「99人の最終電車」が丸ごと入っているという設定になっていて、じゃあこのパソコンのスイッチを切るとどうなるんだという仕掛けです。あのページのなかにある「POWER OFF」をクリックすると、画面が真っ暗になってガシャガシャガシャといろんな文字が現れては消えゆく。もう一度クリックするとまたもとの画面に戻るわけなんだけど、あれはウェブ上ではなかなかうまくいかなくて、「うまくいかない、見えない」という文句が何度来ただろうね。ROMだともっといろいろ出来るんじゃないかと思うんだけれど。それと、ROMでちゃんとやらないといけないのは、MIDIの部分なんです。MIDIはマシンによって出力される音がまるで違ってきちゃうから。ROMでは生の音にして、メディアプレーヤーとかリアルプレーヤーで再生できるようにしたほうがいいと思ってます。

編集 環境に依存しない音声が出る?

西尾 でも、今みなさんがどういう音で聞いているのかって興味ありますよね。

井上 前にも言ったけど、MIDIをはずして聞いたら、ショボい音だったからねえ。

西尾 この間久しぶりに、談話室にあれをどうやって聞くんですかという質問が出てましたよね。MIDIを再生できるようにしてっていうアドバイスを井上さんに書いていただいたんですけど、ふと思ったのは、ひょっとしたらこの人はクリックするという動作をしていないんじゃないかという、そういうシンプルな疑問も後からわいてきて……。

井上 今は、ホームページへいくと、何もしなくても音が鳴ったりするからね。そう思ったのかもしれない。

西尾 だって、普通のウィンドウズ・パソコンを買ってきて、ブラウザを動かしていれば、押せば必ず音が出ますからね。

井上 「ここをクリック」とか、書かなくちゃいけないんだ。

西尾 いやですね、それは。

井上 いやだけど、でもしょうがないだろうね。だから、ROMをつくるときはまた何か工夫が必要かな。ただ、音には発声させるタイミングがあるから、やっぱり読んでいてそこまで来たところで聞いてほしい。自動的に鳴らすわけにはいかないんです。だから、最初はいろいろ考えたの。ホームのアナウンスとか車内アナウンスとかあるでしょう。あれってみな同じのが入っているんだけれど、書いているうちに面倒くさくなってくる。ペーストしていることが多いんだけど、同じアナウンスを違う風に聞いているキャラクターがいるんですね。そこのところがうまくいかない。あれを音で流してしまおうかなとフッと思ったこともあったけれど、そうするとやっぱりタイミングが狂ってしまう。

西尾 アナウンスとかは自然な形で挿入できれば、ほんとうはすごく臨場感が出ることは間違いないんですけどね。

井上 人の読む速度ってみな違うからね。

西尾 PCの場合、それをフィードバックする手段がないですからね。どこぞの一眼レフみたいに、視線入力できればいいけれど。

井上 それ、いいな。だったらいっそのこと、CD-ROMにはCAMも付けて(笑)。

西尾 その値段が本体の何十倍もしちゃいますよ(苦笑)。

井上 だから特別バージョンで。その場合には、音声入力もできるようにして、「次」とか言うとパッとページがめくれないといけないんだよ。

西尾 読み上げですね。読み上げだと、それこそリンクをどうするんだという問題がありますね。「ここ、リンク」と言われたら、もう……。

編集 「飛べ!」とか、「ここ、リンク!」と言った時点でもう興ざめです……何の話かわからなくなってしまった(笑)。

西尾 いや、それぐらいどういうふうにページをつくっていくかというのは悩むんですよ。いまだに悩むし、つくり始めたころはもっと悩んでいた。

井上 ただ、ROMだけ独立しているという考え方じゃなくて、クリックするとROMのなかからウェブ上の談話室へ飛ぶといったようなね。談話室が一種のコミュニティとなっているんですから、ああいう広場があるといいですね。

西尾 談話室の管理そのものは未来永劫(笑)、僕がやっても構わないんですけど、ある日突然、交通事故で僕が死んじゃうかもしれない。

井上 いつ事故に遭うの(笑)?

西尾 この間ちょっと事故りましたけど(笑)。

井上 以前は、21世紀の初めにROM発売だ、とか言ってた時期もあったのよ。20世紀のうちに、という時期もあった。

編集 「99人」だから、1999年の9月に出そうって話もあった。

井上 ご迷惑ばかりおかけして(笑)。

編集 あんなこんなの危機を乗り越えて、「99人」の連載は続いてきたわけですね。

井上 いつも危機だ(笑)。もう、最初から危機だったもの。危機一髪なんてもんじゃない、危機99発(笑)。

編集 人に歴史ありみたいなもので、99人分の歴史がある。

西尾 僕も6年もやっていると、ほんとうに終わるということが信じられない、という気持ちがありますね。

編集 でも、ほんとうにお尻が、結末が見えてきた。

井上 見えてはいるんですけどね。よくあるでしょう、砂漠でオアシスが見えたけど……。

西尾 幻かもしれない(笑)。

井上 でもねえ、「99人」を始めたとき、まだやっぱり作家の余技みたいに見られていたんだよ。余技で6年もやれるかよー!(笑) こんなに真剣にやってるのにと思いながらも、下手するとほんとうにライフワークになっちゃうんじゃないだろうかと、途中で心配になったものね(笑)。

黒田 しかし、とうとうこの8月ぐらいにはめでたく……。

井上 オアシスが見えた、もうこっちに進んでいけばいいんだ、そういう状態だとお考えいただければ(笑)。

(おわり)


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