『解説』 ―― 千街晶之  
 
 
 評論家として文庫解説の任を引き受ける際などによく思うのだが、傑作というものにもどうやら二種類あるようなのである。ひとつは、一生懸命立派な解説を書いて、この本を多くの人が手に取るように仕向けたい、とこちらが燃え立つような傑作。もうひとつは、この作品には解説など必要ない、下手な文章で飾るよりは、ただテキストのみを味読してもらうに及(し)くはなし、と痛感させられる傑作。
 これは別にいずれが優れているかといったような問題ではなく、単に私個人のテキストに対する勝手な感想にすぎないとまず断っておくが、その上で敢えて言うなら本書『プラスティック』こそ、まさに後者の代表に当たる傑作なのである。賢 (さか)しらな考察も、屋上屋を架すが如き賛辞も一切不要。ましてや粗筋紹介などとんでもない。「評論家泣かせの小説」とは、こういう作品のために用意されている言葉なのだろう。
 しかし、そこで引っ込んで終わりという訳には行かないのが解説者の責務だから、先にこの解説から目を通している読者諸氏にお願いしたいのだが、この解説文を読むのは一旦中止して、まず本文をじっくり読んでほしい。この先にあるのは、言わでもの分析、書かでもの説明なのだから、読み終えた後でこの解説に戻って来なければならぬ必然はつゆ存在しないけれども。
 なお、ここから先の文章で、私はこの小説の仕掛けに触れるつもりである。
従って、くどいようだが読者諸氏は是非とも本文から先に読んでいただきたい。
 

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(一九九八年八月、ミステリ評論家)