ホーム > 書籍詳細:1Q84 BOOK1〈4月-6月〉前編

Qへの階段。見かけにだまされないように。現実というのは常にひとつきりです――。ここは1Q84年、謎に満ちた物語が降りてくる世界。

1Q84 BOOK1〈4月-6月〉前編

村上春樹/著

637円(税込)

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発売日:2012/04/01

読み仮名 イチキュウハチヨンブックワンシガツロクガツゼンペン
シリーズ名 新潮文庫
発行形態 文庫
判型 新潮文庫
ISBN 978-4-10-100159-3
C-CODE 0193
整理番号 む-5-27
ジャンル 文芸作品
定価 637円

1Q84年──私はこの新しい世界をそのように呼ぶことにしよう、青豆はそう決めた。Qはquestion markのQだ。疑問を背負ったもの。彼女は歩きながら一人で肯いた。好もうが好むまいが、私は今この「1Q84年」に身を置いている。私の知っていた1984年はもうどこにも存在しない。……ヤナーチェックの『シンフォニエッタ』に導かれて、主人公・青豆と天吾の不思議な物語がはじまる。

著者プロフィール

村上春樹 ムラカミ・ハルキ

1949(昭和24)年、京都市生まれ。早稲田大学第一文学部卒業。1979年『風の歌を聴け』(群像新人文学賞)でデビュー。主な長編小説に、『羊をめぐる冒険』(野間文芸新人賞)、『世界の終りとハードボイルド・ワンダーランド』(谷崎潤一郎賞)、『ノルウェイの森』、『国境の南、太陽の西』、『ねじまき鳥クロニクル』(読売文学賞)、『海辺のカフカ』、『アフターダーク』、『1Q84』(毎日出版文化賞)がある。『神の子どもたちはみな踊る』、『東京奇譚集』などの短編小説集、エッセイ集、紀行文、翻訳書など著書多数。海外での文学賞受賞も多く、2006(平成18)年フランツ・カフカ賞、フランク・オコナー国際短編賞、2009年エルサレム賞、2011年カタルーニャ国際賞、 2016年アンデルセン文学賞を受賞。

書評

僕が新宿中村屋にカレーを食べに行ったわけ

又吉直樹

 書店で働く友人が、「詳しくはわからへんけど、村上春樹の新作が出るらしい」と教えてくれたのは2009年の春。売場の平台を大きく空けて用意しているというし、やっぱり出るというウワサは本当だったのかと思いました。その頃の僕は毎日、新宿・渋谷のすべての本屋を巡るみたいな生活でしたから、大好きな村上さんの新作が読めると思って、幸福感というか、ほんまに嬉しかったですね。もちろん出てすぐに『1Q84』BOOK1・2を買いました。必ず貸してくれというやつがいると思って2セット買っときました。もともと村上春樹さんの本は古本屋や新古書店になかなか出ないんです。僕もそうですけど、みんな大事に本棚に入れてるからやと思う。今度の文庫はBOOK3まで出るので、一気に読み直そうと思っています。
 大好きな作家の本って、一行目からわくわくしますよね。『1Q84』の場合は、もう本を開く瞬間から楽しいって感じでした。僕は村上さんの小説は『風の歌を聴け』から読み始めて、『海辺のカフカ』(2002年)、『アフター・ダーク』(2004年)まで、すべて読んでいました。だから、次に出る本が本当に待ち遠しかったんです。実はお笑いのネタにもしてまして……。2003年に作った「野球少年とサラリーマン」というネタは、野球少年役の僕が村上春樹さんの小説の話をひたすらしまくって、最後に「今から次回作が楽しみやねん」と言い、相方が「いったい何の話や」とつっこむ。今でもたまにやるんですけど、野球少年が語る最新作が次々と変わり、今は『1Q84』になってますね。
 小説の冒頭に首都高速で渋滞するシーンがありますが、これから何かが始まるんだという予兆に満ちていて、めっちゃ興奮しました。リズムが良くて、どんどん入り込んでいく感じがたまりません。
 僕はけっこう天吾に感情移入して読んでましたから、彼が新宿中村屋のレストランで可愛い少女ふかえりとはじめて会うシーンはすごく印象的です。『1Q84』を読んだ後、すぐに中村屋に行きました。カレーが有名な店だし、カレー好きとしても前から行きたい店やったんです。席に座ると、久しぶりに会うらしい親子と隣り合わせになりました。30代の息子と60代の母親です。カレーを食べながら、「美味しいね、このカレー」と息子が何度も言い、そのたびに母親が「こんなに辛かったかねえ」と繰り返し答える。それが何だか可笑しくて……。『1Q84』を読んだおかげで、この親子に会えたんかなと妙に感動しましたね。
 中村屋にすぐ行ってしまったように、僕は小説の中で天吾とふかえりが気になって仕方がないんです。17歳のこの女の子の話をもっと知りたい、この子がもっと小説の中に出て来てほしい……。たどたどしい話し方など、とにかく存在感がある。登場人物に思い入れをして読めるというのは、小説の醍醐味だと思います。
 天吾には、どこか自分のことが書かれているような気がしました。小説を書き換えるという怖しいことに直面させられる作家志望の男の葛藤、人間の根底にある魂を売り渡すかどうかのぎりぎりの決断――。自分ならどうするやろか、と思って読んでました。これで飯食っていけるかどうかで葛藤している、芸人のような世界に生きる人間の心理と似てるんですよ。なんで村上春樹さんに、その感覚がわかるんやろうと思って。
 それから、『1Q84』には人間の世界では説明できないリトル・ピープルというのが出てきます。すごく面白いですね。僕は父が沖縄で母は奄美大島出身なんですよ。沖縄ではすべてのものに神様がいるし、死者との距離も近い。僕が墓参りに行く時は、村のユタに連絡して、「明日、又吉家の長男が墓参りに来るのでお願いします」と山の神様に伝えてもらったりするんです。子どもの頃からそういう話を聞いて育ったので、『1Q84』のリトル・ピープルも驚かずに感受できました。この世のものではない何かは、境界線というか、街とか人の端っこに出てくるものだから。
 とにかく、まだ読んでいない人がいるなら、「今読んだほうがいい」と言いたいですね。『ノルウェイの森』の中で、時の洗礼を受けていないものは読んでも意味がないと語る人物が出てきましたが、僕はこの本は、今この時代に読むことに大きな意味があると思います。物語の中にでてきた音楽を聴こうとか、引用された小説を読もうとか、新宿中村屋に行ってみようとか、僕たちに別の世界への扉を開いてくれる小説だと思っています。

(またよし・なおき 芸人)
波 2012年4月号より
(談話をもとに編集部で構成しました)

青豆とその時代

 村上春樹さんの長編小説は、私をいつもわくわくさせてくれます。『ねじまき鳥クロニクル』全3巻を読んだのは仕事で訪れたロンドン。読み始めたら止まらなくて、撮影の合間はもちろん、ホテルのお風呂でも読み続け、2日で一気に読んでしまった記憶があります。夏目漱石の小説もそうですが、村上さんの小説は海外で読むと、とてもしっくり来る感じがするんです。『ノルウェイの森』はヨーロッパに向かう飛行機の中で夢中で読みました。読んでいる最中に、機内のモニターにNorwayの地図が現われた時は、小説の世界とシンクロしているような気持ちになりました。
 2009年5月に『1Q84』が出た時は東京にいて、とにかく出版が待ちきれなくて、発売後すぐに読み始めました。私はJ-WAVEでBOOK BARという本の紹介番組をやっているのですが、リスナーからの反応がすごくビビッドで驚いたのを覚えています。ランキングではずっと1位で、文学が起こすムーヴメントを初めてリアルタイムで感じました。カフェで『1Q84』を読んでいると隣りの人も読んでいたり、電車でも読んでいる人をたくさん見かけたり、社会的な広がりを感じたというか、一冊の本についてみんなで語り合って楽しめることが、私のような本好きにとってすごく嬉しいなと思いました。たとえば1Q84がIQ(アイキュー)84に読めたり、他の言語ではどう発音するのかとか……。いま気がつきましたけどQを小文字のqにすると、「1q84」で、9とqは似ていますから英語圏でも通じますね。こんな風にタイトルでも、語り合う楽しみがある小説ってすごいと思う。
 私は15歳まで世田谷区の三軒茶屋に住んでいて、青山までバス通学していましたから、小説の冒頭に出てくる三軒茶屋付近の風景を想像しながら、一気に『1Q84』の世界に入り込んでしまいました。いまでも、実際にその場所に行ったら、「Qの世界」に行っちゃいそうで怖いです(笑)。
 気になる登場人物は、やはり青豆です。村上ファンの方にはおこられてしまうかもしれないけど、友だちからは「杏ちゃん、青豆っぽいよね」とか「似てるね」とか何度か言われました。主人公としてとても魅力的だと思います。ベージュのスプリング・コートとかグリーンのウールのスーツとか、服装がていねいに描写されていて、見た目がすぐ浮かびます。映像化したら、いったいどうなるのだろうと想像しながら読んでいました。もう一つの小説の軸である天吾の章には謎の少女ふかえりが出てきますが、どうしても青豆が強烈で、圧倒的な迫力がありますね。『1Q84』が映画になるなら、ぜったい「青豆」をやってみたい。そのためには、ヤナーチェックを聴きながら筋トレやったり、拳銃を練習したり、いろいろ頑張らなきゃいけませんね。ハードボイルドだけど、きれいな映像になるだろうし、めちゃくちゃかっこいい映画になると思っています。二つの月も見てみたいし……。
 青豆以外では、麻布の老婦人のボディガード・タマルがいいですね。硬派だけれど物静かでチェーホフを愛読するタフな男。BOOK3に、「腎臓を潰されると一生痛みを引きずることになる」とタマルが相手を脅かす冷酷なシーンがあります。この描写は、私自身が腎臓を痛めたことがあるので妙にリアルで印象的でした。小説的には牛河を忘れてはいけませんが、なぜかタマルは気になるんです。
 青豆がすべり台のある夜の公園を見つめ、月を見上げるシーン。その場面まで読み進んで行くと、青豆と天吾は、1Q84年の世界でもう一度めぐり逢って幸せになってほしいと願わずにはいられません。物語にピリオドを打たない終わり方も素敵だと思いますが、明かされない謎もあるし、BOOK4があると嬉しいなと個人的には思っています。
 この小説に出会って、自分の生きている世界って確証があって成立している訳じゃないんだなという感覚を持つことができました。あるかもしれないし、ないかもしれない世界……。『1Q84』を読んでいる時には、私はよく夢を見ました。「想像しうることはすべて現実に起きうることだ」という科学者の言葉がありますが、どこかにパラレルワールドとか枝分かれした宇宙ってあるのかもしれないと思える、そんな世界を文章で構築した村上春樹さんはすごいと思います。
 なんで自分は存在しているのかと疑問を持ったり、現実の社会を見つめ直すには、少しだけ過去の「1984年の物語」のほうがいいのかもしれませんね。身近でとてもリアリティがあります。1986年生まれの私が知らない東京、青豆が生きる1984年の魔都・東京は、何が起こっても不思議ではない時代だったのでしょうか。

(あん モデル・女優)
波 2012年4月号より
(談話をもとに編集部で構成しました)

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