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生誕100年記念出版。文豪へと至る才気と野心の原点がここに。

地図―初期作品集―

太宰治/著

594円(税込)

本の仕様

発売日:2009/05/01

読み仮名 チズショキサクヒンシュウ
シリーズ名 新潮文庫
発行形態 文庫
判型 新潮文庫
ISBN 978-4-10-100618-5
C-CODE 0193
整理番号 た-2-18
ジャンル 文芸作品
定価 594円

石垣島制圧に沸く琉球国を、祝賀のため訪れた蘭人たち。彼らが献上した軸物を見るや国王はたちまち顔面蒼白になった……。表題作「地図」をはじめ、「怪談」「花火」など同人誌等掲載の初期作品を通して、中学生津島修治から作家太宰治誕生までのドラマを読む特別篇。後年、太宰の筆と確認された「断崖の錯覚」や、文庫初収録の「貨幣」「律子と貞子」など文豪への出発点を刻印する作品群。

著者プロフィール

太宰治 ダザイ・オサム

(1909-1948)青森県金木村(現・五所川原市金木町)生れ。本名は津島修治。東大仏文科中退。在学中、非合法運動に関係するが、脱落。酒場の女性と鎌倉の小動崎で心中をはかり、ひとり助かる。1935(昭和10)年、「逆行」が、第1回芥川賞の次席となり、翌年、第一創作集『晩年』を刊行。この頃、パビナール中毒に悩む。1939年、井伏鱒二の世話で石原美知子と結婚、平静をえて「富嶽百景」など多くの佳作を書く。戦後、『斜陽』などで流行作家となるが、『人間失格』を残し山崎富栄と玉川上水で入水自殺。

書評

波 2009年5月号より 「資料」から「新作」へ

重松清

〈恥じて下さい〉と言う。〈人間ならば恥じて下さい〉と訴える。〈恥じるというのは人間だけにある感情ですから〉
どきん、とした。本書所収の『貨幣』を読んでいるときのことだ。全二十八編の中から、学生時代に一度読んだことがあるというご縁を頼りに、ウォーミングアップ気分で最初に『貨幣』の頁を開いたのである。
語り手は、古い百円紙幣。貨幣は女性名詞だとエピグラフにあるとおり、太宰はおなじみの女語りで百円紙幣の有為転変を綴っていく。
〈ちかいうちには、モダンな型の紙幣が出て、私たち旧式の紙幣は皆焼かれてしまうのだとかいう噂も聞きましたが、もうこんな、生きているのだか、死んでいるのだか、わからないような気持でいるよりは、いっそさっぱり焼かれてしまって昇天しとうございます〉
この作品、昭和二十一年二月に雑誌初出だから、翌年に連載が始まった長編『斜陽』に先立つ存在である。本作を以前に読んだというのも、『斜陽』の参考文献として全集版で目を通したのだが、そのときには「なるほど、たしかに『斜陽』と通じ合うものがあるな」と納得はしても、胸がどきどきと高鳴ったりはしなかったはずなのだ。
なぜだろう……と怪訝に思って、ほかの作品もぱらぱらと拾い読みしているうちに気づいた。
「初期作品集」と銘打たれた本書には太宰の本格的な作家デビュー前の作品も多数収められている。いくつかはすでに読んだことがあったが、当然ながら、そのときは全集でのお付き合いだった。で、不器用なことに、というか、情けないことに、というか、少なくとも僕は、全集というしかつめらしい本のつくりにどうしても身がまえてしまうのだ。いわば勉強モードである。『貨幣』を読んだときも、『斜陽』との関連ということしか考えていなかった。頭でっかちだ。これでは胸がどきんとするわけもない。
ところが、文庫というハンディな器に移し替えられたことで、作品の性格が変わる。全集の中では「資料」の色合いが濃かった若書きの作品群が、文庫になると急に現役の面白さを放ちはじめる。すでに全集で読んでいた作品も、文庫になるとたちまち「新作」としての鮮度を見せてくれる。もちろん、なにしろデビュー前の作品も含まれているのだから、『走れメロス』や『人間失格』『晩年』といった文庫版のロングセラーと同じ土俵にのぼってしまうと、いささか分が悪いかもしれない。「ちょっとイタいな……」と苦笑してしまう出来映えのものも、まったくない、というわけではない。だが、そういった出来不出来も含めて、次はどんな作品だろう、面白いといいけどなあ、と頁をめくることこそが、読書のなによりの愉しみのはずなのだ。
だから、僕も途中からは本書に向き合う姿勢をあらためた。これは「資料」じゃないんだ、中学生のお小遣いでも買える文庫なんだ、ってことはオレの本の商売ガタキじゃないか。机に向かってではなく、ソファーに寝ころんで読んだ。電車の中で読んだ。ラーメンを食べながら読んだ。それが僕なりの文庫本に対する礼儀である。
そうすると、たとえば『角力』『犠牲』『哄笑に至る』『瘤』などはどうだ。全集で読んだときには、「兄弟のそれぞれに弱さとずるさを振り分けている。やがて太宰は、それを『私』に統合して、弱くてずるい、という人物像を好んで描くようになる」という構図ばかり考えていたのに、今回の再読ではただひたすら夢中になって読みふけった。みずみずしかった。せつなかった。太宰治論のための「資料」の価値を超えて、太宰の「新作」として、少年小説の「新作」として、単純に、純粋に、好きになった。
胸の高鳴りが何重にもかさなって響く。この小文を書いているいまも消えていない。この歳になって太宰の「新作」に出会えるなんて思わなかったなあ、と素直に頬がゆるむ。とんでもなく強烈な商売ガタキ、あらわる。負けて悔いなし。これもまた滅びの美学というやつなのである。違うな。

(しげまつ・きよし 作家)

目次

最後の太閤
戯曲 虚勢
角力
犠牲
地図
負けぎらいト敗北ト
私のシゴト
針医の圭樹

将軍
哄笑に至る
口紅
モナコ小景
怪談
掌劇 名君
股をくぐる
彼等と其のいとしき母
此の夫婦
鈴打
哀蚊
花火
虎徹宵話
  *
断崖の錯覚
あさましきもの
律子と貞子
赤心
貨幣
  *
洋之助の気焔
解説 曾根博義

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