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情報に命を賭けた戦士たち。現代日本をも操る諜報の水脈。

秘録 陸軍中野学校

畠山清行/著、保阪正康/編

961円(税込)

本の仕様

発売日:2003/08/01

読み仮名 ヒロクリクグンナカノガッコウ
シリーズ名 新潮文庫
発行形態 文庫
判型 新潮文庫
ISBN 978-4-10-115521-0
C-CODE 0121
整理番号 は-35-1
ジャンル 文学・評論、軍事、思想・社会、日本史
定価 961円

「謀略は『誠』なり」──欧米諸国に対して情報戦に出遅れた日本は、昭和十三年、秘密裏に工作員養成機関「陸軍中野学校」を誕生させた。軍部の因習から離れた合理的、開明的な教育は、敗戦までの僅かな間に驚嘆すべき成果を挙げるが……。諜報とは何か、謀略とは何か。出身者たちの活躍と失敗を徹底的に追いながら、戦争の裏面と工作員の実態に迫った傑作ノンフィクション作品。

著者プロフィール

畠山清行 ハタケヤマ・セイコウ

(1905-1991)北海道石狩町生れ。本名きよつら(「せいこう」は筆名)。青年時代にアナーキスト運動に参加するなどしたのちに、文筆の世界に入り、戦後初期には出版社も経営。主に実録作品の分野に健筆を揮った。著書に『秘録 陸軍中野学校』を含めた中野学校シリーズの他、『東京兵団』『キャノン機関』『日本の埋蔵金』『足もとにあるかもしれない宝の話』などがある。

保阪正康 ホサカ・マサヤス

1939(昭和14)年、北海道生れ。同志社大学文学部卒業後、編集者などを経てノンフィクション作家に。『昭和史七つの謎』『昭和陸軍の研究』『医療崩壊』『愛する人を喪ったあなたへ』『あの戦争は何だったのか』『田中角栄の昭和』『真説 光クラブ事件』「昭和史の大河を往く」シリーズなど著書多数。とくに昭和史、医療問題に関する作品に定評がある。

インタビュー/対談/エッセイ

波 2003年8月号より 秘密戦士たちの昭和史  畠山清行著 保阪正康編『秘録 陸軍中野学校』

保阪正康

 昭和史には幾つかの不透明、不鮮明な部分があるのだが、そのひとつに陸軍中野学校の存在を挙げていいだろう。スパイ養成学校といわれて「007シリーズ」まがいの工作員を養成したのだとか、謀略のために殺人も厭わないという巷説も流布している。
昭和二十年八月から二十七年四月までの占領を受けていた期間、とくに占領前期には帝銀事件、下山事件、松川事件など犯人が明確に特定されない怪事件も起こっているが、これにも中野学校出身者が噛んでいるとの説を吐く論者もいる。私自身、この三十年余、昭和史の史実を確認するために、四千人近くの人に会ってきたが、昭和五十年代に陸軍の将官を取材した折りに要点を聞き終え、雑談を交していると、その九十歳近い老人が「私は君のことを知らないので調べさせてもらったよ」と言い、そのころの私の五日間ほどの動きや家族のこと、それに仕事のことなどを正確に口にするのに驚いたものだ。陸軍中野学校とかかわった時期があり、その調査網は今も生きていると洩らしていた。
陸軍中野学校は、昭和十三年七月に「後方勤務要員養成所」として密かに発足している。初代所長となる秋草俊、幹事となる福本亀治、それに当時参謀本部第八課(謀略・諜報)に属していた岩畔豪雄の三人の中佐が、熱心に陸軍首脳に働きかけてつくりあげた工作員養成機関であった。彼らは、日本陸軍の情報工作や謀略活動が欧米列強に比べて極端に遅れていることに焦立っていたし、日中戦争泥沼化の一因は、情報収集、分析の弱さにあるとも実感していたのである。
この養成所は、その後陸軍中野学校と称するのだが、それは東京・中野にあった電信隊跡に校舎が建てられたからだ。この学校に入学を許されたのは下士官、一般兵士、それに予備士官学校の卒業生のなかから選ばれた特異な才能をもつ者たちだったのだが、短時間に語学の修得ができる者、どのような状況にあっても決して弱音を吐かず任務に没頭できる者、自らが民間人に化けたり、相手国の人物になりすましたりと自在に変装できる才をもつ者などユニークな人物が多かったという。加えてその教育内容も他の陸軍内部の教育機関と異なって自由であり、天皇の名がでても冷めたポーズをとるとか、ときには反天皇の言動をとるよう要求されたりもしたのである。
中野学校では、学生たちが民間人と同じ背広姿で出入りするために、軍の教育機関とは思われなかったほどだ。彼らは、「秘密戦」の戦士としての自覚をもつよう促され、その範は日露戦争の折りにヨーロッパでロシア弱体化のためにレーニンの革命運動を支援した明石元二郎大佐の謀略工作にあるとされた。
この中野学校は、敗戦時までの七年余の期間に二千人余の卒業生を輩出している。彼らの大半は、中国各地で、東南アジア全域で、そして日本国内でさまざまな情報工作や謀略活動を行った。彼らが具体的にどのような工作や活動を行ったかは、現在に至るもそのすべてをつかむことはできない。“マレーの虎”と恐れられたハリマオを日本軍に協力させ、太平洋戦争当初のマレー作戦を成功させた藤原機関(機関長・藤原岩市)やインド兵の反乱工作を画策した岩畔機関(機関長・岩畔豪雄)、ビルマの反英工作を担った南機関(機関長・鈴木敬司)などは、中野学校出身者の工作が表面化した例として語られているにすぎない。
なかには秘密戦の戦士として、商人や商社員に化けて謀略活動を行い、そのまま戦地で死亡して民間人扱いになっている者とて少なくないといわれているほどだ。
こうした中野学校卒業生の工作や活動を、第三者の目で描こうとしたのが、作家畠山清行氏(一九○五―一九九一)である。畠山氏は、昭和三十年代から四十年代にかけて卒業生多数に会い、一連の「陸軍中野学校もの」を書いている。このなかから二十八編を選び、このほど新潮文庫から刊行されることになった。
私は編者として、畠山氏の作品のほとんどに目を通したのだが、三十年余りを経て未だその内容の生命力の強さと持続力に驚いた。陸軍中野学校に関しては、確かにこの作家はそのエネルギーのすべてをつぎこんでいた。前述のある将官が、「中野の秘密工作は永久にわからんよ」とつぶやいたが、そのベールは畠山作品をスタートにして外していくべきだとの思いももった。名もなく逝った秘密戦士の存在を昭和史のなかに正確に位置づけるときは遅まきながら、現在ではないかと実感したからである。

(ほさか・まさやす ノンフィクション作家)

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