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失敗ばかりのダメ社員がヒット連発の“神様”に!
実在の名物サラリーマンを描く快作。

組織に埋れず

高杉良/著

724円(税込)

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発売日:2017/05/01

読み仮名 ソシキニウモレズ
装幀 井筒啓之/カバー装画、新潮社装幀室/デザイン
発行形態 文庫
判型 新潮文庫
ISBN 978-4-10-130335-2
C-CODE 0193
整理番号 た-52-25
ジャンル 文芸作品
定価 724円

添乗員時代、ツアー客の航空券を忘れる大失態に辞職も考えたJTBの“ずっこけ若手社員”大東敏治。「仕事上の失敗は仕事で返すしかない」。心機一転、OB人脈や顧客の何気ないひと言からヒントをつかみ、前例のない新商品を生み出していく。年金ツアー、積立旅行、デパート共通商品券……。思考停止とマンネリを嫌い、つねに新しい仕事を楽しんだ実在のヒットメーカーの胸のすく半生を描く快作。

著者プロフィール

高杉良 タカスギ・リョウ

1939(昭和14)年、東京生れ。化学専門紙記者、編集長を経て、1975年「虚構の城」で作家デビュー。以来、経済界全般にわたって材を得て、綿密な取材に裏打ちされた問題作、話題作を次々に発表している。主な作品に『小説 日本興業銀行』『労働貴族』『広報室沈黙す』『燃ゆるとき』『王国の崩壊』『金融腐蝕列島』『不撓不屈』『乱気流』『挑戦 巨大外資』『反乱する管理職』『青年社長』『破戒者たち』『人事の嵐』『第四権力』『小説ヤマト運輸』『めぐみ園の夏』等がある。

書評

失敗ばかりの社員が大ヒットメーカーに

中沢孝夫

「仕事上の失敗は仕事で返すしかない」という言葉が出てくるが本当だ。ビジネスパーソンなら誰でも覚えがあろう。何度思い出しても「豆腐の角に頭をぶつけて死んでしまいたい」気分になる失敗があるものだ。
 本書の主人公・大東敏治もその典型だ。詳しくは本書を読んで欲しい。例えば預かったお客のパスポートをホテルに預けたまま失念。あるいはお客に航空券を渡さずに先に別の場所に移動してしまったことなど、信じられない失敗をしている。しかし主人公は、その後、年金ツアーという、団体旅行の一時代を画するようなアイデアや、金利の高い積み立て旅行など、JTBの社史を飾る、大ホームランをいくつもかっ飛ばした。むろんその他、さまざまなヒットを打っている。
 どのような職場で働いても経験することだが、ヒットになるまでの苦労はある。しかしその苦労こそが仕事の醍醐味であることは、あとになると分かるものだ。
 言うまでもなく、人材をどう育てるかが企業経営の要諦だが、実はそれが最も難しい。どの会社も悩むのはそのことである。人には「個性」があり、鋳型にはめ込むような人事では才能は伸びない。しかし組織というのは、ルールと公平感があって初めて成り立つ。そして人々にはなによりも「感情」がある。
「感情論」という言葉がある。一般的にはいささかレベルが低い「論」と思われているが、そうではない。もっとも強い「論」なのである。特に「好き」「嫌い」は決定的である。会社が失敗する人事はほとんどが「好き嫌い」が原因であると言ってよい。本書にも読者が「ウン、ウン」と相槌を打ちたくなる職場の人間模様がたくさん出てくる。
 経営環境・社会的条件は同じなのに、同業であっても、伸びる会社と伸びない会社の違いはどこで決まってくるのだろう。評者(中沢)の印象では、会社の風土として、個性をもった人間が「勝手に育つ」余地があるかどうかが大きい。それは会社内のさまざまな個人の発案した「情報(企画)」が、コーディネートされる仕組みのよさ、といってもよい。本書の主人公・大東敏治の商品開発のプロセスがその典型である。これまでになかった「旅行商品」(企画)を構想し、法律や金融などの隘路を丹念に調べ、実現にもっていくには、ある程度、個人が自由に動く空間が必要だ。つまり「組織に埋れず」だ。
 大東は世界最大のマンモス旅行会社・JTB(日本交通公社)の社員であるが、入社は昭和四十七年(一九七二年)。海外渡航者の外貨持ち出し制限が撤廃されたのはこの年の十一月だった。庶民が団体旅行を中心とした海外旅行を始めた初期である。日本が七三年から七四年の第一次オイルショックを経て、安定成長の時代へと移行した時期でもある。そのころの大東の「雑巾がけの時代」としての添乗員としての苦労は、本書を読んで知って欲しい。身勝手で無理を言うお客。そして添乗員自身の信じられないような失敗。それは読者の経験と重なるはずだ。
 そうした大東が二十年後(一九九三年)に「週刊東洋経済」に寄稿した小論文「大企業の社員よ目を覚ませ」は出色だ。それは仲間の企業を作り、グループ企業間で優先的取引を行い、ポストをたらい回しにする。その結果、いつのまにか低品質・低収益の構造をもたらし、組織を弱体化させることになるという大企業の宿痾である。いわゆる「失われた二十年」は、大企業にとって「宿痾」の垢落としの時代であったといってよい。九三年の段階でこれを執筆した主人公の先見性は出色だ。そして社員の外部寄稿を許容した会社もよい。
 経済小説の第一人者である高杉良の小説は、大きく分けると、消費者金融の経営者や、日産の労働組合のボスなど、徹底した「悪」を描いた小説と、働くことによって顧客と企業の健全な発展に資することに汗を流した人物の物語の二つの流れがあるが、本書はむろん後者である。ビジネスパーソンが新しい領域に取り組む勇気が求められている今日にマッチした感動の一冊である。

(なかざわ・たかお 福山大学教授)
波 2017年5月号より

目次

第一章 神戸・本山南中学校で
第二章 添乗員失格
第三章 軒職希望
第四章 如水会・欧州旅行
第五章 二人だけの結婚式
第六章 年金ツアー
第七章 回想 放浪旅行
第八章 “積み立て旅行”
第九章 デパート共通商品券
第十章 初めての部下
第十一章 七年がかりの大事業
第十二章 開発つきることなし
新潮文庫版あとがき

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