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善人長屋

西條奈加/著

781円(税込)

発売日:2012/09/28

  • 文庫
  • 電子書籍あり

善人ひとりに、凄腕の悪党たちが大わらわ! 痛快! 人情滴る本格時代小説。

善い人ばかりが住むと評判の長屋に、ひょんなことから錠前職人の加助が住み始めた。実は長屋の住人は、裏稼業を持つ“悪党”たち。差配の儀右衛門は盗品を捌く窩主買(けいずか)い。髪結い床の半造は情報屋(ねたもと)。唐吉、文吉兄弟は美人局(つつもたせ)。根っからの善人で人助けが生き甲斐の加助が面倒を持ち込むたびに、悪党たちは裏稼業の凄腕を活かし、しぶしぶ事の解決に手を貸すが……。人情時代小説の傑作!

  • テレビ化
    善人長屋(2023年12月再放映)
  • テレビ化
    BS時代劇「善人長屋」(2022年7月放映)
目次
善人長屋
泥棒簪
抜けずの刀
嘘つき紅
源平蛍
犀の子守歌
冬の蝉
夜叉坊主の代之吉
野州屋の蔵
解説 末國善己

書誌情報

読み仮名 ゼンニンナガヤ
シリーズ名 新潮文庫
発行形態 文庫、電子書籍
判型 新潮文庫
頁数 384ページ
ISBN 978-4-10-135774-4
C-CODE 0193
整理番号 さ-64-4
ジャンル 歴史・時代小説
定価 781円
電子書籍 価格 693円
電子書籍 配信開始日 2013/09/13

書評

心安らぐ時間

高島礼子

 デビューしたての頃、先輩方に「時間があったら映画を観て、本を読みなさい」とアドバイスをいただき、撮影の合間に本を読むようになりました。当時はアガサ・クリスティなど海外翻訳ミステリを好んでいたのですが、仕事が忙しくなるにつれ、「あの台詞を覚えなきゃ」などと役のことを考えて読書に集中できなくなり、自然と遠のいてしまいました。
 それが数年前、空き時間にスマートフォンばかり触っていた自分にハッとしました。「スマホ依存だ。離れよう」。というわけで再び本を手に取るように。年齢を重ねるにつれて、気持ちの切り替えが上手になったのか、撮影時間になれば「さあ、次のシーンにいくぞ」と挑めるようになりました。
 西條奈加さんの『善人長屋』は昨年、NHKドラマに出演させていただきました。

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 西條さんとは雑誌の対談で初めてお目にかかりました。偶然にも年齢が一緒で話が弾み、ご著書を拝読しようと思っていたところに、ドラマのお話をいただいたのです。
 私が演じたのは、主人公お縫の母親・お俊。原作では大変色っぽい女性と描かれていますが……。実は、色香を芝居で出してと言われても難しいのです。手や目の動きでの表現は色々と教えていただきましたが、やはり内面から滲み出るものですから。後から伺った話ですが、対談をした際に西條さんが、私を「お俊のような人だ」と考えていらして、私が配役されたと聞いて喜んでくださったとのこと。色気は出ていた、と思いましょう。
『善人長屋』は設定が素晴らしいです。長屋の住人が全員悪党で、その裏稼業の腕を活かして人助けをする。悪が善を為す。善も悪も孕んでいるのが人間だということを非常に細やかに描いていらして、気持ちが良い。登場人物は全員悪者ですが、情に篤いので、心が温まります。
 原作のあるドラマの出演依頼がきたときには、まず脚本を読みます。原作を先に拝読すると、役に対して固定観念ができてしまい、現場で齟齬が生じることがあるのです。しかし『精霊の守り人』は原作を先に読みました。

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 監督が尊敬する片岡敬司さんと伺い、「通行人でもいいから出たい」と頼み込むと、「二百歳のお婆さんでもいいですか」。なんだかよくわかりませんでしたが、「とにかく出ます」。それがトロガイだったのです。引き受けたものの、二百歳? 何? と疑問ばかりでしたので、先に原作を拝読しました。
「バルサ、かっこいいなあ」。これが率直な感想でした。上橋菜穂子先生のアクション描写は素晴らしく、光景がありありと目に浮かびました。主人公バルサは恵まれない生い立ちのなか、腕一つで人生を切り開き、王子チャグムもまた背負わされた運命に流されずに自分の足で立つ。心に鎧を着て、ではありませんが、弱さに負けず這い上がる強さに勇気づけられました。
 出生数の多かった私の世代は、集団の中で秀でるには努力あるのみ。指を咥えて待っていてもチャンスは来ないのです。自分の来し方と重ね合わせてバルサに感情移入をし、これからも努力し続ける力を貰いました。
 とはいえ、いつも頑張り続けることはできませんので、心安らぐ時間は必要です。澤田瞳子さんの『名残の花』は心が洗われました。

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 明治維新で時代に取り残された、元南町奉行の鳥居耀蔵は、頑固で皮肉屋でとっつきにくいのですが、若き能役者の豊太郎と出会うことによって変わっていく。今の時代にも通じるものがあると思うのです。時代の移り変わりについていけない方を笑う人間にはなりたくない。古い風習にしがみついて、辛い気持ちを抱えて生きている人に寄り添う人間になりたいと強く感じました。
 タイトルの「名残」が読了後に胸に染み渡る素晴らしい作品でした。この二人の物語の続きが読みたいので、澤田さん、是非お書きになってください。

(たかしま・れいこ 女優)
波 2023年3月号より

著者プロフィール

西條奈加

サイジョウ・ナカ

1964(昭和39)年、北海道生れ。都内英語専門学校卒業。2005(平成17)年、『金春屋ゴメス』で日本ファンタジーノベル大賞を受賞。2012年『涅槃の雪』で中山義秀文学賞、2015年『まるまるの毬』で吉川英治文学新人賞、2021(令和3)年『心淋し川』で直木賞を受賞。著書に『金春屋ゴメス 芥子の花』『善人長屋』『千両かざり 女細工師お凜』『閻魔の世直し 善人長屋』『大川契り 善人長屋』『上野池之端 鱗や繁盛記』『せき越えぬ』などがある。

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