ホーム > 書籍詳細:ウルトラ・ダラー

拉致、偽札、核兵器、世界を震撼させる、インテリジェンス小説。

ウルトラ・ダラー

手嶋龍一/著

724円(税込)

本の仕様

発売日:2007/12/01

読み仮名 ウルトラダラー
シリーズ名 新潮文庫
発行形態 文庫
判型 新潮文庫
ISBN 978-4-10-138115-2
C-CODE 0193
整理番号 て-1-5
ジャンル 経済・社会小説
定価 724円

1968年、東京、若き彫刻職人が失踪した。それが全ての始まりだった。2002年、ダブリン、新種の偽百ドル札が発見される。巧緻を極めた紙幣は「ウルトラ・ダラー」と呼ばれることになった。英国情報部員スティーブン・ブラッドレーは、大いなる謎を追い、世界を駆けめぐる。ハイテク企業の罠、熾烈な諜報戦、そして日本外交の暗闇……。わが国に初めて誕生した、インテリジェンス小説。

著者プロフィール

手嶋龍一 テシマ・リュウイチ

1949(昭和24)年、北海道生れ。外交ジャーナリスト・作家。冷戦の終焉にNHKワシントン特派員として立会い、FSX・次期支援戦闘機の開発をめぐる日米の暗闘を描いた『たそがれゆく日米同盟―ニッポンFSXを撃て―』を発表。続いて湾岸戦争に遭遇して迷走するニッポンの素顔を活写した『外交敗戦―130億ドルは砂に消えた―』(いずれも新潮文庫)を著し、注目を集める。2001(平成13)年の同時多発テロ事件ではワシントン支局長として11日間にわたる昼夜連続の中継放送を担った。2006年には世界各地に張り巡らした極秘の情報源を駆使して北の独裁国家の謎に挑んだ『ウルトラ・ダラー』を発表。「日々のニュースがこの物語を追いかけている」と評され、新たに出現したインテリジェンス小説として出版界に衝撃を与えた。『スギハラ・サバイバル』はその姉妹篇にあたる。ほかに『インテリジェンスの賢者たち』や『宰相のインテリジェンス―9.11から3.11へ―』がある。

手嶋龍一オフィシャルサイト (外部リンク)

目次

 プロローグ
第一章 事件の点景
第二章 テロルの通貨
第三章 偽札洗浄器
第四章 仄暗き運河
第五章 暗中に明有り
解説 佐藤優

インタビュー/対談/エッセイ

波 2007年11月号より インテリジェンスをめぐる迷宮  手嶋龍一『ウルトラ・ダラー』

手嶋龍一

 紺の防寒服を着た男が黒龍江のほとりに佇み、青黒い川面の彼方に広がる街の灯にじっと見入っていた。大型のサーチライトが対岸の国境警備隊を数分ごとに照らし出す。中国の公安当局は、中ソ国境の要衝ブラゴベシチェンスクに情報網を張り巡らしていた。防寒服の男はそれを統御するスパイ・マスターだった。瞬時でも判断を誤れば彼の地の情報網を壊滅させてしまう――。彼の面差しに浮かんだ暗い険は、忘れえぬ残影としてわが胸底に沈殿した。
『ウルトラ・ダラー』を書き進めるうち、あの中ソ国境の光景が脳裏をよぎって筆先が凍りつくことがあった。この物語が深く依拠している情報源を危地に近づけてはいないか――。防寒服の男が抱いた同じ恐れに囚われる日々だった。
 戦後の日本が生んだ稀有なインテリジェンス・オフィサー、佐藤ラスプーチン氏は、月刊「文藝春秋」の書評に『ウルトラ・ダラー』を取りあげ、「冷戦後、日本人によって書かれた初の本格的インテリジェンス(諜報)小説だ」と読み解いてくれた。この作品がなぜ小説の形をとったのか。それを「情報源を秘匿するために『本当のような嘘』と『嘘のような本当のこと』を適宜ブレンドする必要があったのだ」と見立てている。だが、著者の立場からはそれでもなお安心できなかった。インテリジェンスが内に秘める業の深さを知っていたからだ。
 インテリジェンスとは、膨大な一般情報の海から、国家の舵取りに欠かせない情報を選り抜いて分析を重ね、未知の事態を予測する技である。それゆえインテリジェンス小説は、現実の出来事をなぞるのではなく、近未来の領域に踏み込んで迫りくる危機を描いてみせなければならない。確かに『ウルトラ・ダラー』を書いていた時点では何事も起きてはいなかった。世界最小にして最強の捜査機関、アメリカのシークレット・サービスが、偽札を密かに流通させていたマカオの黒い銀行に捜査のメスを入れたのは物語の完成後だった。ゲラで事実関係をチェックしてくれた金融関係者が「ニューヨーク・タイムズが報じる北朝鮮の偽札絡みの事件に接していると、日々のニュースがこの物語を追いかけているという気がする。まるで偽札世界のイザヤ書だ」と溜め息を漏らすのを聞いて、ひそかな手応えを感じた。
『ウルトラ・ダラー』をめぐっては、出版直後から数奇な出来事が次々に持ちあがった。拉致や密輸の舞台となった新潟、横浜、小樽の書店からは瞬時にして本が消えてしまった。そして極めつきは、ディスインフォーメーションという名の情報戦がこの作品に仕掛けられたことだろう。ここに書かれた「嘘のような真実」は、じつは「事実に見せかけた虚構」にすぎない――こうした情報がまことしやかに諜報世界に流布されたのだ。情報の震源地は、伝説の二重スパイ、ゾルゲもかつて特派員をつとめた「フランクフルター・アルゲマイネ」紙だった。平壌製のドル紙幣は、CIAが自ら偽造した疑いが濃いと報じたのである。北朝鮮が基軸通貨ドルに挑んだ「通貨のテロリズム」は、アメリカの諜報当局による自作自演だったと言いたいらしい。
 いかに「インテリジェンス小説」をめぐる出来事とはいえ、本欄の読者はラビリンスに誘いこまれ、虚実のいずれに身を置いているのか戸惑ってしまうだろう。ノンフィクション・ノベルを綴ることは、現実世界に素材を採って、リアルに徹することだと説明される。だがインテリジェンス・ワールドを対象に選べば、「嘘のような真実」が随所に入り込んで、読み手の合理的な判断の裏を次々にかいてくる。『ウルトラ・ダラー』に登場するスパイ学校の壁がピンク色に塗られているのも、日本語教材にユーミンの詞が使われているのも、じつは全てが事実なのである。インテリジェンス小説とは、現実よりよほどリアルな奇に満ち溢れている。それゆえ現実世界の核心を衝く物語という器が必要だったとしか言いようがない。
 主人公の英国秘密情報部員スティーブンは、物語の終わりに杳として姿をくらましてしまったが、新潮文庫の出版を機に日本海側の街で姿を見かけたという目撃情報がある。やがて現実世界に舞い戻ってくるかもしれない。おかえりなさい、スティーブン。


(てしま・りゅういち 外交ジャーナリスト・作家)

感想を送る

新刊お知らせメール

手嶋龍一
登録する
経済・社会小説
登録する

同じジャンルの本

書籍の分類

ウルトラ・ダラー

全国の書店、または以下のネット書店よりご購入ください。

※ 書店によっては、在庫の無い場合や取扱いの無い場合があります。あらかじめご了承ください。
※詳しい購入方法は、各ネット書店のサイトにてご確認ください。

  • amazon
  • 楽天ブックス
  • 7net
  • e-hon
  • HonyaClub
  • TSUTAYA ONLINE
  • 紀伊國屋書店
  • エルパカBOOKS - HMV
  • honto