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風狂の芭蕉(バナナ)に憑かれた粋狂のおじさま嵐の旅路。どうか私もつれていってください!──本上まなみ。本上まなみ氏大絶賛! 空前絶後の全紀行。

芭蕉紀行

嵐山光三郎/著

637円(税込)

本の仕様

発売日:2004/04/01

読み仮名 バショウキコウ
シリーズ名 新潮文庫
発行形態 文庫、電子書籍
判型 新潮文庫
ISBN 978-4-10-141907-7
C-CODE 0195
整理番号 あ-18-7
ジャンル エッセー・随筆、詩歌
定価 637円
電子書籍 価格 702円
電子書籍 配信開始日 2017/05/26

『野ざらし紀行』『冬の日』『笈の小文』『奥の細道』はもちろん、従来の案内書にはない『かしま紀行』『更科紀行』ゆかりのスポットも完全網羅。中学三年で芭蕉の言霊にふれ、自らも「旅を栖」とする著者が、足と目と感性で俳聖の全足跡を辿る。研究者のあいだではタブー視されている、蕉翁の衆道にも踏み込んだ稀有な書。沿道の美味な食べ物も紹介。著者手描きの絵地図入り。『芭蕉の誘惑』改題。

著者プロフィール

嵐山光三郎 アラシヤマ・コウザブロウ

1942(昭和17)年、静岡県生れ。雑誌編集者を経て、作家活動に入る。1988年、『素人庖丁記』により、講談社エッセイ賞を受賞。2000(平成12)年、『芭蕉の誘惑』(後に『芭蕉紀行』と改題)により、JTB紀行文学大賞を受賞。『悪党芭蕉』が2006年に泉鏡花文学賞を、2007年に読売文学賞を受賞した。『文人悪食』『文人暴食』『文人悪妻』『日本一周ローカル線温泉旅』『死ぬための教養』『寿司問答──江戸前の真髄』『昭和出版残侠伝』『とっておきの銀座』『美妙』など著書多数。旅と温泉を愛し、一年のうち八ヶ月は、国内外を旅行している。

インタビュー/対談/エッセイ

蕉翁と一体化する至福の時間

嵐山光三郎

 

 芭蕉ファンは『奥の細道』の旅ばかりへ行きたがるけれども、芭蕉は『野ざらし紀行』『鹿島詣』『笈の小文』『更科紀行』の旅もしている。芭蕉の全紀行を検証しようと思いたったのは七年前のことで、それがJTB出版『芭蕉の誘惑』として刊行され、このほど新潮文庫『芭蕉紀行』になった。
「野ざらし」とは骸骨のことだから、『野ざらし紀行』は「骸骨紀行」という意味で、ホラーの旅である。『鹿島詣』は月見旅行で、深川の芭蕉庵から舟で出発した。『笈の小文』は美青年の杜国と一緒の「禁断の旅」で、流罪となった杜国を連れ出したことが発覚すれば、芭蕉も罪を問われたかもしれない。
『更科紀行』は中山道から善光寺道をへて長野までの旅で、帰路、浅間山麓を通って、岩が台風に吹きとばされる句を詠んだ。五つの紀行を廻ると、『奥の細道』からは予測しえない芭蕉の別の顔が見えてくる。芭蕉は枯淡な風流人ではない。むしろ危険な「台風の目」のような存在であった。
 紀行文集を読みながら俳枕を旅すれば、文献ではわからなかった部分が見えてくる。それは、句を詠んだ現場が持つ霊といってよいだろう。句を現場検証することによって、句の裏に秘められたもうひとつの意味がたちあがってくるのだ。それに気がついたときの感動は、なんだか真犯人をつかまえた刑事のような興奮がある。
 いや、芭蕉の句は、つかまえたと思った瞬間に、もう一回背負い投げをくらう二重、三重の仕掛けがあって、そう簡単にはいかない。芭蕉没後、何百冊という解釈書が書かれたのは、そのためである。
『奥の細道』ならば、旅立ちの句「行春や鳥啼魚の目は泪」の「魚」とはなにか。それは隅田川を泳いでいる魚であり、千住の魚店に並べられた魚であり、中国の詩人陶淵明からの連想でもあるが、もうひとつの重要な「魚」でもある。あるいは立石寺の句「閑さや岩にしみ入蝉の声」の「蝉」とはなにか。立石寺の山中でジージーと鳴いている蝉には、隠された、裏の意味がある。
 芭蕉の旅を追体験しながら、ひとつの言葉を掘っていく。すると、解答が稲妻となって、脳天に降ってくる。なんだか神がかり的であるけれど、どうもそのようなのである。これが旅の効用であって、芭蕉もひとり、私もひとり。この本に私の解答を書いた。
 有名な「古池や蛙飛こむ水の音」にしたところで、「古池」とはなにか、を清澄庭園の池のほとりに坐って考える。「古池」は、ただの古い池というだけではなく、二重の意味が隠されている。さらに、芭蕉が詠んだ古池はいかなる池であったのか。どこまでも言葉を掘っていくのである。
 春になって、旅さきで古池に出会うたびに、蛙が飛びこむ水の音を聞こうとしてきた。しかし、いままで、その音を聞いたことがない。蛙は、人間や蛇などの外敵に会うと、逃げるために池に飛びこむけれども、自然の状態では、するりと音をたてずに水中へもぐりこむ。池へ飛びこんで音をたてるのは緊急時だけである。
 芭蕉はじっさいに蛙が飛びこむ音を聞いたのであろうか。幻聴ではないだろうか。それでも、「水の音」にこだわったのはなぜか。と、ここで古文献に戻ってあれこれと詮索し、また古池のふもとにしゃがみこむことになる。
 私の紀行では、従来の案内書にない芭蕉ゆかりの地を多く廻り、地図を描いた。おすすめは『更科紀行』である。この地は行く人が少ないため、原典そのままの風光が、いじられずに、まっさらのまま残っている。善光寺道の会田宿にある野仏に出会ったときは、半日ほど坐りこんで、いつのまにか芭蕉と一体化したのだった。句の現場が、私に語りかけてくる。こんな至福の時間は、旅をしてこそ得られるのであろう。

(あらしやま・こうざぶろう 作家)
波 2004年4月号より

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