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天才精神科医・天野による超越的推理が冴えわたる瞬間、謎解きの快感があなたを貫く。

かくも水深き不在

竹本健治/著

594円(税込)

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発売日:2017/04/01

読み仮名 カクモミズフカキフザイ
装幀 林タケ志/カバー装画、新潮社装幀室/デザイン
雑誌から生まれた本 小説新潮から生まれた本
発行形態 文庫
判型 新潮文庫
ISBN 978-4-10-144603-5
C-CODE 0193
整理番号 た-36-3
ジャンル ミステリー・サスペンス・ハードボイルド
定価 594円

森に包まれた廃墟の洋館で次々と鬼に変化(へんげ)していく仲間たち。何故か見るだけで激しい恐怖に襲われるCM。想い人のストーカーを追及する男の狂気。大御所芸人の娘を狙った不可解な誘拐事件。浮かび現われては消える4つの物語は、異能の精神科医・天野の出現により誰も見たことのない局面へと変容していく。全ての謎を看破する超越的論理(ロジック)と幻想の融合で煌めく、めくるめく万華鏡(カレイドスコープ)を体感せよ!

著者プロフィール

竹本健治 タケモト・ケンジ

1954年、兵庫県生まれ。東洋大学文学部哲学科中退。在学中に、中井英夫の推薦により、雑誌「幻影城」で『匣の中の失楽』を連載しデビュー。この作品は、『黒死館殺人事件』『ドグラ・マグラ』『虚無への供物』と続く「黒い水脈」の系譜を継ぐものと評され、若い世代を中心にカルト的支持を得た。『囲碁殺人事件』『将棋殺人事件』『トランプ殺人事件』と続く「ゲーム三部作」を発表後、SF方面にフィールドを広げていたが、新本格ムーブメントの時期に、本人や友人作家が実名で登場するメタミステリ『ウロボロスの偽書』を発表。一連のウロボロス連作として、今日まで続いている。他に、『ツグミはツグミの森』など著書多数。活字以外でも、『入神』など漫画を執筆したり、プレイステーション・ポータブルの本格推理ゲーム『TRICK×LOGIC』のシナリオも書くなど、多方面で活躍中。

書評

“ざわっ”としてます

新井素子

 ざわっ。
 読んだ瞬間、とても“ざわっ”とする短編集だと思う。
“幻想小説”? んー、そんな感じも、ない訳じゃない。でも、ちょっと違うかも。“ホラー”? んと、違うな、いや、ホラーっぽい処もあるんだけれど、そう言い切っちゃうと多分違う。“ミステリ”? いや、そう言える奴もあるんだけれど、そういう部分はどの作品にもあるんだけれど、これまた違う。
 もう、何とも言いようがない。全体的なトーンとしては、ざわっとする短編集なのだ。
 一話完結の短編が四話続いているので、お話の中でみれば、確かにどのお話も終わっている。でも……なんか、ざわざわしたものが残って、そのお話、お話としては終了していても、読者の気分として、終了している気にまったくなれない。すんごく、“ざわざわ”したものが残る。“言い残された”ことが絶対にあるって確信できてしまう。
 しかも、これは、短編集であって、短編集ではない。
 まったく別個のものだと思われていた四つの“ざわっ”が、最後のひとつで、纏まる。まあ、こういう形態のお話は、“連作短編”って言われていて、最後で、“連作短編”は、ひとまとまりのお話になる。そして、そこで、安定する。
 あ。ここで、誤解した読者の方がいるかも。
 うんうん、連作短編って、そういうものだよね、おのおの完結している筈の短編では、何だか消化しきれない“なにか”があって、それが連作短編として纏まった時、“なにか”はひとつの形をなす。そして、やっと、そのお話、完成。
 いや、このお話がそういうものならね。というか、それが普通の連作短編なんだけどね、なら、私は、こういう文章の書き方をしていない。
 うん、この本は、最後の纏めがあっても……そこで、安定してくれないのだ。お話としては終わっている癖に、各エピソードが纏まった筈なのに、それでも、いつまでも、ざわざわし続ける。纏まった癖に、終わった癖に、それでも、まだ、ざわっとしているのだ。

 あー。竹本さんだー。
 心からそう思ってしまった。

 いや、竹本さんのお話って、いっつも、そうなんだよね。
 そもそも、デビュー作が、『匣の中の失楽』だもん。これをミステリだと思って読むと、(いや、ミステリなんですけど。すんごいペダンチックで、枝葉末節がどえらく楽しいミステリなんですけど)、最後の最後で、「え! それで結局!」って読者は叫ぶことになるだろう。二作目が『囲碁殺人事件』から始まるゲーム三部作。これ、『囲碁』は普通のミステリ、それも王道を行く綺麗なミステリだったんだけれど(でも、ざわついている処がある)、『将棋』『トランプ』って続いてゆくと、どんどん何だか「えと?」「……あの?」になってゆき、最終的に、「えっとお、ミステリって、こーゆー形態のお話なんだっけ……かな?」って、呻いてしまうことになる。
 うん。私は、個人的に、ミステリっていうのは、広げてしまった風呂敷を綺麗に畳むお話だと思っているのね。そんで、竹本さんのミステリは……うん、風呂敷を、畳もうとする“ふり”は、してるのね。でも、それ、“ふり”だけ。実際の処は、全然風呂敷畳んでくれなくて、むしろ、読者の目を盗んで、こっそり風呂敷を広げている感じがある。
 そんで、そっからあとは、まあ、もう、竹本さんやりたい放題。いつだって、竹本さんのお話は、読み終えたあとで、何だか地軸が揺らぐような、陽炎が世界すべてを覆い尽くすような、“くらっと”感があるのだ。

 地に足がついたお話が、結構今、受けてるじゃないですか。だから、こんな今だからこそ。
 地軸が揺らいでしまうような、世界がすべて陽炎の中にあるような、こんな、“ざわっ”としているお話って、楽しめるんじゃないかなって思う。

(あらい・もとこ 作家)
波 2017年4月号より

目次

鬼ごっこ
恐い映像
花の軛
零点透視の誘拐
舞台劇を成立させるのは人でなく照明である
切り札乱舞の短篇集 宮内悠介
解説 新保博久

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