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低迷する日本経済を背景に、家庭も職場も失った男の誇りと葛藤を描く万感胸に迫る傑作。

銀婚式

篠田節子/著

680円(税込)

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発売日:2017/01/01

読み仮名 ギンコンシキ
発行形態 文庫
判型 新潮文庫
ISBN 978-4-10-148419-8
C-CODE 0193
整理番号 し-38-8
ジャンル 文学賞受賞作家
定価 680円

証券会社のNY本部で多忙をきわめていた高澤は、妻との関係が壊れ離婚。会社も破綻する。再就職先で直面した、華やかなキャリアなど通用しない中堅損保の厳しい現実。再び転職した地方の無名大学で、都落ちの寂寥感に沈む高澤の前に現れたのは、学部長秘書の清楚な女性だった……。低迷する日本経済を背景に、もがきながら生きるビジネスマンの仕事と家族を鮮烈に描き、万感胸に迫る傑作。

著者プロフィール

篠田節子 シノダ・セツコ

1955(昭和30)年東京都生まれ。東京学芸大学卒。東京都八王子市役所勤務を経て1990(平成2)年『絹の変容』で小説すばる新人賞を受賞しデビュー。1997年『女たちのジハード』で直木賞、『ゴサインタン』で山本周五郎賞を、2009年『仮想儀礼』で柴田錬三郎賞を受賞。2011年『スターバト・マーテル』で芸術選奨文部科学大臣賞を受賞した。他の著書に『夏の災厄』『弥勒』『讃歌』『ブラックボックス』『長女たち』『インドクリスタル』『冬の光』『竜と流木』など多数。

書評

男にとって仕事とは何か

北上次郎

 本書の単行本版が刊行されたのは2011年の12月だが、新刊書店でこの本を手に取った日のことをまだ覚えている。その帯にはこうあったのである。

 激動する時代の「家族」の物語

 えっ、と思った。篠田節子が家族小説を書くなんてことがあるだろうか。正直に言うと私自身は家族小説を好きなのだが、篠田節子はそういうジャンルから遠いところにいる作家である。誰がどう見たって篠田節子に家族小説は似合わない。たとえばこの直前に上梓したのが『はぐれ猿は熱帯雨林の夢を見るか』という奇想天外な作品集なのだ(これもまた傑作であった)。こういう作家が普通の家族小説など書くわけがない。もちろん、その家族にカッコがついているから普通の家族小説ではないんだろうが、ホントかよと疑ってしまったことを反省する。
 これがすごかったのである。バブル崩壊後のビジネスマンの仕事と人生が徹底してリアルに描かれるのだ。もう読み始めたらやめられません。すごいな篠田節子は。
 主人公は高澤修平。証券会社のニューヨーク本部に勤務していたが、本社が破綻したのでアメリカ法人の後始末に追われ、破綻から二年後、ようやく日本に帰国してくるところからこの物語の幕が開く。ほとんどの同僚はさっさと再就職を決めて去っていった。早ければ早いほど、好条件の再就職先があったようだ。高澤修平は二年遅れなので、なかなか再就職が決まらない。この挿話で高澤修平の性格を読者に伝えたあと、知人の紹介で入ったのが、損保会社。
 新しい時代に対応するために、会社の古い体質を変革する矢面に高澤は立たざるを得なくなるのだが、その具体的な挿話が一つずつ克明に描かれていくので、ぐいぐい物語に引き込まれていく。証券会社にも損保会社にも勤めた経験はないが、こういうやつっているよなあという人物が次々に立ち現れるのだ。
 これだけでもバブル崩壊後のビジネスマンのその後の人生物語としては興味深いが、実はまだ、ここまでで全体の4分の1。残り4分の3は大学の巻だ。紹介する人がいて、高澤修平は大学で教えることになるのである。もっともその大学は東北の山の中にあり、キャンパスのまわりには単身者用のマンションはあるものの、娯楽施設は何もなし。
 紹介するのが遅れたが、ニューヨーク時代に妻子と別れたので、高澤は自由な独り身である。不便なようではあるが、何も失うもののない高澤には恰好の再々就職先かも、との気がしないでもない。というわけで、彼は東北の大学に赴いていく。
 ストーリーの紹介はこのあたりまでにしておいたほうがいいだろう。その大学もけっして安住の地ではなく、さまざまな人間関係の煩わしさに巻き込まれる。これがまたディテールたっぷりに描かれるので、まったく他人事ではない。まるで自分の身に起きたことのような気がしてくる。リアルというのはこういうことだ。
 家族、にカッコがついていたのは、証券会社→損保会社→大学という高澤修平の仕事の変化を描きながら、別れた妻由貴子と息子翔とのやりとりが随所に挿入されるからである。由貴子とは別れても翔の父親であることは変わらないので、何かあるたびに連絡がきて、そうすると父親の顔が現れる。だからこれも一種の「家族小説」ということなんだろうが、しかしやはり、四十代後半の男にとって仕事とは何か、がモチーフの小説と読むほうが実感に近い。
 群を抜く人物造形と、巧みな挿話を積み重ね、ラスト近くの感動的な場面まで一気読みさせるのは見事。いかにも篠田節子の小説らしい。
 高澤修平が東北の地で見つける恋の行方も気になるところだが、こればかりは書かぬが花。ぜひ最後までお読みいただきたい。

(きたがみ・じろう 文芸評論家)
波 2017年1月号より

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