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アリバイ・アイク―ラードナー傑作選―

リング・ラードナー/著 、加島祥造/訳

781円(税込)

発売日:2016/08/27

  • 文庫

饒舌すぎる語り口の短編13編。村上春樹と柴田元幸がその魅力を徹底解剖した対談も収録。

ヘミングウェイやフィッツジェラルドにも愛された、短編の名手にして名物コラムニストの傑作13編。息を吐くように言い訳する野球選手。スピード違反の女性に恋してしまった警察官。冷酷無情な行状を繰り返すボクサー。患者を放っておけないおしゃべり看護婦。夫の自慢が止まらない妻。アメリカを虜にした饒舌な語り口とユーモアが炸裂する! 《村上柴田翻訳堂》シリーズによる復刊。

目次
アリバイ・アイク
チャンピオン
この話もう聞かせたかね
微笑がいっぱい
金婚旅行
ハーモニイ
ここではお静かに
愛の巣
誰が配ったの?
散髪の間に
ハリー・ケーン
相部屋の男
短編小説の書き方
訳者あとがき
解説セッション 村上春樹×柴田元幸

書誌情報

読み仮名 アリバイアイクラードナーケッサクセン
シリーズ名 新潮文庫
発行形態 文庫
判型 新潮文庫
頁数 480ページ
ISBN 978-4-10-216402-0
C-CODE 0197
整理番号 む-6-8
ジャンル 文芸作品
定価 781円

書評

アメリカの男たちが好きなもの

川本三郎

 アメリカの男たちが好きなものは、野球とそしてほら・・話(tall tale)だろう。かのシューレス・ジョーのスパイクがクーパーズタウンの野球博物館に展示されているという話などその好例。リング・ラードナーは、野球とほら・・話を愛した作家で、マーク・トウェインオー・ヘンリー、デイモン・ラニヤン、ジェイムズ・サーバーに通じる。
『アリバイ・アイク―ラードナー傑作選―』に収められた短篇には野球ものが多いし、大半はほら・・話である。「アリバイ・アイク」は、言い訳ばかりしている野球選手の話。失敗した時に言い訳するだけではない。タイムリーを打った時にも言い訳するから尋常ではない。つまり、ほら・・話である。
 アメリカの男たちはなぜ野球とほら・・話が好きなのか。私見では、たぶん西部開拓の歴史と関わっている。一人でフロンティアを行く。寂しい。家が恋しい。家を作ろうとする。野球は、寺山修司がいったようにホームに帰ってくるゲームである。自然と男たちは野球が好きになる。
 さらに。荒野を旅する男たちは、見知らぬ男たちと出会い、夜、キャンプする。焚き火をする。そこで「こんな話、知っているか」とキャンプファイア・トークが始まる。話を面白くするために、どんどん嘘を加えてゆく。ほら・・話になる。
 リング・ラードナーはこの西部の男たちの伝統を受継いでいる。私見だから、本当かどうかは知らない。有名な一篇「チャンピオン」の主人公は、身体障害者の弟や母親、さらには付合う女性にまで暴力を振う。無茶苦茶な男だが、これもほら・・話の主人公としてなら面白い。
 ちなみにこの短篇は一九四九年に、マーク・ロブスン監督、カーク・ダグラス主演で映画化されているが、原作のほら・・話の面白さはなく、製作が真面目なスタンリー・クレイマーだったこともあり、ひどくシリアスな映画になってしまった。
 ほら・・話とは文学手法でいえば誇張(ジョン・アーヴィングもこれが好き)。やはり野球小説の逸品「ハリー・ケーン」の、頭の少しとろい・・・剛球投手が、三試合連続でマウンドにあがるなんて古き良き時代のほら・・話だろう(あっ、日本にも稲尾や杉浦がいたか)。
 ほら・・話は、品良くいえば伝説、神話である。西部劇の神様、ジョン・フォードはかつて、「あなたの映画は事実か」と問われて、愉快そうに(無論、想像)いった。「事実と伝説のどちらかを選べといわれたときはいつも伝説をとった」。これでいい。


(かわもと・さぶろう 評論家)
波 2016年9月号より

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著者プロフィール

(1885-1933)アメリカ・ミシガン州生れ。新聞記者としてスポーツ欄の記事やコラムを手がけ、小気味いい語り口が読者に愛された。主要作品『メジャー・リーグのうぬぼれルーキー』『大都会』のほか、多くの作品が邦訳された。

加島祥造

カジマ・ショウゾウ

(1923-2015)東京生れ。カリフォルニア大学クレアモント大学院修了。戦後、詩誌「荒地」同人となる。信州大、横浜国大、青山学院短大教授を歴任。著書に『フォークナーの町にて』など。

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