ホーム > 書籍詳細:隠蔽捜査

キャリアにも、正義がある。霞ヶ関の本庁舎で、たった一人の闘いが始まった!

  • 受賞第27回 吉川英治文学新人賞
  • テレビ化隠蔽捜査(2014年1月放映)

隠蔽捜査

今野敏/著

1,728円(税込)

本の仕様

発売日:2005/09/22

読み仮名 インペイソウサ
発行形態 書籍
判型 四六判変型
頁数 319ページ
ISBN 978-4-10-300251-2
C-CODE 0093
ジャンル 文芸作品、ミステリー・サスペンス・ハードボイルド
定価 1,728円

竜崎伸也、四十六歳、東大卒。警察庁長官官房総務課長。連続殺人事件のマスコミ対策に追われる竜崎は、衝撃の真相に気づいた。そんな折、竜崎は息子の犯罪行為を知る――。保身に走る上層部、上からの命令に苦慮する現場指揮官、混乱する捜査本部。孤立無援の男は、組織の威信を守ることができるのか? 新・警察小説。

著者プロフィール

今野敏 コンノ・ビン

1955年北海道生まれ。上智大学在学中の1978年に「怪物が街にやってくる」で問題小説新人賞を受賞。レコード会社勤務を経て、執筆に専念する。2006年、『隠蔽捜査』で吉川英治文学新人賞を、2008年、『果断 隠蔽捜査2』で山本周五郎賞と日本推理作家協会賞を、2017年、「隠蔽捜査」シリーズで吉川英治文庫賞を受賞する。さまざまなタイプのエンターテインメントを手がけているが、警察小説の書き手としての評価も高い。近著に『継続捜査ゼミ』『サーベル警視庁』『回帰 警視庁強行犯係・樋口顕』『アンカー』『変幻』など。

書評

実力派の描いた“ノーブレス・オブリージ”

細谷正充

 ミステリー・冒険・格闘技・歴史・SF・伝奇・オタク……。今野敏について考えたとき、真っ先に頭に浮かぶのが、扱うジャンルの幅広さである。多彩な才能でジャンルを横断する作家が遍在する、現代日本のエンタテインメント小説界だが、作者のフィールドの拡さは群を抜いている。しかも、どのジャンルの作品も、水準以上の面白さを誇っているのだ。実力派という言葉が、なんとも似合う作家である。
 だが一般的に作者は、ミステリー作家のイメージが強いように思われる。当然といえば当然か。今野敏の看板のひとつになっているのが“警察小説”なのだから。「安積警部補」「ST警視庁科学特捜班」と、ふたつの警察小説のシリーズを抱える作者は、八○年代から現在まで、日本の警察小説の最前線で、活躍しているのである。本書『隠蔽捜査』は、そんな作者が久しぶりに挑んだ、単発の警察小説だ。
 新潮選書『日本ミステリー事典』の「警察小説」の項を見ると、
「警察の実際の集団捜査をさまざまな情報を取り入れた形で再現したミステリーで、常に特定の個人の警察官が名探偵として活躍するのではなく、警察組織の中でさまざまな捜査員が事件ごとに主役として活躍するものである」
 と、書かれている。いきなり話を覆すようだが、この定義に従うならば、本書は警察小説ではない。なぜならストーリーは、警察庁に勤務する主人公・竜崎伸也を中心に進行するからである。だから厳密にいえば警察小説ではなく、警察機構に属する個人を主人公にした、警察官小説と呼ぶべきであろう。いやまあ、物語を楽しむのには、どうでもいい話だが、ちょっと押さえておきたいポイントである。
 本書を読み始めた読者は、まず、竜崎伸也の性格に驚くはずである。なぜなら、長官官房の総務課長という立場にある竜崎は、ガチガチのエリート主義者だからだ。組織のためには、個人の思惑を犠牲にしなければならないことがある。官僚の世界は常に四面楚歌であり、行動も発言も慎重でなければならない。これだけでも、いい加減どうかと思うが、極めつきは、東大以外は大学ではないという信念。有名私立大学の入試に受かった息子を、東大以外は認めないと浪人させるのだから、その思想は徹底している。なんて嫌な奴を主人公にしたのかと、かなり吃驚(びっくり)してしまったのである。
 ところが読み続けていると、嫌な奴だったはずの竜崎が、どんどん魅力的に思えてくる。それは彼の信じるエリートが、権利だけではなく義務を併せ持ったものだと、徐々に明らかにされるからだ。つまり、フランス語で、高い地位に伴う道徳的・精神的義務を意味する“ノーブレス・オブリージ”に他ならないのである。最初、反対方向に読者の気持ちを向かわせることで、主人公のキャラクターの魅力を最大限に引き出す。手練(てだれ)ならではの、心憎いテクニックだ。
 しかし現代の日本で、ノーブレス・オブリージを果たそうとするのは、果てしなく困難な道だ。利権と派閥が横行する官僚の世界では、必然的にドン・キホーテに成らざるを得ない。さらに、ふたつの事件が、彼に襲いかかる。
 ひとつは、少年時代に凶悪な犯罪を犯した男たちが、次々と殺される連続殺人事件だ。捜査の過程で浮かび上がった衝撃的な犯人像に、警察機構が激震に襲われる。
 そしてもうひとつが、竜崎の家庭の問題。浪人中の息子の邦彦が、麻薬をやっていたのである。仕事と家庭。ふたつの大事件が微妙にクロスして、竜崎を追い詰めていく。危機的な状況の渦中で、彼はいかなる選択をするのか。それを知ったとき、読者はエリートの、いや、人間の尊敬すべき姿を発見することだろう。
 また、連続殺人を通じて、少年法の問題に触れているのも見逃せない。大人世代と少年少女世代のギャップと確執は、今野作品の重要なテーマだ。別の理由でもかまわない連続殺人の動機に、少年法の問題を持ってくる。ここに自己のテーマにこだわり続ける今野敏の、作家としての誠実を感得することもできるのだ。
 ミステリーはエンタテインメント小説の柱のひとつであり、一年間に出版される作品の量も膨大である。だが現在、このレベルの警察官小説を書ける作家は、ほとんどいない。実力派が、その“実力”を見せつけた一冊だ。

(ほそや・まさみつ 文芸評論家)
波 2005年10月号より

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