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「左翼は嫌い。けれど、今の保守はもっと支持できない」と嘆くあなたへ――。

「リベラル保守」宣言

中島岳志/著

1,512円(税込)

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発売日:2013/06/28

読み仮名 リベラルホシュセンゲン
発行形態 書籍
判型 四六判
頁数 207ページ
ISBN 978-4-10-302752-2
C-CODE 0031
ジャンル 政治
定価 1,512円

保守の概念が揺らいでいる。「憲法改正」を叫ぶだけが、「あの戦争」を肯定するだけが、保守なのか――。否。それは「反左翼の“俗流保守”」に過ぎない。真の保守思想は、自由を積極的に擁護し、その源流にはリベラルなマインドが宿る。「リベラル保守」という新たな立場から、この国のあるべき「思想のかたち」を探る意欲的論考。

著者プロフィール

中島岳志 ナカジマ・タケシ

1975年大阪生まれ。大阪外国語大学卒業。京都大学大学院博士課程修了。北海道大学大学院准教授を経て、2017年8月現在は東京工業大学リベラルアーツ研究教育院教授。専攻は南アジア地域研究、近代日本政治思想。2005年、『中村屋のボース インド独立運動と近代日本のアジア主義』で大佛次郎論壇賞を受賞。著書に『インドの時代』『秋葉原事件』『パール判事』『「リベラル保守」宣言』『血盟団事件』『ナショナリズムと宗教』『アジア主義』など。

書評

波 2013年7月号より 引き裂かれてある人

内田樹

あるシンポジウムで中島さんと隣り合わせになったことがある。その語り口に惹き付けられた。気負いと遠慮の入り交じった、少しつんのめるような早口の語りを聞いて、「いい人だな」と思った。気負いと遠慮が入り交じるのは「対話的モード」の際立った特徴だからである。自分には言いたいことがある。でも、他人の言いたいことにも耳を傾けたい。対話的モードというのは、「話したい」と「聞きたい」という相反する要請に引き裂かれた状態のことである。中島さんはその意味ですぐれて「対話的」な人だと思う。だから、その人が「リベラル保守」というアンビバレントな政治概念に親近性を持つことには必然性がある。
中島さんによると、リベラル保守は二種類の原理主義を退ける。一つは左翼の「進歩主義」「設計主義」、すなわち「人間の理性によって、理想社会を作ることが可能と考える立場」。一つは「過去の一点」においてすでに実現されていた理想社会に帰還すべきであるという「復古主義」。
リベラル保守は未来であれ過去であれ、完全な社会などというものが実現するはずがないという立場に立つ。私はこの意見に同意する。
私たちはそのつどの歴史的条件に規定されたさまざまなかたちの「不完全な」社会に暮らしている。その不完全さを改めようと人類は長く努力してきた。そして、その歴史的経験は私たちに二つのことを教えてくれた。
一つは、人間は制度改革において長期的には「わりとましな」方向に向かっているということ(女性の解放や、教育や医療の充実や、宗教的自由についてはそう言えると思う)。もう一つは、短期的には取り返しのつかないほどひどい間違いを何度も犯したということ。この二つである。
ここから導かれる経験則を一言に尽くせば「慌てるな」ということである。リベラル保守の実践指針もそうだ。社会改良に際しては「改めるべきもの」と「変えてはならぬもの」をていねいに腑分けするという手間ひまのかかる仕事を避けてはならぬ。中島さんはそう説く。
だが、改革派の人々はこの面倒な仕事を嫌う。彼らは「スピード感」や「決定力」や「突破力」に偏愛を示す。改革の適否は二の次で、制度破壊が速くかつ暴力的であるということそれ自体に価値を見いだすのである。
かつてカール・ポパーは「変えてよいものと変えてはならぬもの」を冷静に識別して、できるところから一つずつ改めてゆく手続きを「ピースミール(piecemeal)」という工学的な語で言い表したことがある。たぶんポパーがこの語を選んだときに、彼の脳裏にあったのは煉瓦を一つずつ積んで家を建てる労働のイメージだったのだと思う。制度改革は冒険でも祝祭でもない。それは日々の地道な労働として遂行されなければならない。ポパーはそう考えていた。一日働いたら、家に帰って、風呂に入って、家族と食卓を囲んで……というような生身の人間の労働力再生産に必要なだけゆったりとしたペースでなければ制度改革は果たされないと考えた。一時の熱狂がついに「一時」のもので終わるのは、生身の人間は連続的な祝祭や熱狂的な滅私奉公に長くは耐えられないからである。「それでは身体が保たない」という訴えは政治の暴走を食い止めるきわめて有効な制動装置なのだ。
リベラル保守は人間の生き物としての訴えに配慮するだけではなく、「歴史的に蓄積されてきた社会的経験知」と「慣習や社会制度を媒介として伝えられてきた歴史の『潜在的英知』」(33頁)にも耳を傾ける。
改革派の人々は、進歩主義者も復古主義者も、「経験知」にも「潜在的英知」にも敬意を示さない。前者は「最新のものが最高」だと信じているがゆえに、後者は「歴史は一方向的な堕落の過程」だと信じているがゆえに、歴史の風雪に耐えたものが伝えるかすかなメッセージを聞き取ることには関心がないのだ。
中島さんが「リベラル保守」と呼ぶのはこの二つの「ものさし」を使い分ける知的態度のことだと私は解している。一つの「ものさし」は有限の身体資源を使って生きるしかない生身の人間という尺度であり、もう一つは歴史過程を通じて顕現する集合的英知のはたらきである。その二つを手にして政策選択の適否について吟味している「クラフトマン」の姿を中島さんのうちに見て、私は深い共感を抱くのである。

(うちだ・たつる 思想家・武道家)

目次

はじめに
序章 「リベラル保守」宣言
「リベラル」vs.「保守」?/自由にも資格がある/自由民主主義は保守主義であらざるをえない/「寛容」としてのリベラル/相対主義の限界/多一論的なリベラル保守へ
第一章 保守のエッセンス
0 はじめに
1 保守の本質
左翼とは何か?/保守とは何か?
2 保守するための改革
進歩でも復古でも反動でもなく/漸進的な改革/「グレイト・リセット」への懐疑
3 公衆と群集
「多数者の専制」/中間団体の重要性
4 輿論と世論
意見から気分へ/ジェットコースター化する世論/世論と独断の共犯関係
5 伝統の再帰性
保守は単なる復古主義ではない/保守のロゴスと再帰性/小林秀雄と福田恆存の「伝統」/伝統によって悪習を改革する必要性
6 正統との再会
チェスタトン『正統とは何か』/「羨むべきまちがい」/正統との再会
7 政治の万能性を疑う
オークショットの政治主義批判/福田恆存「一匹と九十九匹と」
8 熱狂への懐疑
一九八九年、ルーマニア/熱狂より葛藤を
9 中庸という非凡
野田元首相の「中庸」/中庸と平衡感覚/非凡な凡庸
10 神なき時代の人間中心主義
デモスとマス/保守における宗教の役割/敬天愛人のデモクラシー
11 現実主義と理想主義
E・H・カーと高坂正堯/福田恆存「平和論にたいする疑問」
第二章 脱原発の理由
保守は原発をどう考えるか/原発のリスク/地震という国民的宿命/死者数を事故の規模の指標にするな/吉本隆明の原発推進論――進歩と原罪/一九八二年の『「反核」異論』/ウルトラ・モダンへの懐疑
第三章 橋下徹・日本維新の会への懐疑
「グレイト・リセット」など実行してはならない/ラディカルな破壊主義/「中央政治をぶっ壊す!」という愚行/伝統技術を保守すること/具体的伝統を欠いた愛国心の危険性
第四章 貧困問題とコミュニティ
人間は何に規定されて生きているのか/秋葉原事件と貧困問題/現代的な生きづらさ/ボンディングとブリッジング/家族の崩壊/日本型雇用・福祉の崩壊/共同体と中間的就労
第五章 「大東亜戦争」への違和
祖父と「大東亜戦争」/「大東亜戦争」と設計主義/保守思想家たちが示した「大東亜戦争」への違和感
第六章 東日本大震災の教訓――トポスを取り戻せ
関東大震災を振り返る/顔を失った「江戸ッ子」/一九九五年の不安/生を支えるトポス/原発事故によるトポスの破壊
第七章 徴兵制反対の理由
徴兵制はフランス革命から始まった/バークのフランス革命批判/騎士道の擁護、軍の大衆化への嫌悪
第八章 保守にとってナショナリズムとは何か
ナショナリズムと国民主権/ナショナリズムの形成と大衆社会の確立/保守のトポス/震災とナショナリズム/ナショナルな想像力/「内なるネイション」との出会い
あとがき

判型違い(文庫)

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