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見捨てられた伝承の中に聖人の真の姿があった――親鸞像の定説を覆す長編力作!

親鸞「四つの謎」を解く

梅原猛/著

2,376円(税込)

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発売日:2014/10/24

読み仮名 シンランヨッツノナゾヲトク
雑誌から生まれた本 芸術新潮から生まれた本
発行形態 書籍
判型 四六判変型
頁数 314ページ
ISBN 978-4-10-303024-9
C-CODE 0095
ジャンル 宗教
定価 2,376円

タブーを破り妻帯したのはなぜか? 「悪人正機説」の悪の自覚はいつ生まれたのか? 晩年に到った悟り「等正覚」とは?――中学生で手にした『歎異抄』以来、常に著者の心の糧であり続けた親鸞。だが近づけば近づくほどいつも撥ね返されてしまう四つの謎。聖人が亡くなったのと同じ齢九十になり、今こそその真の「教え」に迫る。

著者プロフィール

梅原猛 ウメハラ・タケシ

1925年宮城県生まれ、哲学者。国際日本文化研究センター顧問。京都大学文学部哲学科卒業。立命館大学教授、京都市立芸術大学学長、国際日本文化研究センター所長などを歴任。縄文時代から近代までを視野におさめ、文学・歴史・宗教等を包括して日本文化の深層を解明する幾多の論考は〈梅原日本学〉と呼ばれる。著書に『隠された十字架一法隆寺論』、『葬られた王朝一古代出雲の謎を解く』、『親鸞「四つの謎」を解く』(以上すべて新潮社)など多数。

書評

波 2014年11月号より [『親鸞「四つの謎」を解く』刊行記念特集] 齢九十で挑んだ新しい親鸞伝

芹沢俊介

新しい親鸞伝の試みである。この試みはすでに著者の『法然の哀しみ』(2000年)という壮大な法然伝の中に「親鸞からみた法然」というかたちで孕まれていた。このたびの親鸞伝はこれを反転した「法然からみた親鸞」という視点が、記述の主な要素をなしている。確かに法然とのかかわりなくして親鸞は存在しない。この当たり前の事実を踏まえると、親鸞の中の法然という問題意識がなくては、親鸞伝は十分なものとはなりえないことがわかる。
親鸞における法然という存在の途方もない大きさについて教えられたのは、真宗大谷派の僧侶佐々木正によってである。『親鸞始記』(1997)にはじまり、最新の『法然の思想 親鸞の実践』(2014)にいたる諸著作において、思想面の根底的な影響ばかりか、結婚までが法然の指令によるものだったと指摘されているのだ。正直なところ驚いた。法然と、法然の説く専修念仏に帰依した公卿九条兼実との話し合いの中で、兼実の娘、玉日を娶わせられることになった親鸞。これを伝えるのが、これまで偽書扱いされてきた存覚(親鸞と恵信尼の娘覚信尼を曾祖母とする)の書いたとされる親鸞の伝記『親鸞聖人正明伝』だというのである。
佐々木の静かで緻密な論証を前にして、それでも疑念は残った。親鸞が親しんだ女性は複数いたであろうが、その名前が伝わっているのは妻である恵信尼一人のみだ。系図では親鸞と九条兼実の娘との間に男の子が一人あるとされているものの、娘の名が記されているわけではない。九条兼実の記した日記『玉葉』にもその名は出ていない。『正明伝』はこの女性を玉日と記し、生まれた男子を印信としている。しかし、他方で、男子の名を善鸞であるとする説得力ある見方もなされている。もし、善鸞であるとなれば、『正明伝』の信憑性はそこから危うくなる。
ところが著者は、右の佐々木説を真正面から受け継ぎ、この仮説をいっそう確かなものへと推し進めるという作業を自分に課したのである。すなわち『正明伝』を親鸞の実像を伝えるものとみなし、それを証明し、その上で『正明伝』に沿って、親鸞の生涯の「四つの謎」に迫るという大胆な道筋を選んだのである。なんともスリリングである。
著者はまず、いくつものこれまで伝わる親鸞伝を比較・検討し、さらにフィールド調査に赴き、『正明伝』が偽書どころか、存覚の手になる、信頼するにあたいする唯一の伝記であると判定する。『正明伝』が信じられるなら、そこに描かれている玉日は実在し、親鸞の最初の妻であったことも事実となる。であれば、どこかに玉日が実在したという痕跡が残されているに違いない。フィールド調査は、この仮説を立証したと著者は断言する。調査に赴いてみると東京にも、関東にも玉日の痕跡がはっきりと認められる。京都は親鸞よりも玉日に関する遺跡のほうが多いくらいだと、著者は述べる。
こうして玉日の実在が確定すると、必然的に恵信尼の位置も確定する。流罪となった親鸞に同行して越後に行った恵信尼は玉日の侍女であり、流罪中に玉日が死んで、恵信尼が後妻になったというのが著者の達した結論になる。
さて、著者が立てた「四つの謎」は以下である。謎は順を追うごとに、重みを増してくる。
(一)たった九歳という年齢で比叡山の天台座主慈円に弟子入りしたのはなぜか。
(二)なぜ二十九歳の比叡山のエリート親鸞は、慈円のもとを去り、栄誉にも権勢にも無縁な法然門下に入ったのか。
(一)(二)のどちらにも関連する人物が慈円である。慈円は親鸞という名を一言も出していない。親鸞も慈円の名をいっさい口にしていない。慈円という人物の不気味さが際立つ。
(三)なぜ親鸞は結婚したのか。この謎は、結婚相手が誰であろうと成立する。そしてこの謎は(二)の謎と深く関連している。すなわち法然、親鸞の思想と、当時の南都北嶺の僧たちの思想との対立の大元の一つであった。だが、最初の結婚相手は誰かという謎になると、話題は思想を離れ、伝記的になる。
(四)親鸞にみられる異常なほどの悪の自覚、殺人を犯す悪人に自己を重ねてやまない自意識はどこからくるのか。
著者は『歎異抄』第三条(悪人正機)や第十三条(宿業論)について語り、親鸞が『教行信証』にていねいに抜粋した『涅槃経』の父殺し事件に言及する。読者は、この最後の謎を解く過程で、親鸞が法然を離脱してゆく場面を目撃することになるだろう。親鸞が死んだのは九十歳、その齢に近づいた著者が全力で挑んだ親鸞伝である。

(せりざわ・しゅんすけ 評論家)

[→][『親鸞「四つの謎」を解く』刊行記念特集]五木寛之/親鸞の森に投じられた剛速球

波 2014年11月号より [『親鸞「四つの謎」を解く』刊行記念特集] 親鸞の森に投じられた剛速球 ――梅原猛『親鸞「四つの謎」を解く』を読む

五木寛之

梅原さんの「親鸞」が、ついに出た。
ついに、というのは、私の勝手な思い入れである。この十年あまり、梅原さんとお目にかかるたびに、
「いよいよ親鸞をやるからな」
と、借金の取り立てでも宣言するように、くり返し念を押されていたからである。そんな時、私よりはるかに年長である梅原さんの目が、少年のようにキラキラ光るのがまぶしかった。
こんど上梓された『親鸞「四つの謎」を解く』は、常識はずれの大学者である梅原さんが、おそらく渾身の力をふりしぼって投じた剛速球のような一冊である。
スーパー歌舞伎の先代猿之助さんがそうであったように、芸術という世界はケレン味が本質である。その時代に掟破りのアウトサイダーのように見られていた表現者だけが、古典として残るのだ。ドストエフスキーがいい例である。極端なほどの毀誉褒貶の嵐の中で、現役時代の彼がどれほどもみくしゃにされたことか。
はっきりいって梅原猛という存在もまた、常にジャーナリズムに激烈な「嵐を呼ぶ男」だったといっていい。
これまでの『地獄の思想』にはじまる梅原日本学には、熱い読者の支持と同時に、さまざまな批判も少くなかったようである。
しかし、それこそが梅原学の真価ではないかと私は思う。その梅原さんが、今回はじめて親鸞と真正面から格闘をいどんだのが、『親鸞「四つの謎」を解く』だ。
親鸞という存在は、ある意味で暗くて深い森のような気配がある。その生涯についても、諸説入り乱れて、調べれば調べるほどわからなくなってくる。私も森の入口ですでに道に迷ってとほうにくれている一人だ。
梅原さんは、そこに大胆に踏み込んでいく。
そのきっかけとなったのが、佐々木正さんの親鸞についての著作である。
佐々木さんは、一九九〇年代から一貫して、正統とされる覚如の『親鸞伝絵(でんね)』(本願寺聖人親鸞伝絵)と別なルートをたどって親鸞の生涯に迫りつづけた人である。近代史学においてもっぱら異端の偽書とみなされてきた『正明伝』(親鸞聖人正明伝)の伝承のなかに、親鸞みずから残した足跡をたどった『親鸞始記』など、思想的スリルに富んだ名著だった。資料よりもフォークロアにこそ真実は隠されているのだ。
梅原さんは、中学生のときに『歎異抄』に出会い、今日までひそかにその生涯の謎を思索しつづけてきた。そこに佐々木さんの著作が火を点じて、烈火のごとくに燃えあがったのが『親鸞「四つの謎」を解く』だったのだろう。
大きくわけて、この本は「出家の謎」「法然帰依の理由」「あの結婚の意味」「親鸞の悪の自覚とは何か」、のスリリングな四つの追跡からなる。
それぞれに梅原さんならではの学識と思索が存分に発揮されて、ページをおくあたわざる興味をそそられるが、それ以上に、実際に現場に足を運んでの体感をつみ重ねたルポルタージュとしても感動的だ。これは書斎の机の上で書かれた書物ではない。親鸞もまたホモ・モーベンスの一人だった。親鸞と同じように年を重ねた梅原さんが、一歩一歩、大地を踏みしめて歩んだ汗と執念の中から生みだされた一冊であると感動させられた。
これまでの梅原学から、さらに新しい世界がここにひらかれたといっていい。親鸞の森の暗がりの中に灯された一つの光がここにある。それにしても梅原猛とは、凄い人であると、つくづく思う。

(いつき・ひろゆき 作家)

[→][『親鸞「四つの謎」を解く』刊行記念特集]芹沢俊介/齢九十で挑んだ新しい親鸞伝

目次

はじめに――なぜ今、親鸞を書きたいのか
序章 親鸞にまつわる積年の「四つの謎」
一、親鸞の出家の謎について/二、法然門下に入った謎について/三、結婚の謎について/四、親鸞の悪の自覚の謎について
第一章 謎を解き明かす鍵、『親鸞聖人正明伝』
なぜ真の親鸞像は描かれなかったのか――赤松俊秀の功罪/山田文昭の実証主義的文献研究の誤り/存在を否定された『正明伝』の宿命/水と油の性格だった、父・覚如と息子・存覚の確執/覚如没後一周年で書かれた書/平松令三への反論、そして『親鸞始記』という“爆弾”
第二章 『正明伝』の痕跡を求めて――京都・常楽寺、三重・専修寺へ
親鸞の玄孫、存覚の子孫に会いにゆく/直筆の『存覚袖日記』と親鸞の遺骨を納めた宝塔/初めて『正明伝』を見る/今後の大発見も期待される遺品の宝庫
第三章 もう一つの鍵、そして「第一の謎」への挑戦
名探偵・西山深草の大胆不敵な説/親鸞の母親は源義朝の娘であった……/死んだと称して実は生きていた父、そして解けた「第一の謎」
第四章 「名利の衣」を脱ぎ捨てた理由「第二の謎」
優れた物語作家であった覚如と存覚/稀代の怪僧、慈円の五つの顔/善と悪を使い分ける老獪な政治僧/『北野天神縁起絵巻』に秘められた呪詛/学僧として名を成す比叡山時代/余命十年と告げられた「第一の夢告」/卑しい土石でありながら尊い太陽の火をとる「玉日」/師、慈円の窮地を救った歌の使者/「第二の夢告」が導いた法然門下入門
第五章 僧の結婚が意味するもの「第三の謎」
失墜した権力者、九条兼実の帰依/念仏往生を説く“日本のデカルト”法然/浮世に塗れる兼実の問いかけ/法然と式子内親王との秘めたる恋/阿弥陀の教えを証すための結婚/セックスを肯定した「第三の夢告」/釈迦仏教以来の破戒、それは女性救済への道/日本で起きた「第二の仏教革命」
第六章 親鸞の妻、玉日の足跡を求めて
『正明伝』『秘伝鈔』『御因縁』、三書に書かれた結婚譚の相違/『尊卑分脈』に記された「月輪関白女」/東京・杉並の真教寺に残る三体像/終の棲家、五条西洞院に立つ二寺/親鸞流罪後の玉日の様子を伝える西岸寺
第七章 結婚後、『正明伝』に描かれた東国時代
意志の人、覚如と認識の人、存覚/流罪後の一時帰京を描く『正明伝』/「第三の夢告」東国布教が実現した稲田郷/東国における五つの怪異譚/なぜ怨霊鎮魂の話が語られたのか/いざ東国の地へ――結城・称名寺/天童のお告げにより設けられた根本道場――高田専修寺「本寺」/吉原の遊女も尊祟する玉日――稲田草庵/布教の初期形態が残る――大山禅坊阿弥陀寺/帰依した山伏が創建した法専寺/「亡霊済度」を裏づける地――二つの阿弥陀堂
第八章 『教行信証』に描かれた悪の自覚と「二種廻向」
法然も語っていた「悪人正機説」/絶対に許されぬ罪、「五逆」/『涅槃経』に描かれたその後の阿闍世/「六師外道」たちの助言/果して阿闍世は救われたのか/そして解けた「第四の謎」/近代真宗学が口を閉ざした「二種廻向」説/この世に還る「第五の門」/遺伝子に組み込まれた永遠の“生まれ変わり”/齢九十にして至った親鸞悟りの境地――「等正覚」
主要参考文献、取材協力
親鸞に関する略年譜

判型違い(文庫)

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