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「口惜しや、猪四郎さま……」おんな心の闇には、おのれすら知らぬ鬼が棲む。

  • 受賞第18回 日本ファンタジーノベル大賞

闇鏡

堀川アサコ/著

1,620円(税込)

本の仕様

発売日:2006/11/22

読み仮名 ヤミカガミ
発行形態 書籍
判型 四六判
頁数 300ページ
ISBN 978-4-10-303071-3
C-CODE 0093
ジャンル SF・ホラー・ファンタジー
定価 1,620円

寒露の夜、京随一の遊女が殺された。凄惨な殺害現場には半月前に死んだ女が居たという。美女の首を掻き切ったのは、都に跋扈する魍魎か、人の心に棲む鬼か……腕っ節は強いが大の幽霊嫌いの検非違使・龍雪が難事件に挑む! “遊女とバサラと風流”の時代・室町時代を舞台に、女たちの凄まじく一途な情念を描く伝奇ミステリー。

著者プロフィール

堀川アサコ ホリカワ・アサコ

1964(昭和39)年、青森県生れ。2006(平成18)年、『闇鏡』で日本ファンタジーノベル大賞優秀賞を受賞。妖しい魅力あふれる文章と、独自の世界観が評価された。著書に『たましくる─イタコ千歳のあやかし事件帖』『幻想郵便局』『幻想映画館』『予言村の転校生』『おせっかい屋のお鈴さん』『小さいおじさん』などがある。

書評

波 2006年12月号より 駐平成室町大使に任命します  堀川アサコ『闇鏡』

山之口洋

 人は旅をすることである土地の魅力を知る。ならばどうやってある時代の魅力を知るかと言えば、よい小説に導かれてという人がほとんどだろう。映画? なに、映画だってもとは小説だ。かくいう私も、黒岩重吾で古代史にハマり、夢枕獏の『陰陽師』で平安朝にハマり、池波正太郎の『鬼平犯科帳』で江戸中期にハマり、司馬遼太郎で維新に始まる明治時代にハマった。つまり私の中の「歴史」はおおむね小説でできあがっていて、そりゃ自分で奈良時代の小説を書くときには歴史書でお勉強もしたけれど、数々の小説で刷り込まれた人物像や時代の情景は、かえって鮮やかになりこそすれ、決して薄れたりしない。歴史家はわれわれ素人のこうした刷り込みを苦々しく思うかもしれないが、ならば学識だけじゃなく魅力でも対抗してくれ。
だからある時代の魅力を、まだそれを知らない読者に語りかけるのは、歴史/時代小説家の最重要任務だ。もちろん淡々と語るだけではいけない。宣教師のように熱っぽく、お国のよさを紹介する親善大使のように、あの手この手を駆使して語りかけるのだ。当然のことながら、ある時代の魅力を語る仕事は、その時代にとことんほれ込んだ書き手にお任せしたい。不信心者に宣教師は勤まらない。日本ファンタジーノベル大賞の優秀賞を受賞した堀川アサコさんのデビュー作『闇鏡』には、何よりも「室町時代の面白さを伝えたい。いや伝えずにおくものか」という、怨念に近い熱意がある。その一点で、この作品は瑕瑾や粗を補って余りある存在理由を獲得している。
舞台は南北朝期、足利尊氏治下の京都。鴨川の河原で毒殺されたはずの傀儡使いの女・着草が、なぜか生きて夫の消息を尋ねているという大きな謎を芯に、荒屋に出没する顔のない女、蜥蜴男、鬼といった怪異がまつわり、ついに五条河原の遊女が首を切り落とされる猟奇殺人が起こる。行方不明の夫・猪四郎の正体とは――。その謎を追うのが検非違使庁(いまの警察)の役人・清原龍雪。悪党相手の立ち回りじゃめっぽう強いが、魑魅魍魎の類となるとからきしいくじがなく、陰陽寮の友人から「怖がりの龍ちゃん」とからかわれるほど。龍雪の下で働く清輔と蚕児は、それぞれ頭脳派と武闘派の、捕物帳で言うならば下ッ引きにあたる。作者は少ない描写ですっきりとキャラクターを立て、書き分けることに長けていて、脇でも婆娑羅な武士、占い用の髑髏を持った白拍子などが、水墨画風にさらりと描かれた都の風俗と相まって、室町時代の空気や時代精神を紙の上に現前させる。
これまで室町時代は、歴史小説はともかく時代小説の舞台としてはあまり用いられてこなかった。その理由も、逆に時代の魅力も、これらの人物造形、特に主人公のアイデア賞ものの性格設定にくっきりと投影されている。まだ闇が異界とつながっていて、人々が超自然的な怪異を心から信じ、恐れていた平安時代までと異なり、この男にはすでに「化け物なんて、居る筈もないものに怯えてどうする」と考えるだけの近代的性格が備わっている。そう、室町とは、さまざまな文化が混ざりあい、バロックな進化を遂げたマルチカルチャーの時代なのだ。武家文化と貴族文化が融合し、田植え歌に端を発した田楽は幕府の庇護のもと能や狂言に集大成され、そして京では、奈良・平安朝から続く陰陽寮、検非違使、悲田院といった「古代」が、江戸時代に通じる賭場、遊廓、現代まで続く年中行事や衣食住の生活習慣と同居していた。時代小説、そして幻想小説にとって、まだまだ開拓しがいがある沃土に違いない。
さて、京で打ち続く怪異に龍雪はどう立ち向かうのか。この男、なにしろ自分が怖いものだから、できるだけ怖くならないよう物事を合理的に考えようとする。それが物語の二重構造をうまく支える役割をしている。そして、謡曲『敦盛』の一場面を下敷きにしたクライマックスにたどり着くころには、読者はちょっとした室町時代通の気分になれよう。
もちろん、この作品が世に出た以上、当分の間は室町時代の魅力を発信し続けてほしい。うれしいことに読売新聞のインタビューによれば「当面は室町時代で勝負するつもり」とのこと。
ですから堀川アサコさん、あなたを駐平成室町大使に任命します。どうか室町時代というお国のよさを紹介する親善大使でいてください。私ら読者はついていきます。

(やまのぐち・よう 作家)

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