ホーム > 書籍詳細:使命と魂のリミット

十数年前のあの日、手術室で何があったのか? そして今日、手術室で何が起こるのか? 心の限界に挑む医学サスペンス。

  • テレビ化土曜ドラマスペシャル『使命と魂のリミット』(2011年11月放映)

使命と魂のリミット

東野圭吾/著

1,728円(税込)

本の仕様

発売日:2006/12/07

読み仮名 シメイトタマシイノリミット
雑誌から生まれた本 週刊新潮から生まれた本
発行形態 書籍
判型 四六判変型
頁数 380ページ
ISBN 978-4-10-303171-0
C-CODE 0093
ジャンル ミステリー・サスペンス・ハードボイルド、文学賞受賞作家
定価 1,728円

笑顔で手術室に入った父は、冷たい骸となって戻って来た。誰も予想していなかった、術中死。さっきまで、あんなに元気だったのに――。それをきっかけに心臓外科医を目指した夕紀は、実は誰にも言えないある目的を胸に秘めていた。その目的を果たすべき日に、手術室を前代未聞の危機が襲う!

著者プロフィール

東野圭吾 ヒガシノ・ケイゴ

1958年大阪府生まれ。1985年『放課後』で第31回江戸川乱歩賞を受賞し、デビュー。1999年『秘密』で、第52回日本推理作家協会賞を受賞。2006年には『容疑者Xの献身』で、第134回直木賞を受賞した。他著に、『超・殺人事件』『白夜行』『手紙』『赤い指』など多数。

書評

波 2006年1月号より 抜群の構成と見事なピリオド  東野圭吾『使命と魂のリミット』

村上貴史

 中学生のころに心臓手術の失敗により父親を失った氷室夕紀。彼女はそれをきっかけに自分も心臓外科医となることを決意する。その後帝都大学医学部を卒業した夕紀は現在、同大学病院の心臓血管外科で研修医をしている。目標に向けて一歩一歩進んでいる彼女の心のなかには、しかしながら、別の想いも宿っていた。彼女は父親の死に関して、ある疑いを抱いていたのだ。その疑念もまた、彼女を現在の場所に導いた一つの理由であった……。
直木賞など数々の賞を獲得した『容疑者Xの献身』や、二〇〇六年年末の各種ベストテンで高い評価を得た『赤い指』など、衝撃作を連発している東野圭吾。その彼が二〇〇六年の末にまた新たな衝撃的な作品を発表した。それが本書『使命と魂のリミット』である。氷室夕紀の視点から医者の使命について突き詰めて考えてみるという本書は、だが、それだけの作品ではない。一九八五年に『放課後』で江戸川乱歩賞を獲得してデビューし、その後も二〇〇六年の本格ミステリ大賞を『容疑者Xの献身』で獲得した著者の作品だけに、ミステリとしての愉しみも十二分に備えた作品なのである。
穣治は帝都大学病院の看護師を籠絡した。彼女を通じて病院内部の情報を集めた穣治は、脅迫状を送った。医療ミスを公表し、謝罪しなければ病院を破壊するという脅迫状を……。
本書では、帝都大学病院をターゲットとした脅迫の物語が、穣治の視点による犯罪小説として描かれている。その穣治の物語は、夕紀が研修医としての職務をまっとうしつつ父親の死の真相に迫り行く物語にからみつき、さらに警察への失望から独断で行動する刑事七尾が帝都大学病院脅迫事件を捜査する物語と交差し、この『使命と魂のリミット』という小説にとてつもない緊張感をもたらした。特に、医療と脅迫と捜査が一体となったクライマックスの手術シーンの迫力たるや史上空前といってもいいほどだ。しかも東野圭吾は、そうした緊張感のなかで、使命とは、あるいは魂とは何かを読者にくっきりと伝えて見せている。テーマといいそれを表現するストーリーといい、さすがに東野圭吾。極上である。
さて、作家としての東野圭吾を考えると、本書は、彼の豊かなキャリアをベースとして、さらに一歩成長した作品といえよう。
事故によって娘の肉体に妻の意識が宿ってしまうという状況に陥った男を描き、一九九九年に日本推理作家協会賞を受賞した『秘密』をはじめ、東野圭吾は、『分身』(一九九三年)、『時生』(二〇〇二年)など、本人にはどうしようもない経緯で極限状況におかれた人の心を描く作品を世に送り出してきた。本書も――特に夕紀に着目するならば――その流れに属する一冊である。だが、本書は従来作品のようにSF的設定を用いるのではなく、ひたすらに現実社会で起こりうる事象の積み重ねで、すなわち登場人物たちのリアリティのある決断の積み重ねで、夕紀のおかれた状況を造り出している。それ故に、読者にはよりいっそうストレートに夕紀や他の登場人物の心が伝わってくるのだ。
また本書は、『天空の蜂』(一九九五年)や『ゲームの名は誘拐』(二〇〇二年)に代表されるような、東野の脅迫ミステリの系譜に連なる一冊でもある。本書では、綿密かつ緻密、しかも問題状況への対処も素早く行うという“プロ”の如き脅迫の模様が描かれる一方で、穣治の狙いは伏せられ、しかも穣治が非情な犯罪者ではない存在として造形されているため、読者にはその脅迫事件の展開が全く予測できない。そのため、小説が備えるサスペンスは否応なしに増すのである。しかもそのサスペンスは、七尾による捜査を含め、結末で夕紀の物語と鮮やかに溶けあい、見事なピリオドとなっている。抜群の構成力だ。
デビュー当時から作品の完成度が高かった東野圭吾が、さらなる進化を示したこの衝撃作。必読であることはいうまでもなかろう。

(むらかみ・たかし ミステリ書評家)

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