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10日で終わるはずだった佐賀ロケ。だが彼らは1ヶ月以上たっても帰ってこなかった。

清張映画にかけた男たち―『張込み』から『砂の器』へ―

西村雄一郎/著

2,160円(税込)

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発売日:2014/11/27

読み仮名 セイチョウエイガニカケタオトコタチハリコミカラスナノウツワヘ
発行形態 書籍、電子書籍
判型 四六判変型
頁数 335ページ
ISBN 978-4-10-303935-8
C-CODE 0095
ジャンル 演劇・舞台、映画
定価 2,160円
電子書籍 価格 1,728円
電子書籍 配信開始日 2015/05/22

ただの娯楽映画にはしたくなかった。松本清張の世界を徹底してリアルに描きたかった。野村芳太郎、橋本忍、山田洋次らは『張込み』にすべてをかけた。やがて彼らは、大ヒット作『砂の器』を生み、幻の映画『黒地の絵』へ……何かに打ち込むことがすべてだった「昭和」の日々を描く、情熱と哀惜のノンフィクション。

著者プロフィール

西村雄一郎 ニシムラ・ユウイチロウ

ノンフィクション作家、映画・音楽評論家。1951年、佐賀市生まれ。早稲田大学第一文学部演劇科を卒業後、「キネマ旬報」パリ駐在員。帰国後、映像ディレクターとしてビデオCM、ビデオクリップを演出。1985年から古湯映画祭(佐賀市富士町)の総合ディレクターを務め、その功績により1990年に「佐賀新聞文化奨励賞」受賞。2001年公開映画『いのちの海』(原作・帚木蓬生)で脚本を初執筆(石堂淑朗と共作)。2003年にオープンした「映像ミュージアム」(埼玉県川口市)の総合監修を担当。佐賀新聞のコラム「西村雄一郎のシネマ・トーク」は連載36年を超え、新聞単独執筆連載の長期記録を更新中。現在、佐賀大学で教鞭をとる。著書『映画に学ぶビデオ術』(ソニー・マガジンズ)はフジテレビによって映画技術講座番組「アメリカの夜」としてテレビ化され好評を博した。『黒澤明 音と映像』(立風書房)は一部が翻訳され、UCLA(カリフォルニア大学ロサンゼルス校)の教科書になっている。2010年、モスクワ映画祭の「黒澤明シンポジウム」に日本代表として招待され、講演を行なった。

書評

波 2014年12月号より メイド・イン・佐賀の映画本

中尾清一郎

昭和三三年公開の映画「張込み」(松本清張原作、野村芳太郎監督)は、佐賀で本格的なロケが行なわれました。当時、私はまだ生まれていませんでしたが、ラストの佐賀駅のシーンに、当時の佐賀新聞社社長だった祖父がエキストラで出演しているせいもあって、子供の頃から様々な話を聞かされてきました。東京から、高峰秀子さんほか大スター一行が来たこと、佐賀市をあげて撮影に全面協力し、季節はずれのお祭りや市場を再現したことなど……。
私が映画「張込み」を初めて観たのは高校生の頃だったでしょうか。佐賀と東京は、かつてこんなに遠かったのかと、とにかく驚きました。映画の冒頭で、警視庁の二人の刑事(宮口精二、大木実)が、列車で佐賀に向かう様子を、えんえんと映します。二人は、夜の十一時頃、横浜から鹿児島行きの列車に飛び乗りますが、大混雑で、通路に座り込む。もちろんエアコンなんてありません。真夏で、汗ダラダラです。京都あたりで夜が明けて、ようやく一人が座れる。列車は瀬戸内海沿いを進み、関門海峡をわたって、博多に着いた頃にはもう夜。そして深夜に、佐賀に着くんです。事実上、車中二泊ですね。本書によれば、あの車中シーンは、撮影隊が佐賀へ向かいながら、ドキュメントのように同時撮影したのだそうです。
そもそもこの佐賀ロケは、十日の予定でした。しかし、少しでもリアルな場面を撮ろうとする野村監督の粘りで、一ヵ月半にも延びてしまった。そのすべてを、当時の私ども佐賀新聞が、克明に密着取材し、記録していました。今日はどこでどんな撮影があったか、さらには、明日はどこでロケがあるかを、まるで連載記事のように報じているんです。当時の佐賀市民にとっては、天皇行幸に次ぐほどの大きな出来事だったんですね。大木実さんがファン・サービスで広場で歌ったときは、なんと「三万人」の市民が押しかけたそうです。
著者の西村雄一郎さんは、それら昔の新聞記事をもとに再取材し、ロケの様子を丹念に再現しています。実は西村さんは佐賀新聞に「西村雄一郎のシネマ・トーク」という映画コラムを、もう三十六年にわたって連載してくださっています。なんと、この十月で千五百回を突破しました。おそらく、一人の筆者による新聞連載としては、世界最長ではないでしょうか。本書は、そのコラムがベースになって誕生しました。名作「張込み」を作り上げた野村芳太郎(監督)、橋本忍(脚本)、山田洋次(助監督)といった方々が、その後も松本清張原作の映画化に挑みつづける姿を描いています。この三人が、やがて大ヒット作「砂の器」(昭和四九年)を生み、松本清張先生は『黒地の絵』の映画化を切望する、しかしなかなか実現しない……映画作りの面白さと難しさを感じるとともに、「スピード」「コスト」を犠牲にしてでも、長く残る、いいものを作ろうと奮闘する「昭和の男たち」の姿には感動させられます。
ところで、西村さんの実家は、佐賀市内に、ペリーが来航した嘉永時代からつづく「松川屋」という老舗旅館でした。かつて小倉に赴任していた森鴎外が来佐した際に宿泊し、『小倉日記』にも登場します。この旅館が、「張込み」撮影隊の宿舎の一つになりました。西村さんは当時五歳だったそうで、そのときの強烈な印象が契機となって、映画評論家の道を歩まれたそうです。そういう意味で本書は、題材も内容も筆者も、完全にメイド・イン・佐賀なんです。
最後に余談を一つ。その「松川屋」の女将さん、つまり、いまは亡き西村さんのお母様ですが、佐賀では有名な“女傑”で、私が子供の頃、とにかく怖い方でした(「張込み」のお祭りのシーンにエキストラ出演されています)。昔の佐賀士族のプライドをそのまま継いでいるような方で、すべてにわたって「佐賀の流儀」を重視される、はっきりした性格でした。有名なポップス・アーティストが宿泊を申し込んで来た際「松川屋には合わないから断った」という噂を聞いたこともあります。
ご子息の雄一郎さんは、そこまで怖くありませんが、徹底して喰らいつくパワーは、まさにお母様譲りだと思います。でなければ、清張映画をめぐる男たちの二十数年のドラマなんて、描けませんよ。

(なかお・せいいちろう 佐賀新聞社代表取締役社長)

目次

プロローグ
第一部 ドキュメント『張込み』

第一章 クランク・インまで
松本清張の場合/城戸四郎の場合/野村芳太郎の場合/橋本忍の場合/山田洋次の場合
第二章 役者たちの事情
野村監督の意欲/男優たちの履歴/高峰秀子の場合
第三章 佐賀入り
貸切った撮影列車/佐賀ロケ開始/酒豪たちのサロン/ファン・サービス
第四章 山を求めて
宝泉寺ロケ/第二次佐賀ロケ/セットでも粘る、粘る
第二部 『砂の器』、そして『黒地の絵』

第一章 清張ブーム到来
ついに『張込み』封切り/日本映画の凋落
第二章 それぞれの旅立ち
野村芳太郎の場合/橋本忍の場合/山田洋次の場合
第三章 清張の企て
小倉・黒人米兵集団脱走事件/黒澤ファンだった清張/霧プロの誕生/幻の映画を求めて
エピローグ

あとがきに代えて――宮口精二さんとの想い出

松本清張原作映画リスト
主要参考文献
著者略歴

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