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得体の知れない過去の幻影が、ペダルを踏む足をさらう。それでもぼくたちはツールを走る。すべてを賭けて!

スティグマータ

近藤史恵/著

1,620円(税込)

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発売日:2016/06/22

読み仮名 スティグマータ
雑誌から生まれた本 小説新潮から生まれた本
発行形態 書籍、電子書籍
判型 四六判
頁数 314ページ
ISBN 978-4-10-305255-5
C-CODE 0093
ジャンル 文芸作品
定価 1,620円
電子書籍 価格 1,296円
電子書籍 配信開始日 2016/12/02

黒い噂が絶えない、堕ちたカリスマの復活。選手やファンに動揺が広がる中、今年も世界最高の舞台(ツール・ド・フランス)が幕を開ける。かつての英雄の真の目的、選手をつけ狙う影、不穏なレースの行方――。それでもぼくの手は、ハンドルを離さない。チカと伊庭がツールを走る! 新たな興奮と感動を呼び起こす、「サクリファイス」シリーズ最新長編。

著者プロフィール

近藤史恵 コンドウ・フミエ

1969年大阪府生れ。1993年、『凍える島』で鮎川哲也賞を受賞しデビュー。複雑な人間心理を細やかにすくい取り、鮮やかに描き出す筆致に定評がある。2008年には『サクリファイス』で第10回大藪春彦賞を受賞、同作は第5回本屋大賞2位にも選ばれた。『スティグマータ』は、『エデン』『サヴァイヴ』『キアズマ』に続くシリーズ最新長編となる。ほかにも「猿若町捕物帳」シリーズ、「ビストロ・パ・マル」シリーズ、「清掃人探偵・キリコ」シリーズや、『はぶらし』『岩窟姫』『昨日の海は』『スーツケースの半分は』など著書多数。

インタビュー/対談/エッセイ

[近藤史恵『スティグマータ』刊行記念特集]
【インタビュー】選手たちの持つ悲哀と色気

近藤史恵

――シリーズ待望の最新刊は、『サクリファイス』『エデン』のその後の物語でもあり、ツール・ド・フランスという世界最高の自転車レースを舞台にしたサスペンスでもあり……これまでのファンはもちろん、初めて触れる方にも楽しんでもらえる作品ですよね。
 白石誓こと「チカ」が主人公の長編という意味では、二作の続編にあたりますね。『エデン』の後に『サヴァイヴ』『キアズマ』の二作がありますが、前者は外伝的な短編、後者は大学自転車部の話。
 前作の『キアズマ』は、読者の方から「このシリーズで初めてロードレースの世界に触れた」という嬉しい声をたくさんいただいたので、そういう方たちに向けて、主人公自身も何も知らない状態からこの世界に入っていく、という設定で書いてみようと思ったのがきっかけでした。
 でもやっぱり、ドラマとして面白いのは、ツールだったり、プロの世界。さらにいえば、チカは年齢的に、そろそろ選手としては下り坂に差し掛かってきます。その悲哀みたいなものを書いてみたいというのもありました。
――二十代の終わりにして下り坂……。プロスポーツの世界は厳しいですね。
 肉体的なピークはとうに過ぎていますからね。三十代が見えた時点で、今後のことも考えていかなければいけない。
 今回は、国内で活躍していたチカのかつての同僚、伊庭も、ツールを走ります。これも、選手としての終わりを見据えた時どうしたいか、という問いに、「ヨーロッパに出ていきたい」と、私の中の伊庭が答えた結果です(笑)。それなら彼にもツールを走らせよう、そうしたらチカの方も触発されて、また違った感情が湧いてくるかなと。ツールを走る唯一の日本人という立場が揺らいで、居場所を奪われるような苛立ちとか、嫉妬とか……。
――シリーズ全体に言えることですが、いわゆる「スポ根」的な青春小説とは一線を画した物語です。
 諦めとか、人生の苦さというものを含んだスポーツ小説を書きたいと思っています。チームのエースであるニコラも、『エデン』ではキラキラしたキャラクターとして書いたので、だからこそ今回は、うまくいかなくなった時の葛藤を書きたかった。
 ロードレースに限らずスポーツ全般で言えることですが、出てきた時には「驚くべき才能」と絶賛された選手が、どこかで突然、思うようにならなくなり、苦しい状況に追い込まれることがありますよね。それは傍観者としてみれば、すごく深みがあるというか、色気のある状態でもあると思うんです。
――作中の表現でいえば、選手のもつ「物語」に引き寄せられるというか……。
 人は皆、自分勝手な物語を描きながら生きていると思うんですよね。誰しもが自分にとって都合のいい物語をつくることで、いろいろな物事を処理している。
 でも、それは決して悪いことばかりではなくて、物語があれば、しんどい状況でも切り抜けられたり、しんどいこと自体に気付かないまま、そこに没頭してやり過ごしたりもできる。それが、物語というものの持つ効用だと思うんです。
――他のキャラクターもそれぞれに魅力的ですが、人物造形はどのように?
 特に年表などをつくっているわけではなく、書いているうちに、自然とその人の歴史ができあがってくる感じです。
 今回は、ドーピングの発覚により一度姿を消したけれど再びツールに復活する、メネンコという人物が出てきますが、彼などはロードレース好きの方が見れば、「あの選手がモデルかも」と思われるかもしれません。実際は特定の人物がモデルというわけではなく、何人かの事例を組み合わせたうえで、「今、あの人が戻ってきたら、どうなるんだろう」という思考実験のような側面があるのですが。
――近年、ロードレースにおける日本人選手の活躍は益々目覚ましいですよね。
 彼らのさらなる飛躍を期待する気持ちと共に、小説は常にその一歩先をいっていなければいけない、という思いもあります。かといって、絶対起こりえないことを書いてもつまらないです。日本人選手初のステージ優勝とかも、現実になる前に書きたい気持ちはあるのですが。とりあえず、チカが引退するまでは筆を置けないと思っています。
 特殊な世界のようですが、彼らの直面する悩みや問題は、ある意味では私たちと変わりません。彼らの物語をご自分の物語に引き寄せて、読んでいただけたら嬉しいです。

(こんどう・ふみえ 作家)
波 2016年7月号より

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