ホーム > 書籍詳細:冬眠する熊に添い寝してごらん

これが小説家の想像力。巨匠・蜷川幸雄へ書下ろす、ヤバすぎる長篇戯曲!

  • 舞台化冬眠する熊に添い寝してごらん(2014年1月~2月公演)

冬眠する熊に添い寝してごらん

古川日出男/著

1,728円(税込)

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発売日:2014/01/22

読み仮名 トウミンスルクマニソイネシテゴラン
発行形態 書籍
判型 四六判変型
頁数 222ページ
ISBN 978-4-10-306075-8
C-CODE 0093
ジャンル 戯曲・シナリオ
定価 1,728円

日本海。吹雪舞う北陸、かつての一大産油県。熊猟師の末裔である射撃オリンピック選手とエリート商社マン兄弟の前に、「犬詩人」なる謎めく美女は現れた。一族の掟を生きる男たちと、呪われし出自をまとう女が交わるとき、血の宿命は、土地の神話は、そして国家の欲望は、100年を超えて彼らを撃ち抜く――。若者の愛憎と悲劇が、炙り出される「日本」に交錯する、文学×演劇の歴史的事件!

著者プロフィール

古川日出男 フルカワ・ヒデオ

1966年福島県郡山市生まれ。1998年に『13』で小説家デビュー。2002年、『アラビアの夜の種族』で日本推理作家協会賞および日本SF大賞を受賞。2006年、『LOVE』で三島由紀夫賞を受賞。2015年刊行の『女たち三百人の裏切りの書』で、野間文芸新人賞および読売文学賞(小説賞)を受賞。他の作品に『聖家族』『馬たちよ、それでも光は無垢で』『冬眠する熊に添い寝してごらん』など。

書評

波 2014年2月号より [古川日出男『冬眠する熊に添い寝してごらん』刊行記念特集] 舞台初日三週間前のインタビュー

蜷川幸雄

戯曲をもらってから打ちひしがれて、最初のうちは拒絶症のようになっていました。三ページくらい見ては「開きたくねえや!」って。やっと昨日(二〇一三年一二月一九日)、初めて終わりまで稽古して、方向性が分かってきた。今日は音楽を選び直しています。貧相じゃないほうがいいと思って、声明(しょうみょう)やクラシックよりもっとポップな曲を入れようと。ガチャガチャの乱痴気騒ぎに仕上げたいんです。
稽古初日(一二月一日)の作家本読みで、僕らは古川さんの根底にあるものを垣間見たわけです。エネルギーとスピードとイメージを感じました。こんなに早く読むんだなとか、本番はこうはいかねえよな、とか。だってト書きにものすごく力を入れて読むんだよ! でかい声で読んだって舞台にそのト書きはないわけだから、どうすればいいか考えました。それで結局、「よし、文字にしちゃえ」って。劇画みたいで面白いから舞台に出すことにした。
劇場の規模が四〇〇人くらいだと、いわゆるアングラ演劇の「情念の一体化」がしやすいんだけど、八〇〇から一〇〇〇人だとそれを拡大していくのが大変なんですね。下手に大きくするとダメで、小さくすると通じない。今回(八〇〇人)の劇場(こや)がいちばん大変です、言葉が通じる距離というものがあるから。だから「届かないな」という部分は文章を出しちゃう。古川さんが書いたとおりのト書きが出てくる。漫画の吹き出しじゃないけれど、舞台上にバンバン出てきます。
奔放な戯曲なので演出は全部難しいですよ。もちろんやりにくいものが来ることを期待して古川さんにお願いしたんですが、想像以上にやりにくい。まだ僕らが理解しえていない部分も何カ所かあって、初日までに解けるといいなってところです。三割くらい謎が残ってる。
たとえば、なぜあの女流詩人は突然現代詩を語りながら登場するのか。普通は出るかもしれないことを予感させる布石が戯曲に打ってあるわけです。それもないままに、今まで大仏の前でおばあさんたちがブツブツ言ってるところへいきなり出てくるから、どうやってこの芝居を観ればいいのかルールが分からない。かつての新劇のように脈絡でつないでいって、原因があるから結果がある、というやりとりをしていたら先に進めなくなる。大仏さんが歪んだ仏壇になったって、人はサイズの合わない仏壇を見てくれるか分かんないじゃない? 熊と犬が着ぐるみで戦ったって実際は暑くて長い間つづけられないし、雪が降っちゃったら終演まで片づけられない。とにかく整理無視、ルール無視のホンですね。
だから裏方も苦労しています。最近の僕はやりながら作っていくから、その日その場で演出していく。はじめから全部プランがあって、建築のように構造的なものを作るわけじゃない。熊の穴をちゃんと寝られるようにとか、堤防作ってとか、大仏の扉は観音開きがいいとか、ほぼ即興演出です。スタッフは意地でしょうね。僕を喜ばせたい、古川さんを驚かせたい、そういう気持ちでやってるんじゃないかな。全員、終わったら焼肉とふぐと寿司を奢れって僕に命じてますよ。
俳優は、情熱のレベルが高いから僕はすごく楽です。井上芳雄君や鈴木杏ちゃんや勝村政信たち、一緒に仕事したことのある役者は、もっといい仕事をしたいという想いがあるから「今度は何も言わせないぞ」と僕に対して思ってる。上田竜也君は初めてですが、とてもいい。戯曲の中に心揺さぶられる「情念の地震」のようなものがあって、みんなそれに乗せられて走るんでしょう。
「なんだかわかんないけどすげえもんに遭っちゃったな」という芝居にならないかと考えています。こういう芝居は論理化しても面白くない。観念がいけないということではなく、そう読むべき本じゃなくて、もっと生理で爆発させたい。北陸の山脈を血液の管に例えるなら、あっちの血管の端っこまでいくとか、こっちへ潜っていっちゃうとか、そんなふうにして日本の歴史全体を描いていきたい。あの手この手を繰り出しながら、古川さんの書いた「怒り」をきっちり出していけるといいなと思っています。

(にながわ・ゆきお 演出家)

[→][古川日出男『冬眠する熊に添い寝してごらん』刊行記念特集]古川日出男/舞台初日三時間前のメッセージ

インタビュー/対談/エッセイ

波 2014年2月号より [古川日出男『冬眠する熊に添い寝してごらん』刊行記念特集] 舞台初日三時間前のメッセージ

古川日出男

演出家の蜷川幸雄さんと対決した。僕は「喧嘩をした」とかそういうことを言っているのではない。小説家としてこの演出家と対決した。勝敗の行方はわからない。もっと正確に語るならば、まだわからない。なぜならば、いまは二〇一四年の一月九日だからだ。それも午後二時半を回ったばかりだからだ。この日の夜には、僕の個人史の「重大事件」が起きる予定となっている。午後六時半に、舞台「冬眠する熊に添い寝してごらん」が開幕するのだ。その初日が。
この舞台を、実際に観るまでは、勝敗の行方はわからない。
対決などという大それたことをするつもりはなかった。対峙しようと決めていただけだ。あのニナガワに戯曲を依頼されたのだから、一〇〇パーセント本気で書こう、と。差し向かいになり、「おれは一人の小説家として、曝されている」と感じながら筆を執りつづけようと。そして、そうした。できあがった戯曲は、どうやら蜷川さんを本気で困惑させている。つまりここに“本気”対“本気”がある。
つまりここに、対決があった。
これから四時間弱のあとに劇場の観客席に座るだけの身からいえば、なにしろ脚本家の立場というのは孤独だ。開幕し、それから幕が下りるまで、僕は「どんなものが生まれたのか、生まれるのか」がわからない。一方で、それは半分僕の作品だと、もう公にアナウンスされている。これほど不安定な立場に置かれる状況は、まず、他にはない。そこにも対決の一つの要因はあるのだと思う。僕が、たとえば劇団の座付き作家ならば、こうはならない。稽古場に控えつづけるだろう。あるいは脚本家兼演出家だったら話はぜんぜん別だ。
しかし、僕はどこの座にも付いていなかった。
そして、小説家としてそれを書いた。その戯曲を。
結論からいえば(これは一つの訓(おし)えだ)小説家というのがそもそも孤独なのだ。あるいは文学者というのが孤独なのかもしれない。いっぽうで演劇、そこに携わる演劇人というのは、孤独とは違う位相にいる。だからこれは、もっと大きな“図式”での対決でもあるのだ。
書いている間の僕の孤独は徹底していた。プロの小説家となって以来初めて、コンピュータでの執筆を避け、仕事机での執筆ですら避けて、ダイニング・テーブルに横罫のノートを置き、そこにボールペンで書いていった。二〇一四年の現在、コンピュータはほとんど「スタンドアローン」にならない。これを筆記具とするだけで、意味不明に“世界”とつながってしまう(メールめ! インターネットめ!)。本当に一人になるとはどういうことか。それを僕は試した。そして、「どうせ上演される舞台には、おれは決していないのだから」と、異様な分量のト書きを書き込んでいった。
ト書きとは、脚本そのものとそれを生み出している脚本家の対話であり、台詞とそれらの台詞を産み落とした脚本家の対話である。孤独の極北。しかし、孤独の結晶こそが文学的豊饒だと信じ、挑みつづけた。
最終的に原稿枚数に換算したら、三〇〇枚弱になった。それがこのたび刊行される単行本版の『冬眠する熊に添い寝してごらん』である。この戯曲は一幕ものだ。が、脱稿後に制作サイドから注文があった。「お客様のために休憩時間を用意したいので、二幕ものに変えていただけませんか」。
僕は変えた。変えるのみならず、上演時間そのものの短縮も図った。構成も変えた。結局、オリジナルから五分の一を削った。
それが上演台本版の「冬眠する熊に添い寝してごらん」で、文芸誌「新潮」の二〇一四年二月号に掲載されている。
だが、報告によれば、稽古場でもいろいろと起きている。今晩から上演されるのは――いまは一月九日の午後三時になったから、あと三時間半で開幕だ――上演台本版のアレンジ版となるだろう。いったいどうなっているのか。
単行本は、僕にとっての完全版であり、残すために仕上げた。一方で舞台とは、消費されるものである。それこそが商業演劇である。しかし、本当に消費されるだけなのか。それにニナガワは否というのか。
言ってほしい。勝敗は今晩、決まる。怖い。

(ふるかわ・ひでお 小説家)

[→][古川日出男『冬眠する熊に添い寝してごらん』刊行記念特集]蜷川幸雄/舞台初日三週間前のインタビュー

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