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山の神に愛された女郎と銀を掘る少年。幕末の石見で出逢った二人の灼熱恋愛長編!

ゆらやみ

あさのあつこ/著

1,728円(税込)

本の仕様

発売日:2015/06/22

読み仮名 ユラヤミ
雑誌から生まれた本 小説新潮から生まれた本
発行形態 書籍
判型 四六判変型
頁数 335ページ
ISBN 978-4-10-306333-9
C-CODE 0093
ジャンル 歴史・時代小説
定価 1,728円

石見銀山で育ったお登枝は身寄りもなく近々女郎になる。客をとる前夜、お登枝は堪えきれず密かに想いを寄せていた銀掘の伊夫の元へと逃げるが、別の男に後をつけられていて――。やがて遊郭一の女郎となったお登枝は伊夫を想い続けながらも、開国という時代の大きな変化に巻き込まれていく。過酷な運命の果てには何が待つのか。

著者プロフィール

あさのあつこ アサノ・アツコ

1954年岡山県生まれ。青山学院大学文学部卒業。小学校講師ののち、作家デビュー。『バッテリー』で野間児童文芸賞、『バッテリーII』で日本児童文学者協会賞、『バッテリーI~VI』で小学館児童出版文化賞を受賞。著書は『NO.6』シリーズ、『The MANZAI』シリーズ、『ぬばたま』、『たまゆら』、『グラウンドの空』など多数。

書評

動乱の世に生きた女の愛の物語

吉田伸子

 たった一人の男の菩薩でいるために、それ以外の男には夜叉にもなれた女。本書はそんな女の物語だ。
 お登枝は、石見の銀山の間歩で産み落とされた娘だった。間歩とは、鉱山の坑道のことで、その道は男だけが通れる道だった。「男たちが何十年、何百年もかけて掘り続けた」暗い道。お登枝の母は、そこでお登枝を産み、そのまま息絶えた。お登枝を育てたのは、お登枝の母の兄であり、銀山で働く銀掘の六蔵爺だった。三十にして無病の者なし、と言われた銀山の男たちのなかでは、驚くほど長命だった六蔵爺だったが、それでも不惑を十年過ぎた後に、逝った。
 六蔵爺が病に倒れた時、手を差し伸べてくれたのは、「かぐら」という女郎屋の女将、おそのだった。お登枝が下働きをする、という条件で、二人を離れに住まわせ、面倒をみてきた。親切心から、ではない。「売り物」としてのお登枝の価値を、おそのがいち早く見抜いたからだ。六蔵が逝き、十二歳になったある日、お登枝は石見の山主の一人、松原伊造エ門の長男の嫁女を見るため、駆けていた。お目当は、大きな祝い事の際に配られる、紅白の餅と銭、そして嫁御寮の姿。行く末は女郎の身であることは、お登枝自身が了見していることだ。我が身を白無垢に包むことが叶わないことを、お登枝は知っている。だからこそ、嫁御寮が見たい。餅だって欲しい。そんな思いで駆けつけたお登枝は、けれどそこで、一人の少年と出会う。黒にも紫にも見える目の色をしたその少年は、お登枝が落とした餅を拾って、お登枝に渡してくれた。全ては、それが始まりだった。
 この一瞬で、お登枝は恋に落ちる。人生でただ一度の、最初で最後の恋。女郎になる身には許されない、恋。結ばれぬ定めの、恋。一年後、お登枝はおそのが選んだ相手――藤屋の大旦那――を、最初の客としてあてがわれることに決まる。亡くなった六蔵爺よりも、さらに年が上の相手。お登枝は矢も盾もたまらずに、愛しい相手、伊夫に会うために、「かぐら」を抜け出して、山へと向かう。が、そこに伊夫はおらず、お登枝の後を付けてきた与治が、お登枝に迫る。与治は以前からお登枝に目をつけていたのだ。間一髪、お登枝を救ったのは伊夫だった。二人はそこで初めて結ばれる。
 伊夫以外の男はいらない。そう心に決めたお登枝は、女郎となり、客をとる身になっても、心は常に伊夫に寄せていた。どれほど身体を開かれようと、心だけは決して誰にも開かない。ただ一人、伊夫を除いては。伊夫と結ばれた、一度きりの夜を支えにして、お登枝は女郎暮らしを耐える。
 時は幕末。時代が大きく揺れ動く中、石見の銀山に生きる男と女。その許されざる愛を、あさのさんは銀山で男たちが鑿を使うかのように、くっきりと際立たせていく。描きこまれた濃密な性描写は、けれどどこか哀れで、切ない。エロスが際立てば際立つほどに、そこに漂うのはタナトスでもある。胸に十字を刻んで産まれた伊夫が、邪教とされる切支丹であること。元武士で同じく切支丹の父親と流れ着いた石見の地で、生きるためには銀山で働くしかなかった伊夫が、文字通り、その身を削って、お登枝に尽くす純情。
 お登枝もまた、伊夫への真を通す。おそのに、伊夫とのことを見透かされたお登枝は、ならば藤屋の大旦那に全てを話し、その上で「登枝を大旦那さまの手で女郎にしてやってくれと、お頼み申してください」と、おそのに請う。うちは石見一の女郎になるから、と。お登枝の頼みを飲んだ藤屋の大旦那に厚遇してもらっても、後に備前の商人、かな屋馬蔵の庇護を得、身請けして嫁にと言ってもらっても、お登枝の心にはたった一人、伊夫しかいなかった。だから、お登枝は夜叉になれたのだ。伊夫の菩薩でいるために。菩薩、いや、聖母でいるために。
 伊夫に寄せる、お登枝の身を掻きむしるような熱い恋情は、うねり寄せる時代の波に呼応するかのようだ。動乱の世に生きた一人の女の、これは蕩けるような愛の物語なのである。

(よしだ・のぶこ 書評家)
波 2015年7月号より

目次


一 銀の国
二 夏の空
三 紅の闇
四 白い風船
五 紅色の女
六 銀の川
七 梅の枝先に
八 ある男
九 夏の燃える
十 揺れ落ちて
十一 ゆらやみ

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