ホーム > 書籍詳細:あなたを自殺させない―命の相談所「蜘蛛の糸」佐藤久男の闘い―

地域を支えてきた中小企業の経営者たちが、なぜ次々と死ななければならないのか!?

あなたを自殺させない―命の相談所「蜘蛛の糸」佐藤久男の闘い―

中村智志/著

1,620円(税込)

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発売日:2014/10/31

読み仮名 アナタヲジサツサセナイイノチノソウダンジョクモノイトサトウヒサオノタタカイ
発行形態 書籍、電子書籍
判型 四六判変型
頁数 303ページ
ISBN 978-4-10-306702-3
C-CODE 0095
ジャンル 社会学、福祉、ノンフィクション
定価 1,620円
電子書籍 価格 1,296円
電子書籍 配信開始日 2015/04/17

事業で失敗し追い詰められてみずから死を選んでしまう人たちを救おうと、2002年、自殺率ワースト1位の秋田でNPO法人「蜘蛛の糸」を立ち上げた佐藤久男。佐藤は、民・学・官の連携によって実際に自殺者を大幅に減らしていった。秋田で、被災地で、日本各地で、佐藤は何を考え、何をしてきたのか。その難業の軌跡を追う。

著者プロフィール

中村智志 ナカムラ・サトシ

1964年、東京都生まれ。上智大学文学部卒業後、朝日新聞社入社。「アサヒグラフ」「ASAHIパソコン」編集部、東京本社社会部、「週刊朝日」編集部などを経て、現在、朝日新聞社教育総合本部勤務。1993年12月からの長期取材をもとに、1998年、『段ボールハウスで見る夢』(草思社。後に『路上の夢』と改題され講談社文庫)を著し、同年度の講談社ノンフィクション賞を受賞。他に、路上の歌人、富士森和行からの聞き書き『新宿ホームレスの歌』(朝日新聞社)や、東京・山谷のホスピス「きぼうのいえ」の人びとを描いた『大いなる看取り』(新潮社)がある。同書は、山田洋次監督「おとうと」の参考書籍となった。

書評

波 2014年11月号より 自死から再生した人々の言葉

柳田邦男

やはり現場って凄い、現場で生まれる言葉って凄いな、と思う。
私は取材者として、人間の「生と死」の問題を考えるには、現場を訪ね、現場に立ち、現場で耳を傾けることが原点であり、最も大切なことだと考えている。
「生と死」の現場は、多様だ。病気、事故、災害、公害、凶悪事件、戦争など、人のいのちを危機に陥れる現場は、世界に満ち満ちている。そういう様々な現場で、死に直面した人々や愛する人を失った人々の手記は、数多く書かれ、それぞれの現場から生まれた貴重な言葉の数々が記録されてきた。
しかし、空白域があった。それは、自死の現場だ。
日本人の自殺率は、世界の国々の中で高い位置にある。特に一九九八年に、年間自殺者数が突然前年より数千人増えて三万人台になって以降は、異常に高かった。今は二万人台に戻ったとはいえ、少ないとはとても言えない。これは事件と言うべきだろう。(私は自殺という言葉を使いたくない。一人ひとりの人生の苦難、「生と死」の文脈が、法的な用語では排除されてしまうからだ。個を大事にした自死という用語を使いたいが、社会的な用語として使われているものを引用・紹介する場合には、やむをえず自殺という用語を使うことにする。)
自死の現場における、「生と死」の真実を映す言葉には、他の事件のそれらとは違うトーンや重みがあるはずだ。その現場に真正面から向き合ったルポルタージュ作品が書かれた。中村智志氏の『あなたを自殺させない―命の相談所「蜘蛛の糸」佐藤久男の闘い―』だ。中村氏は週刊誌記者として、かつて段ボールハウスで暮らす人々の中にもぐりこんで、彼らの人間像をあたたかい目線で描き出した『段ボールハウスで見る夢』を著している。現場に密着して、リアリティ豊かに現実を浮き彫りにするという手法は、今回の作品にも貫かれている。主な現場は、一九九〇年代からずっと自殺率が日本一高い秋田県だ。後半では津波被災地も登場する。
主人公役に据えたのは、自殺を防ぐための相談窓口として立ち上げたNPO法人「蜘蛛の糸」代表の佐藤久男氏。佐藤氏自身、自分が経営していた年商十億円を超えるほどの不動産会社がバブル経済崩壊後の長期不況のあおりを受けて倒産、多額の負債をかかえて家・財産を失い、うつ病になり、自殺をはかろうとするところまで追いつめられた人物だ。しかも、身近なところで、倒産中小企業の経営者たちが、相次いで自殺していった。企業はそれぞれ地域の雇用や流通に貢献してきたのに、倒産したからといって、経営者の人間存在まで否定されるのは理不尽ではないか。中小企業の経営者の自殺を防ぎ、遺族が一層の苦難を背負わないですむように、自らの経験を生かそうと、相談窓口を開いたのだ。
その相談の姿勢は、「上から相談者を引っ張り上げるのではなく、目線を低くして下からふわりと支えるハンモックのような役割り」を果たすことだった。専門のカウンセリングと違って、二時間でも三時間でも耳を傾ける。その継続の中から、死ぬことしか考えていなかった相談者の話の中に、ポッと死以外のことへの小さな光と言うべき話題が出たりする。佐藤氏はその瞬間を待って、ひたすら傾聴に徹する。こうして相談者の心に新しい気づきが生まれ、それが人生観、価値観の転換へと発展することによって、「生きなおす」歩みが始まるのだ。
佐藤氏自身や「生きなおす」ことのできた人々の語録は、実にユニークで豊かだ。その一端を示そう。
「軽蔑されたら、その通りですと言おう」「小さな解決しやすい問題から」「点で深くやれば、必ず線になる。線で深くやれば、必ず面になる」「(支える行為は)いちばん大変なところに自分たちの体を置くと見えてくるものがある」「死なない契約」「ゆっくり、きっちり、じっくり」「希望への第一歩」「復活する人間の強さ」……。
すべて仏僧の説教に出てくるようなトーンの言葉だが、それら一つ一つが死のクレバスの淵で、ドラマティックな文脈で登場するので、極めてクリエイティブな響きで伝わってくる。佐藤氏が「生きなおす」決意をした時に整理した「失ったもの」と「残ったもの」の対照表がある。「家族の愛、深い友情、自分、時間、ヒマ」など普遍性の高いものが残っていることの気づきだ。経済的破綻は何とすばらしい気づきをもたらすことか。「ガス、水道を止めてくれてありがとう。お陰で私は頑張れる」という“生還者”の言葉は強烈だ。


(やなぎだ・くにお 作家)

目次

プロローグ 皇居まで走ってごらん
第一章 針の穴ほどの光を
第二章 また来週会いましょう
第三章 終着駅は始発駅
第四章 暗夜を憂うること勿れ
第五章 ゆっくり、きっちり、じっくり
第六章 魔の活断層
第七章 灯台になる
第八章 被災地へ
第九章 花
第十章 絆館
エピローグ 命の伝道師
あとがき
主な参考文献

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