波 2008年6月号より
[和田 竜『忍びの国』刊行記念インタビュー]
和田 竜
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「無門の一関」を突く 伊賀忍びvs織田軍一万余
歴史小説のファン以外も虜にしている『のぼうの城』(小学館)で鮮烈なデビューを飾った和田竜氏。「誰が読んでも楽しめる」(北上次郎氏、TBSラジオ)処女作同様、最新作も虜になること必至の傑作エンターテインメントです。 |
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――小説の前に、演劇、テレビ、映画にかかわっていたそうですね。
和田 大学の頃から、自分で脚本を書いてドラマを撮れたらいいなあと、いま思えば、浅はかにも(笑)憧れていました。それで大学では演劇のサークルに入り、作・演出・出演の三役をこなして勉強しましたが、テレビ局の就職試験を軒並み落ちてしまい(笑)、卒業後はテレビの制作会社に就職。ドラマのADをやっていたんですが、忙しすぎて、脚本を書く時間が取れない。悩んだ末に退社し、映画のシナリオを書いてはコンクールに応募していました。最初の脚本がいきなり二次選考を通過したんですが、次は一次通過止まり、その次は一次も通らずと、どんどん駄目になってくる。こりゃ、いかんぞと思い、やぶれかぶれで、自分の好きな歴史ものを書いてみたら、最終選考まで残った。
――次に書いた歴史ものの第二作で、二〇〇三年に脚本家の登竜門として名高い城戸賞を受賞します。
和田 歴史ものは大がかりなセットを組んだり、合戦シーンなどの撮影で、制作費がかなりかかる。でも、これを映画化したら、大金をかけても絶対にペイし、大儲けできるぞという挑戦状のような気持ちで書いていました。城戸賞の受賞作は映画化の企画が進行中ですが、なかなか制作決定に至らず、プロデューサーに薦められ、小説にしたのが『のぼうの城』です。
――最新作『忍びの国』も、スタートは映画で、脚本を書かれたそうですね。
和田 ええ。城戸賞を受賞した後、「歴史ものしかやりません」と触れ回っていたところ、映画会社の方から声をかけていただいた。あれだろうと見当をつけていたら、案の定、忍者ものでした。忍者ものはポピュラーな題材ですし、実際調べてみると、歴史から想起でき、映画になりそうなものがいくつも見つかったんです。たとえば織田信長が伊賀忍びを虐殺したことは知っていましたが、それは第二次の伊賀攻めで、第一次では伊賀者が織田軍に勝っていた。忍びと言うと、それこそ屋敷に忍び込んだり、暗殺したりといった、影働きのイメージがありますが、ちゃんと合戦をし、勝ったこともあったんだと。また、伊賀攻めの主戦場は山の中となり、忍びは猿のように木の間を飛び交い、織田の正規軍をやりこめるシーンをつくれる。そして最もやりたいなと思ったのはダーティヒーローを創り出せることでした。一般的にはどうかわかりませんが、ぼくには忍者は悪のイメージが強かったんです。
――主人公の無門は「伊賀一」と言われる忍びながら、カネを積まないと働かず、想い女のお国には頭があがらない。伊賀攻めが始まると敵前逃亡するが、舞い戻ってくる。カネとお国のために。
和田 これぞ理想のヒーロー像ですね(笑)。自分の理想を徹底的に盛り込みました。ベタと言われれば、これほどのベタはないかもしれませんが。
――無門の戦いぶりと純愛だけでなく、忍び同士の騙し騙されの心理戦もある。伊賀攻めは、天下布武の旗標を掲げていた織田方が進んで起こしたものでなく、伊賀側に企みがあり、織田軍を挑発し、攻め込ませた側面もあったという。
和田 史料に「無門の一関」という忍びの言葉があったんです。忍びの術の本質は飛んだり、跳ねたりの技でなく、他人に悟らせまいとする心の弱み、そこを関門に例えて「無門の一関」と呼び、これを突いて破り、他人を陥れることにあるというのです。伊賀には戦国大名が存在せず、六十六もの小領主、いわゆる地侍がゆるやかな軍事同盟を結んでいました。しかし、地侍同士はきわめて仲が悪く、互いを欺き、諍いが絶えなかった。伊賀国内の乱れと忍びの術と技、それに織田軍の伊賀攻めを組み合わせたら、面白い物語になると思ったんです。
――敵方の織田信長の次男、信雄と靡下の武将たちにも思惑や屈折があり、見事な群像劇になっています。
和田 敵が弱く、しっかりしていないと、合戦に勝っても、面白くもなんともない。しっかりしているというのは、単に敵が巨大だというだけではなく、敵もドラマを持っているということ。幸い織田方の武将には伊賀攻めの前後で、どのようなことをしていたかわかる史料が残されています。伊賀の出自でありながら、隣国の伊勢に渡って織田家に与した者がいたり、最も忠誠に見えた武将が後年、織田家を裏切ったりと、史実から人物像が自ずと立ち上がってきました。
――魅力的な人物たちと骨太なドラマで、とても映像的ですが、黒澤明でも撮るのは難しいかもしれません(笑)。
和田 脚本で書き尽くしたつもりだったので、小説にすると、セリフだけの読物になるんじゃないかと思っていました。でも、『のぼうの城』も『忍びの国』もどんどん書きたいことが出てきて、ますます映画化しにくくなってしまったかも(笑)。黒澤映画はとても好きで、『椿三十郎』を観たときは、かなり勇気付けられました。ああ、これでいいんだ、これが物語なんだと。ぼくが目指しているのも、わかりやすいテーマと起伏に富んだ物語。『忍びの国』のテーマは、善が悪を攻め、悪が善に勝ってしまうことで、悪である忍びにも、胸の内に秘めた哀しみがあり、それゆえに一途に女性を愛したり、善にも悪にも矜持や悩みがある。スタートこそ映画でしたが、『忍びの国』は自分が読みたい要素をすべてを盛り込めた小説になったと思います。