ホーム > 書籍詳細:あの人の食器棚

あの人の食器棚

伊藤まさこ/著

1,650円(税込)

発売日:2009/02/25

  • 書籍

人のおうちの台所って、どうしてこんなに楽しいのだろう。

その人の暮らしぶりがいちばん見えてくる場所、食器棚。人気スタイリストが、日ごろから気になっていた19のおうちやオフィスを訪ねて、台所へ直行! きちんと、おおらか、渋いのピカピカなの……それぞれの生活があらわれる食器を並べ、料理もさせてもらいました。もちろん全品レシピ付。いつもの食器がかわいく見える、うつわ使いの教科書決定版!

目次
まえがき
クスクス ジノリ 食いしん坊
宮脇彩 エッセイスト
間口の広さ
内田春菊 漫画家
オテル・ド・キッチン
大井幸衣 ファッションデザイナー
ちょっとずつ
川内倫子 写真家
パンとワインと木のお皿
井藤昌志 木工家
おじさんの着ぐるみ
長嶺輝明 写真家
古い家、新しい家
井山三希子 陶芸家
ボンヌ・ファム 良き婦人
野田善子 琺瑯会社勤務、主婦
おむすび上手
飛田和緒 料理家
憧れの棚
島るり子 陶芸家
沖縄へ
よなはらみよ ガラス工芸家
京都の町家のおだいどこ
鈴木潤 子どもの本専門店店長
もののある幸せ
石村由起子 雑貨店店主
晴れの休日
伊藤環 陶芸家
八ヶ岳の山の家へ
米田倫子 リネンショップ店主
岡戸さんですもの
岡戸絹枝 編集者
生活は楽しい
矢田部英正、祥子 身体技法研究家、主婦
5つか、6つか?
長野真智子 絵画教室主宰
歩さん
大橋歩 イラストレーター
私の食器棚

書誌情報

読み仮名 アノヒトノショッキダナ
雑誌から生まれた本 芸術新潮から生まれた本
発行形態 書籍
判型 A5判
頁数 160ページ
ISBN 978-4-10-313871-6
C-CODE 0077
ジャンル 住まい・インテリア
定価 1,650円

書評

食器棚は一日にして成らず

宮下奈都

『こはるのふく』という本があった。本屋さんでカバーの可愛い女の子に引きつけられて手に取り、何頁かめくってみただけですぐ虜になった。女の子の服の作り方の本だけれども、それだけではなくて、なにかとても素敵なものが詰まっている感じ。載っている服はもちろん、服の置かれている風情だとかまわりにある空気みたいなものも、それから本自体のたたずまいも、すごくよかった。
 当時、私はミシンを持っていなかった。娘はいたものの、将来一人前に服を着るようになるとはとても思えないくらい小さな生まれたてのほやほやの赤ん坊だった。それでも、ぐうっと惹かれるものがあった。それが伊藤まさこさんの本との最初の出会いだ。(表紙の女の子はお嬢さんのこはるちゃんだったそう。)
 以来、伊藤まさこさんのお名前を目にすると、わくわくと手に取るようになった。職業上の肩書きはスタイリストだ。売れっ子で、気をつけて見ればあちこちにお名前が出ていた。でも、ほかにもいろんなことをしている。服をつくるのもそうだし、料理のレシピもたくさん出していて、街を歩いて見つけたいいものを紹介するような本も書いている。
 今度の本では人の家の食器棚をのぞきにいくという。しかも、その家で料理をして一緒に食べるのだそうだ。それはぜひ、だ。ぜひ、お供させてほしい。人の家の台所ってのぞいてみたいけど、なかなか入れてもらえない場所だし、私もやっぱり滅多に人を入れたりしない。どんなに取り繕っても台所を見ればその家のことがだいたいわかってしまうから。
――人のおうちの台所ってどうしてこんなに楽しいのだろう。
 まず帯にそう書かれてあって、あっわかる、と思う。ただのぞくんじゃなくて、自然に入っていくんだな。私にも何度かある。お邪魔した家でお喋りが尽きなくて、ごはんやお茶の支度をする友人のうしろから台所までくっついていって、へーそれってそうやってつくるんだーとか、いい塩を大胆に使うんだねえとか、いちいち感心しながら手伝いにもならない手伝いをし、それから一緒にごはんを食べたりお茶を飲んだりする。そういうときってほんとうに楽しい。
 写真がいい。その楽しい感じがしっかり伝わってくる。一枚一枚に雰囲気があって、お鍋にもお皿にも料理にもじっと見入ってしまう。ほんとうにみんなこんなに素敵な食器棚を持っているの? こんなおいしそうなものを食べているの?
 伊藤まさこさんはここではどうやら引っぱり出し役だ。食器棚からいちばん合うお皿を一枚、二枚、と選んで引っぱり出す。そのお皿にまつわるエピソードを持ち主から自然に引っぱり出す。一緒に笑顔も引っぱり出す。伊藤まさこさんがここにいたから撮れた写真に違いない。
 ときどき写真に入っている伊藤まさこさんの笑顔。これがまた、いいのだ。沖縄の青い空の下で、訪ねた家族と一緒にごはんを食べるまさこさんのくつろいだ笑顔。大きなプリンを型から外すときの(そしてたぶんちょっと失敗した?)子供みたいな表情。こういう顔に惹かれて、ついついみんな懐を開いて自分の家の食器棚を見せてしまうんだろう。
 本の最後に「私の食器棚」が登場する。まさこさんご本人の食器棚だ。いい。すごくいい。シンプルで、端正なのに、やさしくて、味があって。最初に私が惹かれた『こはるのふく』を思い出した。まさこさんの食器棚も、料理も、服も、きっとまさこさんそのものだ。それなのに、ご本人は、うかがった家の方々に影響を受けまくりです、という。いいなあ、自由だなあ、かわいいなあ。この柔軟さ、おおらかさ、そして正直さ。
 それから、もうひとつ大事なことを。出かけた先の台所で実際にまさこさんがつくった料理のレシピも載っている。ねぎと香菜とささみのサラダ、白玉入りさつまいもの甘いスープ。さっとつくれて絶品だった。

(みやした・なつ 作家)
波 2009年3月号より
単行本刊行時掲載

著者プロフィール

伊藤まさこ

イトウ・マサコ

1970年、横浜生れ。文化服装学院でデザインと服作りを学ぶ。料理や雑貨など「暮らし」をベースにしたスタイリングを手がける。著書に『あの人の食器棚』『台所のニホヘト』『家事のニホヘト』『美術館へ行こう ときどきおやつ』(以上新潮社)、『新装版 毎日ときどきおべんとう』(PHP研究所)など多数。自らプロデュースした衣食住にまつわる商品を販売するサイト「weeksdays」を「ほぼ日」と一緒に運営中。

この本へのご意見・ご感想をお待ちしております。

感想を送る

新刊お知らせメール

伊藤まさこ
登録
住まい・インテリア
登録

書籍の分類