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この世の終わり。それは、神に赦されぬ狂おしい愛がきっと叶う永遠の彼方――。

  • 受賞第21回 日本ファンタジーノベル大賞

月桃夜

遠田潤子/著

1,512円(税込)

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発売日:2009/11/20

読み仮名 ゲットウヤ
発行形態 書籍
判型 四六判変型
頁数 282ページ
ISBN 978-4-10-319831-4
C-CODE 0093
ジャンル 文芸作品
定価 1,512円

死んでしまおうと海に出た彼女に、虚空を彷徨う大鷲が問う。いまは亡きお前の兄の、熱い吐息を受け止めないのか? かつて薩摩が支配した奄美にも、赦されぬ関係を望んだ兄妹がいた。運命に逆らった二人の悲話を、鷲は月光に濡れて語り出す……。想いは人知れず、この世の終わりまで滾り立つ――まさに至高のファンタジー!

著者プロフィール

遠田潤子 トオダ・ジュンコ

1966(昭和41)年、大阪府生まれ。関西大学文学部独逸文学科卒業。2009(平成21)年、『月桃夜』で日本ファンタジーノベル大賞の大賞を受賞しデビュー。ほかの著書に『アンチェルの蝶』(大藪春彦賞候補)、『鳴いて血を吐く』『雪の鉄樹』『お葬式』がある。

書評

波 2009年12月号より 計り知れない神との対決

石井千湖

南米、東欧、あるいは沖縄。苦難の歴史を歩んだ地域は、幻想文学の宝庫だ。過酷な現実に、想像力で破れ目を作ろうとするからだろうか。第二十一回日本ファンタジーノベル大賞を受賞した『月桃夜』の舞台は、奄美大島である。琉球王国、薩摩藩、アメリカ……歴代の支配者の都合に振り回されてきた島。著者は大阪出身で奄美には行ったことがないそうだが、土地の記憶をどこかでインストールしたんじゃないかと思うくらい、幕末の奄美で厳しい生活をおくる人々の姿、禍々しいけれど魅惑的な神の姿が、生々しく立ち上がってくる。
カヤックに乗った若い女が、月夜の大海原を漂流している。そんなシーンから、本書は始まる。彼女の名は茉莉香。都会から訪れた旅行者だ。茉莉香が島で買った月桃水を浴びると、隻眼の鷲があらわれる。〈ごめんね。私はまだ死んじゃいないの。悪いけど出直してきてくれる?〉という茉莉香の言葉に、鷲はこたえる。〈気遣いはありがたいが、俺に屍肉を喰らう趣味はない〉。気の利いた口をきく鷲である。
鷲によれば、茉莉香の体からは魂がぬけかけているらしい。だから鷲と話せるのだと。どういう経緯で茉莉香は魂を失おうとしているのか。鷲が月桃の香りに反応するのはなぜか。〈この世の終わりを待っている〉という謎めいた言葉の意味は? 茉莉香と鷲の対話を描く「海のはなし」を縦糸に、鷲が語る「島のはなし」を横糸にして、強い絆で結ばれすぎた兄妹のかなしい物語が織りあげられていく。
奄美といえば大島紬と黒糖焼酎。それくらいしか思い浮かばない。茉莉香と同じで、まったくの無知である。だから「島のはなし」を読んで驚いた。当時の奄美では、砂糖が貨幣のようなものだった。支配者である薩摩藩に決められた量の砂糖をおさめられないときは、成り上がりの豪農に借りる。それを返せないと、ヤンチュと呼ばれる農奴になるのだ。両親がヤンチュだとヒザになる。「島のはなし」の主人公フィエクサは、ヤンチュのなかでも特に差別されるヒザの少年。天涯孤独のフィエクサは、親を亡くしてヤンチュになったばかりの少女、サネンと出会う。二人は山の神に、兄妹になるという誓いを立てる。そのことが自分たちにとって大きな苦しみになるとは知らずに。
子供であっても重労働を課せられるつらい毎日。フィエクサとサネンの支えになるのはお互いの温もりだけだ。生まれたときから奴隷で、普通の暮らしを知らないフィエクサが、サネンが歌う鞠つき唄を聞きたがるところが切ない。二人は幻の鞠をついて遊ぶ。やがてフィエクサは由緒ある家柄の主だったヤンチュに囲碁の才能を見出され、サネンは針突(女性が手の甲に施す装飾的な刺青)にあこがれる。幻の鞠よりは、現実に近いはずの希望が芽生えるのだ。しかし――。
二人を奈落の底に突き落とす、血のつながらない兄妹との恋。少女マンガでは王道だ。本書の場合、そこに奄美の山の神が絡む。この神がすごい。サネンの父の死に際の願いを聞き、二人の兄妹の誓いに立ち会った神だ。真っ白い振袖を着た、美しい女の姿をしている。振袖は、実は霊魂の化身である蝶でできていたりする。お洒落だ。見かけは人間に似ているのだが、本意は計り知れない存在として描かれている。神だから当然といえば当然だ。ただ、その計り知れなさのあり方に意表を突かれる。
〈山でのことはみな、山の神さまの心の内だ〉という警告の意味、山の神が〈憐れなフィエクサ〉と繰り返しいっていた理由がわかったときの戦慄といったら。二人と山の神の最後の会話は、次々と伏線が回収されていく感じが、まるでミステリーの謎解きのようだった。かといって、すべてが腑に落ちるわけではなく、もうひとつ別のタイプの、わけがわからない神を出しているところもいい。
他にもフィエクサと薩摩藩の侍の囲碁対決や、「海のはなし」で少しずつ語られる茉莉香の過去など、緊迫感のある場面の連続。寝る前に読みはじめて、気がついたら、小説の終わりと一緒に夜が明けていた。

(いしい・ちこ ライター/ブックレビュアー)

目次

海のはなし 1
  島のはなし 1
海のはなし 2
  島のはなし 2
海のはなし 3
  島のはなし 3
海のはなし 4

判型違い(文庫)

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