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「男子が男子を好きになるのは、おかしなことですか?」

D菩薩峠漫研夏合宿

藤野千夜/著

1,944円(税込)

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発売日:2015/10/30

読み仮名 ディーボサツトウゲマンケンナツガッシュク
雑誌から生まれた本 から生まれた本
発行形態 書籍、電子書籍
判型 四六判
頁数 254ページ
ISBN 978-4-10-328522-9
C-CODE 0093
ジャンル 文芸作品、文学賞受賞作家
定価 1,944円
電子書籍 価格 1,555円
電子書籍 配信開始日 2016/04/01

「ぜったい一緒に寝ようね。おにいさまより。」漫研の合宿に初参加した15歳の「わたし」は、出発前のバッグの中にメモを見つけて……。テレビもラジオもない漫画漬けの日々、熱愛カップルの復活、思いがけないおしおき、意外な告白、夜更けの甘いあえぎ声……。切なさに胸熱くなるひと夏の物語。著者初の自伝的BL小説。

著者プロフィール

藤野千夜 フジノ・チヤ

1962年福岡県生れ。千葉大学教育学部卒業。1995年「午後の時間割」で海燕新人文学賞を受賞しデビュー。1998年『おしゃべり怪談』で野間文芸新人賞、2000年「夏の約束」で芥川賞を受賞。主な著書に『ルート225』『主婦と恋愛』『中等部超能力戦争』『少女怪談』『親子三代、犬一匹』『ネバーランド』『願い』『君のいた日々』『時穴みみか』などがある。

書評

[藤野千夜『D菩薩峠漫研夏合宿』刊行記念特集]
キュン

川上弘美

『D菩薩峠漫研夏合宿』は、東京の私立中高一貫の男子校の漫研の、一週間にわたる夏合宿を描いた小説である。
 キュンとくる。という言葉を、今までの一生で、一度も使ったことがなかったのだけれど、はじめて使うことにする。このシチュエーションは、そしてシチュエーションを構成する男の子たちは、なんてキュンとくるのだ……。
 主人公は、「少佐」あるいは「姫」と呼ばれている「わたし」。「少佐」なのは、青池保子のマンガ「エロイカより愛をこめて」の、エーベルバッハ少佐のごとき四角い顔をしているから。「姫」なのは、男の子たちの中で、「姫」な存在だから(ちょっとだけ、足手まとい。でもまあ、姫な性格だから、しょうがない、という感じ)。そう。漫研の活動の中で、男の子たちは、ごく自然に同性のカップルをつくり、お気に入りをつくり、たわむれあう。それは、主観的には竹宮惠子のマンガ「風と木の詩」のような美しい世界かもしれないけれど、実際にはただのそのへんの男の子たちなのだから、客観的には、けっこう可笑しい。そして、かれら自身は、その可笑しさもちゃんと承知している。
 かれらの物語を読んでいてキュンとくるのは、思春期の同性だけの世界の、多分に擬似的な恋愛が、さりげなく、けれどかなり正確に、描かれているからだ。恋愛、と書いてしまったけれど、ほんとうはそれは、恋愛とは少しちがうものだ。恋愛とはちがうけれど、ちがうからこそ、その関係は得がたい輝きを持つ。
 たくさんのマンガや散文の中で、少年や青年どうしの恋愛は美しく描かれてきたけれど、ここにあるのは、もっと「ほんとうっぽい」ものだ。美しすぎることはないし、かといって、見当外れなリアリズムを追求するのでもない。ただありのままの、中高生の男の子たち。その姿を、藤野千夜さんは生き生きと活写する。
 私は女子校育ちなので、この小説にある、同性カップルののびのびした感じはよくわかるのだけれど、もし自分が書くとしたら、それは必然的に女子校の夏合宿となり、作中で幾多の恋愛的なことを描くとしても、男の子たちのものとはずいぶんと違うものとなったにちがいない。その意味で、この小説は思春期の男の子たちに関しての、とても貴重な記録であるともいえる。
 合宿なのだから、漫研としての活動も、ちゃんと行われる。恋愛ばかりに目がいっている男の子ばかりではないのは、男女両方が存在する団体と、まったく同じだ。顧問の先生の篤実さが、いい。それから、卒業してしまった先輩たちの「先輩らしさ」も、いい。どの男の子も繊細な心を持つのだけれど、そのあらわれかたがそれぞれに違うのも、いい。
 楽しくまた可笑しく読んでいくうちに、ふと気がつくと、透明で冷たくて美しい水の中に沈んでゆくような、不思議な心もちに、私はなっていた。男の子たちは、笑いながら、ふざけながら、存外きびしく自分の本質と向き合っているのだ。その過程が、せつなくもみずみずしくて、読み手の心を静謐にさせる。
 章題がまた、絶妙だ。第一章の題は、「おにいさまへ……」(池田理代子)。第二章「おしおきしちゃうから!」(岩館真理子)、第三章「こいきな奴ら」(一条ゆかり)、以下、「花ぶらんこゆれて……」(太刀掛秀子)、「ススムちゃん大ショック」(永井豪)、「共犯幻想」(真崎守)と続く。元のマンガを読んだことのある方には、この進みゆきの感じがわかっていただけるだろうか。緊張と緩和、そして最後の章へのテンションの高まりかたを、ぜひ味わっていただきたい。
 読み終わってから、ためいきをついた。人間ってなあ。というためいきだ。このためいきをつかせてくれる小説は、稀だ。一見、渾身に見えないけれど、渾身の作品である。その、見えなさ加減がまた、藤野さん独特の持ち味なのだと思う。

(かわかみ・ひろみ 作家)
波 2015年11月号より

目次

第一夜 おにいさまへ……
第二夜 おしおきしちゃうから!
第三夜 こいきな奴ら
第四夜 花ぶらんこゆれて……
第五夜 ススムちゃん大ショック
第六夜 共犯幻想
エピローグ 夏の終わりのト短調

インタビュー/対談/エッセイ

[藤野千夜『D菩薩峠漫研夏合宿』刊行記念特集]
【インタビュー】「秘密にしていた漫研時代を書きました」

藤野千夜

――『D菩薩峠漫研夏合宿』は自由な校風で知られる都内の某有名中高一貫男子校の漫画研究会に入った高校一年生の「わたし」が、夏の合宿で過ごした七日間を描く物語ですが、本の帯には「初の自伝的BL小説」「リミッターを外して書きました」とあります。藤野さんがご自身のことを描かれるのは初めてですよね。
 いえ、私は公称はフェリス女学院出身ですから、男子校出身ではありません(笑)。今年で作家デビュー二十年ですが、セクシャルマイノリティを主人公にした小説は、芥川賞をいただいた『夏の約束』以来、書きませんでした。そもそも一人称の小説というのも、ほぼ書いたことがなくて、『ルート225』はヤングアダルトという分類になるので一人称の方が馴染みやすいかなと思ってそうしたのですが、基本は三人称でした。今回はそういった自分の中での「制約」を一度見直して、秘密にしていた漫研時代を一人称で書いて、今まで書かなかった「自分に近いこと」に挑戦してみました。
――一九七〇年代の社会的な出来事や、アニメや漫画のタイトルとか、ディテールが非常にリアルです。
 あやふやな記憶を辿って、当時の出来事を思い出しながら書いていきました。例えばD菩薩峠から尾瀬に行ったと思い込んでいたのですが、書くときに改めて地図を見たら、あまりに遠くてそんなはずはないなとわかったりして、それくらい曖昧な記憶です。ただ当時、自分のよく見ていなかった物事に関しては、あえて曖昧なままにして、そこに記憶をつなげることで小説化していったところはあります。
――自分はおかしなフェロモンでも発しているのだろうか、「治らないはしか」を患っているのではないか、と主人公の悩みや苦しさが胸に迫ってくる一方、部室で生徒同士がいちゃついている場面などには驚かされました。
 とにかく自由な学校だったので、高校生くらいになると男の子が男の子を好きになるのも割とオープンで、遊び半分も含めれば、全体の一割くらいがそうなのかな、とも思える感じでした。放課後の教室や漫研の部室で、膝枕していたり、ちゅっちゅ、ちゅっちゅしているのもよく見ましたよ。私自身は幼稚園の頃から、将来は女の人になると信じていましたが、別に変だとも思わず、特に小さい頃は鏡台にあった口紅を塗ってみたり、マニキュアを塗ったりして、親も気づいていたと思うけれどスルーされていましたね。
――学生生活は主人公の「わたし」に近いものでしたか?
 学校はそんなに好きではなかったので、あまり行かないで、漫画と小説を読んで映画を見に行って、教室では授業中も放課後もずっと何かを読んでいました。中一から漫研に入ったのですが、漫研は好きでした。合宿も楽しい思い出で、ただ書くには時間が必要だったというか、三十五年前をたどる形をとれたから書けた小説だと思います。実際に「ジャック」のモデルが数年前に亡くなって、その時は本当にあふれるように思い出が蘇ったのを覚えています。ゲラを読み直して、ちょっと泣きました。
――各章のタイトルが、池田理代子、岩館真理子、一条ゆかり、永井豪などの当時の漫画と同じで、たくさんの漫画の話が出てきますが、執筆中ご自身の漫画歴を振り返られましたか?
 本当を言うと太刀掛秀子さんの『花ぶらんこゆれて……』だけまだ当時は描かれていなかったんですが、どうしても使いたくて。小学生の頃は自分で「りぼん」や「少女コミック」「マーガレット」を買って『ベルばら』とかも夢中で読んでいました。でも『はだしのゲン』が載っていた「ジャンプ」も読んでいましたよ。『トイレット博士』とか、少し前だと『ハレンチ学園』も読んで、中学に入ってからと遅いんですけれど、手塚治虫も大好きでした。とにかく漫画が好きで、家族旅行でも修学旅行でも、ずっと漫画を読んでいたので風景も何も覚えていないんです。この小説を書くために当時の漫研の同人誌を引っ張り出して読んでみたら、みんな中高校生なのに大人っぽい漫画を描いているんでびっくりしました。
――藤野さんも漫画家になりたかった?
 いえ、小説にも書きましたが、進路希望調査で将来の夢を聞かれると「イギリス王女」と書いたくらいです。その前は「あべ静江」でした(笑)。担任には「はいはい」と受け流されましたけど、本気でした。
――藤野さんは、共通一次の国語の試験問題になっていた「鳥寄せ」という短編小説に感動して、試験の帰りに書店でその本『木馬の騎手』を買ったというエピソードがありますね。
 あの小説で試験中に泣きました。三浦哲郎さんの小説はそれをきっかけに好きになったのですが、「鳥寄せ」が最初に掲載されたのが「」だったそうで、今回同じ雑誌に連載することが出来て感慨ひとしおです。芥川賞の選考会でも三浦さんが推して下さったと聞きました。うれしかったですね。
――この小説は藤野さんにとってどういうものになりましたか。
 たまたまですが一昨年から、『君のいた日々』『時穴みみか』とノスタルジックな要素のある作品をつづけて発表しました。今回はいよいよ作者が登場して、過去の恋心を語る話です。自分にとっての『野菊の墓』みたいな小説だと思っています。

(ふじの・ちや 作家)
波 2015年11月号より

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