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叔父は文字だ。文字通り――。書くこと、読むことの根源を照らし出す二つの恐るべき物語。

これはペンです

円城塔/著

1,512円(税込)

本の仕様

発売日:2011/09/30

読み仮名 コレハペンデス
雑誌から生まれた本 新潮から生まれた本
発行形態 書籍、電子書籍
判型 四六判
頁数 174ページ
ISBN 978-4-10-331161-4
C-CODE 0093
ジャンル 文芸作品、文学賞受賞作家
定価 1,512円
電子書籍 価格 1,210円
電子書籍 配信開始日 2012/03/09

文章の自動生成装置を発明し、突飛な素材で自在に文章を生み出す叔父と、その姪の物語「これはペンです」。存在しない街を克明に幻視し、現実・夢・記憶の世界を行き来する父と、その息子を描く「良い夜を持っている」。言葉を手がかりに繋がろうとする人々の姿と、言葉の根源的なありようが鮮やかな像を結ぶ、比類ない二つの物語。

著者プロフィール

円城塔 エンジョウ・トウ

1972(昭和47)年北海道生れ。東京大学大学院総合文化研究科博士課程修了。2007(平成19)年「オブ・ザ・ベースボール」で文學界新人賞受賞。2010年『烏有此譚』で野間文芸新人賞、2011年早稲田大学坪内逍遙大賞奨励賞、2012年『道化師の蝶』で芥川賞、『屍者の帝国』(伊藤計劃との共著)で日本SF大賞特別賞を受賞。他の作品に『Self-Reference ENGINE』『Boy's Surface』『後藤さんのこと』などがある。

書評

波 2011年10月号より 現代文学の最前線を行く忍者

沼野充義

円城塔はこのところ、ものすごく調子がいい。彼でなければとうてい書けないような種類の傑作を次々と、かなりのペースで発表して、未曾有の領域を突っ走っている感がある。もうたいていのことは書かれてしまった、文学に新しいものなんてない、と斜めに構えているすれっからしの読者でさえも、彼の作品には驚く。私もいつも驚いている。しかもそれは、奇を衒った実験の難解さゆえの驚きではない。こんなに科学っぽく理屈っぽい作品なのに、こんなに面白いのはなぜだろう、と読者を不思議がらせるからなのだ。
『これはペンです』も、そんな円城塔の最新作を二つ収める。表題作の「これはペンです」と、「良い夜を持っている」という二つの中篇。どちらも英語の教科書からとられた例文の直訳のような、人をくったタイトルだが、中味はこのタイトルから容易には想像できない、一筋縄ではいかないものである。
「これはペンです」では、読者はまず、「叔父は文字だ。文字通り」という出だしに驚かされるに違いない。しかし、この叔父は「文字のくせに人間なのだ」ともいう。いったいどういうことだろう? この「人物」(生身の人間なのか?)はアメリカに渡ってテキストの「自動生成」プログラムを開発し、擬似論文生成事業などを手がけて成功した後、文字に関わるあれこれの細工を「工作」しては、姪に送ってくるようになった。そして、この叔父と姪の手紙のやりとりと、姪による叔父の正体探索の試みがこの作品の本体を成す。彼女の卒業論文のタイトルは「叔父を書く方法について」というものだという。
これは難解な作品とは言えるだろうが、作家の独創性を特権的なものと考えがちな純文学に対する風刺の意図も含まれた一種の科学的寓話として読め、とてもユーモラスでもある。作中には物理用語をちりばめて、でたらめな内容の論文をそれらしくでっちあげて、思想系の学術誌に投稿したら掲載されてしまったというソーカルのスキャンダラスなケースへの言及があるが、いわゆる「純文学」にも似たようなことがあるのではないか? 「わたしたちはあまりにも簡単に出鱈目を書けてしまうと思わないかね」という叔父の言葉は、おそらく作者自身と、文学という制度との両方に向けられた皮肉になっているのだろう。
「これはペンです」が、姪による叔父探しの物語だったとすれば、その姉妹篇のように見えるもう一篇の「良い夜を持っている」は、息子による父親探しの物語である。語り手の「わたし」の父は、「超記憶力」を持つゆえに、他人の理解を絶する異様な内面世界を生き、長年、専門家の教授の研究対象にさえなった。「俺は今喋っているか」「一時間とは何時間か」といった不可解な質問をするので、普通の人間関係を築けない一種の奇人、いや病人だった。しかし、過去のすべてを、街の細密画を無限に重ねていくような形で、自分だけの物語として記憶して絶対に忘れないという超能力を持っている。
この「超記憶症候群」というのは、作家の創作ではなく、実際に研究者に知られているものだ。しかし、円城塔は、父の記憶の世界に分け入り、気が遠くなるほど込み入った現実と複数の夢の中をさまよう。興味深いのは、そうして書かれた物語が、現実とフィクションの関係をめぐる探索であると同時に、それを記述するための言語の問題として立ち現れてくるという点だろう。かくして、「妻とはこの街で出会った」という単純な文が、何層にも積み重なったルビによって意味づけられていくという仕掛けが提示され、読者は眩暈を覚えるのである。
こんな円城塔の作品は、書くことの根底と文学的想像力のしくみを問う、思弁的(スペキュラティヴ)で、SF的で、実験小説的なメタフィクションである、などととりあえずレッテルならいくらでも重ねられそうだ。しかし、彼はどんなレッテルもすり抜け、科学と文学が、現実とフィクションが、そして書く者と書かれた物が溶けあって境界が判然としない未踏の領域にすすっと忍び込んでいく。そう、円城塔は現代文学の最前線を行く忍者なのだ。

(ぬまの・みつよし スラブ文学)

目次

これはペンです
良い夜を持っている

判型違い(文庫)

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