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運命を変えるのは、澄みきった心――傷ついた世界を再生させる傑作中国冒険奇譚!

  • 受賞第23回 日本ファンタジーノベル大賞

さざなみの国

勝山海百合/著

1,404円(税込)

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発売日:2011/11/22

読み仮名 サザナミノクニ
発行形態 書籍
判型 四六判
頁数 223ページ
ISBN 978-4-10-331441-7
C-CODE 0093
ジャンル SF・ホラー・ファンタジー
定価 1,404円

このままでは愛する村が滅ぶ。未来を悟った時、少年さざなみは旅立った。一匹の猫と共に……執拗に続く謎の襲撃、馬を愛する王女・甘橘との遭遇、剣の使い手の美少女・桑折との奇縁。やがて巷に死病が流行した時、さざなみの身体に潜む不思議な力が運命を一変させていく。古代中国を舞台に、癒しの極致を描く志怪ファンタジー!

著者プロフィール

勝山海百合 カツヤマ・ウミユリ

岩手県生まれ。2006年、「軍馬の帰還」で第4回ビーケーワン怪談大賞受賞。2007年、「竜岩石」で第2回『幽』怪談文学賞短編部門優秀賞を受賞。2011年、「さざなみの国」で第23回日本ファンタジーノベル大賞を受賞。その他著書に『竜岩石とただならぬ娘』、『玉工乙女』など。

書評

波 2011年12月号より 芳香を放つ「中心」なき物語

平山瑞穂

人は物語に触れるときに、おのずと「中心」を求めてしまう傾向がある。山場、あるいはクライマックスと呼んでもいい。いずれにせよ、多くの人は、そこを目がけて物語が大きく隆起していき、通過することで収束に向かう、力学上の特異点のようなものが、物語には必ず組み込まれているはずだということを暗黙の前提にしている。ところが稀に、そういう意味での「中心」を欠いた物語というものが存在する。
ここで言っているのは、「盛り上がりに乏しい、退屈な物語」のことではない。「中心」らしい「中心」が欠如しているにもかかわらず、作中の諸要素が有機的に結びつき合い、全体としては安定した統合体を形成しながら独特の芳香を放っているような作品のことだ。第23回日本ファンタジーノベル大賞の大賞を受賞した勝山海百合さんの『さざなみの国』は、「中心」なき物語として実に端整きわまりないたたずまいを呈している稀有な作品であると言うことができる。
より正確に言うなら、「中心」は欠けているのではなく、作中の随所に分散しているのだ。本作は一応、ある時代の中国を舞台に、さまざまな異風を持つ辺境の孤立した「むら」から街に出てきた少年「さざなみ」が辿った数奇な半生を追う体裁を取っているが、さざなみをいわゆる「主人公」と見なすことには抵抗を覚える。この少年と関わりを持つ周囲の人物たちについても、均等に紙幅が割かれ、視点が与えられ、それぞれが「主人公」であるかのようにふるまうからである。
さざなみと許嫁の関係にある、零落した名家の娘・桑折。その幼なじみとして、桑折との間にほのかな恋情を漂わせる病弱な青年・欧相岩。今上帝の妾腹にして乗馬を好み、さざなみが仕える遊馬城にちょくちょくお忍びでやって来る甘橘姫。それぞれの境遇がそれぞれの視点で詳しく語られ、次の者にゆるやかにバトンが手渡されることによって、全体としての物語が紡がれてゆく。それでいて群像劇のような騒々しさや密度も感じさせず、すべてがさらさらと流れていくかのように見えるのは、勝山さん特有の恬淡とした筆致のなせる業だろう。
今回、日本ファンタジーノベル大賞を受賞するまでに、勝山さんはすでに三冊の本をものしているが、最初の二作は短篇集であり、いずれも志怪小説的な趣のある小品を中心に編まれたものである。三作目『玉工乙女』は初の長篇だが、長篇でありながら、短篇が淡々と連鎖していく中で知らぬ間に結末へと連れていかれるような、不思議な読後感を残す作品だ。そして本作『さざなみの国』で勝山さんは、その不思議な書き味をいっそう洗練させ、自家薬籠中のものとして使いこなしているように見える。
くだくだしい心情描写を大胆に捨象した歯切れのよい文体は、どこか簡潔な漢文で書かれた「記録」を思わせる。志怪小説風の味わいは、ここでもやはり生きているのだ。そもそも、中国六朝時代に流行した志怪小説には「記録」としての意味合いが強く、書き手にも歴史家が多かったという。勝山さん自身がおそらくそれを意識しており、ところどころで、「その子どもが成長した記録は残っていない」といった一文を不意打ちのように挿入するあたりは、心憎いと言うよりほかにない。
ただ、あっさりした「記録」風のサブプロットが幾重にも均等に折り重なっているように見える中にも、実はドラマツルギー上ひとつの「中心」をなしているエピソードがある。それが一見したところ「中心」に見えない理由は自明だ。甘橘姫が、病に冒されたわが身を救うために、臣下であるさざなみに要求する献身――この非常に残酷なくだりさえ、勝山さんは情緒を排した同じ文体でさらりと描き出しているのである。
しかしそうであるが故になおのこと、その場面は残虐にして、いささかエロティックにすら見える。書かれていない部分、「記録」風の文面のそっけなさにマスキングされている部分を、想像で補おうとせずにはいられないからである。そして物語は、同じ温度の低さを保ちながら、寂寥感溢れる結末へとシームレスに読者を導いていく。
説明過剰な小説、起承転結にメリハリをつけすぎて、かえってげんなりさせる既視感を煽ってしまう「ベタな」物語も世に多く出回っている中で、絶妙な抑制を利かせながらこうした複雑な余韻を残す小説を書ける作家の存在は貴重だろう。今後のご活躍にもおおいに期待したいところだ。

(ひらやま・みずほ 作家)

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