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失踪した漫画家の過去、「邪馬台国」の謎――葬られた記憶の鍵は、すべて漫画が握っている!

黄泉眠る森―醍醐真司の博覧推理ファイル―

長崎尚志/著

1,728円(税込)

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発売日:2015/03/20

読み仮名 ヨミネムルモリダイゴシンジノハクランスイリファイル
発行形態 書籍、電子書籍
判型 四六判変型
頁数 314ページ
ISBN 978-4-10-332172-9
C-CODE 0093
ジャンル ミステリー・サスペンス・ハードボイルド
定価 1,728円
電子書籍 価格 1,382円
電子書籍 配信開始日 2015/09/04

デブでオタクで偏屈な天才的漫画編集者、醍醐真司。創作中に姿を消した人気ホラー漫画家の謎を追いながら、最後の“女帝”漫画家と「邪馬台国」という古代史最大の難題に挑む。すべてのピースがはまったとき明らかになる、おぞましくも悲しい真実とは――。漫画界のカリスマが魅せる、知的興奮に満ちた博覧強記ミステリ!

著者プロフィール

長崎尚志 ナガサキ・タカシ

作家・漫画原作者・編集者。週刊漫画雑誌編集長を経て、2001(平成13)年フリーに。漫画原作・脚本に『MASTER キートン』『MASTERキートン Reマスター』(浦沢直樹)。リチャード・ウー名義で『クロコーチ』(コウノコウジ)、『ディアスポリス 異邦警察』(すぎむらしんいち)など多数。2010年、『アルタンタハー 東方見聞録奇譚』で、小説家としてデビュー。ほかに『闇の伴走者 醍醐真司の博覧推理ファイル』『パイルドライバー』がある。

書評

波 2015年4月号より [『黄泉眠る森―醍醐真司の博覧推理ファイル―』刊行記念特集インタビュー]  ギリギリ愛せる(!?)名探偵

長崎尚志

 ――前作『闇の伴走者』は長編ミステリでしたが、今作は短編連作という形をとっています。構想はどこから?
編集の方から、次は短編でお願いします、というリクエストをいただいたんですが、そのときにただの短編よりも、全体を通して一つのお話にもなるようにしたいと考えたのがきっかけです。難しい挑戦でしたが、その分、前作以上に面白く読んでいただける作品になったと自負しています。

 ――シリーズの主人公である醍醐は、博覧強記のマンガ編集者。アクは強いですが、魅力的なキャラクターですよね。
側にいたら迷惑そうだけど、ギリギリ愛せる、というぐらいの主人公がキャラクターとしては強いと思うんです。寅さんしかり、釣りバカ日誌のハマちゃんしかり。実際に彼らと接するのはたぶん大変だと思うんですが(笑)、キャラクターとしては素晴らしい。だから醍醐も「ギリギリ不快じゃない」人物を目指しました。4月からWOWOWのドラマで醍醐を演じてくださる古田新太さんは「強烈だけど可愛げがある」キャラクターを演じられる方で、まさに適役。作中作の漫画も含め、原作に忠実につくってくださっているので、観るのが楽しみです(『闇の伴走者』4月11日~毎週土曜、全5回放映)。

 ――第二話では彼が邪馬台国について自説を展開します。
尊敬する半村良さんの影響もあって、古代史ネタはもともと好きなんです。邪馬台国にも昔から興味があったんですが、古文書を読むハードルが高くてずっと避けてきた。ただ近年は口語訳も充実して、漢文を読みこなせなくてもなんとかなることがわかったので、やはり日本人なら一度は調べてみようと。ご存知のとおり比定地は様々な説があるので、邪馬台国ファンの方には自説と違ってもご容赦願いたいです(笑)。

 ――他にも、「女帝」と呼ばれる漫画家・朝倉ハルナや、プチ醍醐のような少年・安蘭など、強い印象を残す人物が多数登場します。それも連作ならではですね。
安蘭は、醍醐に対抗できるヤツが出てきたら面白いなと思って書きました。彼が出てくる第三話は、自分でもとても気に入っています。どのキャラクターも特定の人物をモデルにしているわけではなく、自分の中にあるものや、自分が他者に見ているものを増幅させてつくりだしている感じです。よく私自身が醍醐のように知識豊富だと勘違いされるのですが、私は「問い」を思いつくだけです。でも、「問い」を立てられる人だけが「答え」をもてる。今はパソコンで知識が検索できる時代なので、より簡単に「答え」に辿り着けますよね。

 ――マンガ創作の裏側についての描写もさすがリアルでした。
最近はリアリティのある作品も出てきましたが、ドラマなどで描かれるマンガの世界は、まだまだ誤解も多いように感じます。昔、武豊さんが、競馬の騎手はいかに不幸かという話の中で「勝つと馬のおかげ、負けると騎手のせい」と嘆いておられましたが、マンガ編集者もそれに近い。作品がヒットすると漫画家がすごいと言われ、失敗すると編集者に無理矢理描かされたということになる。でも、マンガ家ってそんなに気の弱い人たちじゃないですよ。編集の言うとおりになんてまず描いてくれない(笑)。もちろんこの作品に出てくるような関係がすべてとは言いませんが、こういう部分もあるんだと思って読んでいただけたら。

 ――マンガと小説、創作にあたっての違いはありますか。
マンガは連載中の評価が重要で、連載が終わってしまうとあまり評価の対象にはならなくなりますし、商業的にも伸びなくなります。つまり読者は、今後の展開の面白さに投資をしてくれている。それに対して小説は、できあがったものが面白いかどうかにかかっていますよね。そこが大きく違います。創作途中の孤独度は、小説のほうが圧倒的に高いです。
また、マンガの場合、スジを優先するとキャラが薄くなり、キャラを優先するとスジが薄くなる、ということが起こりがちです。でも、小説ならどちらも成り立たせることができる。それが書いていて楽しいですね。もともと小説のほうが好きで、私のつくるマンガは、ほとんど小説からの発想なんです。中でもミステリーというジャンルは、ただの犯罪小説ではなく、人間の善の部分にも悪の部分にも光をあてることのできる、読みやすいけれど非常に奥の深いものだと思っています。それが作品を通じて読者の方に伝わっていれば嬉しいです。

(ながさき・たかし 作家、漫画原作者、漫画編集者)

[→][『黄泉眠る森―醍醐真司の博覧推理ファイル―』刊行記念特集]千街晶之/博覧強記の編集者と追う創作の深奥

目次

第一章 消えたマンガ家
第二章 邪馬台国の女帝
第三章 天国か地獄か
第四章 闇の少年

インタビュー/対談/エッセイ

波 2015年4月号より [『黄泉眠る森―醍醐真司の博覧推理ファイル―』刊行記念特集] 博覧強記の編集者と追う創作の深奥

千街晶之

ミステリに登場する探偵役の職業というと、私立探偵か警察官が大部分だろうが、学者・宗教家・小説家・フリーライター・官僚・俳優・医師・写真家・落語家・占い師等々が探偵役という例もあり、実は世の中の殆どの職業は探偵役になったことがあるのではないかという気がする。しかし、よく考えると、編集者が探偵役という例はあまり思い浮かばない。黒子というイメージが強いからだろうか。
例外的に、編集者かつ名探偵として印象的なのが、長崎尚志の「醍醐真司の博覧推理ファイル」シリーズに登場するフリーのマンガ編集者、醍醐真司だ。幅広い分野の知識を持ち、編集者としての敏腕ぶりは折り紙つき。ただし傍若無人にして狷介、美食家にして大食漢、体重は三桁と推定される巨漢……という、なかなか強烈なキャラクターである(四月にWOWOWでドラマ化されるシリーズ第一作『闇の伴走者』では古田新太が醍醐を演じるようで、まさにイメージぴったりと言える)。その『闇の伴走者』は、大物マンガ家の未発表画稿に秘められた謎と連続失踪事件の真相に醍醐が迫るスリリングなミステリだった。
『黄泉眠る森』は、このシリーズの第二作にあたる。第一話「消えたマンガ家」では、醍醐が他人からはどう見えるかが、かつて彼が籍を置いていた英人社の若手編集者・安田の視点から描かれる。安田が担当するホラーマンガ家・椋洸介が「もう原稿を描くことができません」というメールを残して失踪した。編集長に相談したところ、かつて椋を他誌からスカウトしてきた醍醐に協力してもらって探し出せ……という指示を受ける。初めて会った醍醐はおよそ好感など持てそうにない男だった。だが、醍醐は椋のデビュー作を読むよう安田に助言する。その作品にはどうやら、椋の実体験が反映されているようだった……。マンガの原稿の内容を手掛かりとする推理が楽しめると同時に、若手編集者を先輩として醍醐が指導する物語でもある。
続く第二話「邪馬台国の女帝」では一転して醍醐の視点から、「女帝」と綽名されるわがままな性格の朝倉ハルナの取材旅行にレクチャー役として同行した顛末が描かれる。また第三話「天国か地獄か」は、醍醐が知り合った映画好きの少年の父の死をめぐるエピソード。第二話では古代史、第三話では映画のトリヴィアと、醍醐の知識がカバーしている分野はとどまるところを知らない。しかも、彼は単に知識を蓄え込んでいるのではなく、邪馬台国の所在地や卑弥呼の正体についての推理、アルフレッド・ヒッチコックとウィリアム・キャッスルの影響関係に関する仮説など、それぞれの分野で独自の見識を展開してみせるのだ。
ここまでの三話はそれぞれ独立したエピソードだったけれども、最後の第四話「闇の少年」では、第一話に登場した椋洸介をめぐる一件が再浮上し、実は本書全体がひとつの長篇としても読めるようになっている。自らの原体験に直結しているらしい、少年の遺骨の発見を気にしている椋。その出身地である福岡に、醍醐は椋と一緒に向かったが、椋の様子はどこかおかしい。彼は醍醐に何かを隠しているのか、そして彼の過去に何があったのか?
副題に「醍醐真司の博覧推理ファイル」とあるように、多岐に亘る主人公の博覧強記ぶりと、それに基づいて繰り広げられる推理も興味深いが、最大の読みどころは、マンガ家の心理への肉薄と、マンガ家と二人三脚で作品を創り上げてゆく編集者の役割の描写だろう。マンガ家が駄目になる理由は何か、マンガ家に向いていない性格とは……といった醍醐の指摘は、さまざまなペンネームを使い分けてマンガの原作を執筆し、更にマンガ雑誌の編集者でもあった著者ならではの説得力を感じさせる。そして、同情の余地のある悪人は見逃すべきかどうかという命題を通して、そもそもマンガの正道とは何か、かつて軽んじられていたマンガが今まで生き残ってこられたのは何故なのかというテーマにまで達しているのだ。これはマンガに限らず、創作という営為全般の深奥に達した洞察かも知れない。ミステリ好きのみならず、創作の背景に関心のある方なら必読の一冊である。

(せんがい・あきゆき ミステリ評論家)

[→][『黄泉眠る森―醍醐真司の博覧推理ファイル―』刊行記念特集インタビュー]長崎尚志/ギリギリ愛せる(!?)名探偵

判型違い(文庫)

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