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白洲家の日々―娘婿が見た次郎と正子―

牧山圭男/著

1,540円(税込)

発売日:2012/04/27

  • 書籍

型破りな義父母との日常は、仰天の連続!

愛娘を奪った日から、白洲次郎の唯一の“七年の敵”となった僕。西洋仕込みか、武士の嗜みか、リベラルで個人主義の徹底した義父母との日々は、じつは台風の目の中にいるようだった! プライベートで、ビジネスで、ゴルフ場で、旅先で、ぶれない夫妻のシニカルで愛ある肉声の数々を交えながら綴る、知られざる白洲家の物語。

目次
はじめに~次郎さん、人生最悪の日
一 家族のこと、家のこと
円満の秘訣
直言は親譲り
可愛い孫との秘密
骨董店での仰天
正子のアドバイス
正子らしい毒舌
骨董について
食卓にて
店を甘やかさない
男次郎の持論
鶴川村のパパとママ
屋根替えのこと
二 スポーツマンシップ
ゴルフクラブライフ 1
ゴルフクラブライフ 2
ゴルフクラブライフ 3
お洒落について
軽井沢の思い出
スポーツ大好き夫妻
プロとアマの違い
華麗なる車遍歴
オイリーボーイのゴール
三 仕事と友情と
公私混同するなかれ
夜中の対決
肝を冷やした一言
白洲会長、大弱り
生涯唯一の負け戦
政治家嫌い
捨てられなかった書類
揺るがぬプリンシプル
イギリスへの最後の旅
あとがき

書誌情報

読み仮名 シラスケノヒビムスメムコガミタジロウトマサコ
発行形態 書籍
判型 四六判
頁数 224ページ
ISBN 978-4-10-332251-1
C-CODE 0095
ジャンル ノンフィクション
定価 1,540円

書評

波 2012年5月号より 台風の目に入る

青柳恵介

伊賀の肉が届くのでいらっしゃい、京都から鴨が届くからいらっしゃいと白洲正子さんからお誘いを受けて鶴川に馳せ参じるのは、私にとって何よりの楽しみだった。宴が終盤にさしかかると、同じ敷地に住む長女の牧山桂子さんとご主人の圭男さんとご子息の龍太さんの三人が、今日の宴はどんな按配になっているかなという感じで現れて、そのまま座に加わり、酒を酌み交わすことが多かった。大酒呑み相手では白洲さんも疲れるから、あとは私たちに任せなさい、という気持ちもあったのかもしれない。
私はそういう席で牧山圭男さんと知り合った。圭男さんが同じ学校の先輩であるということも手伝って、私はすぐに圭男さんにうちとけた。圭男さんはよくしゃべる。そのおしゃべりは、しかし自分のためというよりも、客人の緊張をほぐすためのホスピタリティに発していると思われた。白洲さんが見せてくれる骨董を、こんなもののどこがいいのと小声で私に質問して、今度は私のおしゃべりのきっかけを作ってもくれた。
圭男さんは、そんな言葉があるかわからないが、日曜陶芸家だ。楽しくて仕方がないというふうにやきもの作りの話をえんえんと語る。工房で焼きあがった器を見た正子さんが瞬間的にこれ頂戴とひっつかむように持って行った黄瀬戸のぐい飲みなど、石黒宗麿に迫る風韻をもっている一方で、児童の作陶と思われるような工作も止めない。作る行為が楽しいのであって、見映えのいいものを作ろうなどとは思っていないのだ。
牧山家の食卓には、古染付、古伊万里、瀬戸や丹波の器に交じって圭男さんの作った器が並ぶ。これでどうだというふうに古い食器ばかりが並ぶ食卓につくと、やれやれご苦労なことだという雰囲気になるものだが、牧山家の食卓は古今混在の日常がある。古今の境目がまぎれてある日常は白洲家から受け継いだ牧山家の教養であろう。牧山桂子さんは、名品にはあまり興味がなさそうだ。使って楽しい物がいいものだと思うと主張し、そこに自然に圭男さんの器もまぎれている。
言わば、白洲家にまぎれた牧山圭男さんの日常がつづられたのが『白洲家の日々―娘婿が見た次郎と正子―』だ。いつか圭男さんは「白洲次郎一人でも付き合うのが大変なのに、そして白洲正子一人でも付き合うのが大変なのに、その二人と日常をともにするのはさぞかし大変でしょうとよく言われるが、そんな大変を感じたことがない。台風の目に入ってしまうと案外静かなものですよって僕は答えることにしている」と語ったことがあるが、台風の目は動く。台風の目がどこにあるか、客観的に判断する能力に圭男さんが恵まれていることを、私は本書を読んで強く感じた。
ここに描かれている白洲次郎、白洲正子ともに充分魅力的だが、もしかするとそれ以上に恰好よく描かれているのが牧山桂子の存在だ。白洲次郎は「夫婦円満の秘訣は一緒にいないこと」と語った由であるが、牧山夫妻はいつも一緒だ。そして人前でも言い合いをする。始めのころは、私などはらはらしたものだが、どうも牧山夫妻は「夫婦円満の秘訣は討論にあり」という信念をもっているようだ。社交性を優先して、義をないがしろにするような言動を見ると牧山桂子は相手が誰であろうと許さない。しかし、相手の立場も考えてやれよというのが夫の優しさ。二人の討論は互いの筋を認めつつ続くのである。
白洲次郎は一九〇二年生まれ、白洲正子は一九一〇年生まれ、共に現存していればゆうに百歳を超えている。昔の人と言うべきである。しかしこの本で語られている二人の時代を超えた新しさは、若者に訴える力を持っている。本書を一気呵成に読み終わり、私は本を閉じながら夫婦って何だろうなと目を宙に浮かべたことであった。

(あおやぎ・けいすけ 国文学者)

著者プロフィール

牧山圭男

マキヤマ・ヨシオ

1938(昭和13)年、東京生れ。1961年、慶應義塾大学法学部政治学科卒業後、ヤナセ入社。1965年、白洲次郎・正子夫妻の長女・桂子と結婚。1970年、ヤナセから西武百貨店に転職、六本木WAVEやLOFTの開設に参画。常務取締役を経て1997(平成9)年、大沢商会常務取締役に就任。2001年に退任、以後、旧白洲邸 武相荘の運営にかかわる。趣味はゴルフ、テニス、スキー、標的射撃、作陶など。1999年と2001年に銀座・ぎゃらりー大倉(交詢ビル1F)にて作陶展を開いた。

判型違い(文庫)

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