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名作は世界中で日々生まれ、その大半はまだ訳されていない──。

生き延びるための世界文学―21世紀の24冊―

都甲幸治/著

2,160円(税込)

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発売日:2014/10/31

読み仮名 イキノビルタメノセカイブンガクニジュウイッセイキノニジュウヨンサツ
雑誌から生まれた本 新潮から生まれた本
発行形態 書籍、電子書籍
判型 四六判
頁数 270ページ
ISBN 978-4-10-332322-8
C-CODE 0095
ジャンル 本・図書館、人文・思想・宗教
定価 2,160円
電子書籍 価格 1,728円
電子書籍 配信開始日 2015/04/10

タオ・リン、アレハンドロ・サンブラらの新鋭から、J・M・クッツェー、トニ・モリスンらの大御所まで。世界文学の「いま」を伝える、最速・最強のガイド、待望の第二弾。文句なしに面白い21世紀の24冊の紹介に加え、著者自身の世界文学との出会いを明かすエッセイ、ジュノ・ディアスの未邦訳短篇「モンストロ」を特別収録。

著者プロフィール

都甲幸治 トコウ・コウジ

1969年福岡県生まれ。翻訳家、早稲田大学文学学術院教授。東京大学大学院修了。著書に『偽アメリカ文学の誕生』、『21世紀の世界文学30冊を読む』、『狂喜の読み屋』など、訳書にスコット・フィッツジェラルド『ベンジャミン・バトン数奇な人生』、チャールズ・ブコウスキー『勝手に生きろ!』、ジュノ・ディアス『オスカー・ワオの短く凄まじい人生』『こうしてお前は彼女にフラれる』(ともに共訳)、ドン・デリーロ『天使エスメラルダ』(共訳)などがある。

書評

波 2014年11月号より スパゲッティーの味

町田康

ある日の午後。二時過ぎであったと思う。私は海辺のカフェでミートソースのスパゲッティーを食した。私は食通でも美食家でもないが、その私が食べて不味であった。それも並の不味ではない、責め苦のような不味であった。もはやそれはひとつの暴力であった。同行する人があったので私は、その人が別のものを註文したのを心のなかで寿ぎつつ、無表情でそれを食した。怒りや悲しみはなかった。ただ、驚いた。そして純粋な苦しみだけが身の内を通り過ぎていった。
その日、私は夜八時を過ぎてまだそのスパゲッティーについて考えていた。私は不思議でならなかった。なぜ、平成二十六年の、明治以降、近代化に邁進、二つの世界大戦を経験し、敗戦後の歴史を経ていまにいたったこの日本に、このスパゲッティーが存在するのか。いくら考えてもわからなかった。そのとき、私は、あのスパゲッティーについて多くの人と語り合いたいと痛切に思った。自分で考えてわからないのならば、多くの人と話し合い、その話し合いのなかになにかを見出したい、と思ったのである。
けれども世の中の多くの人はあのスパゲッティーの味を知らない。知らなければ議論が成立しない。ならば多くの人にあのスパゲッティーを食して貰う必要があるが、真面目に働いて納税している市民にあのスパゲッティーを食べさせる、など私にはできない。ならば、私にできることはただひとつ、あのスパゲッティーの味を文章に綴り、それを読んで頂いたうえで、話をすればよい。そう思った私は頭の中で文章を組み立て、また、それをメモするなどし始めた。けれどもうまくいかない。実感は生々しく残ってあるのに、それが言葉になっていかない。そこで、苦し紛れに、これを舞踊の形で表現したら或いはよいのではないか。そう考えた私は、立ち上がって舞い始めた。ときに優美に、ときに激しく。したところ、段々に調子が出て、よい感じになってきた。夢中で舞っていると、突然、頭の中に他者が現れた。他者は言った。
「それ、伝わらんやろ」
確かにその通りで、実は私も途中でそれに気がついていた。途中から私はスパゲッティーの味のことを忘れたわけではないが舞踊そのものに主眼を置くようになっていた。それでは当然、誰にも通じない。なので私が頭の中で組み立てた文章も舞いにもなんの意味もなく、というかそんなものはクソ同然のくだらないことで、そんなことはさっさと忘れ、もっと自分を高めていく努力をしなければならない。
と、私はさっきまで思っていたのだが、いまは思わない。なぜなら、都甲幸治『生き延びるための世界文学―21世紀の24冊―』を読んだからである。
この本は、いま、起きていること、は基本的には、伝わらない、ことだということを教えてくれた。考えてみればその通りで、作者が言っているように世の中には大きな流れがあるけれども、それは時間が経って初めてわかることで、いま現在、起きていること、はそこにいるひとりびとりの人間がそれぞれ把握できる範囲のことしかわからず、効率をあげる努力を一方でしながら同時に、無数のへまや失敗、無意味な出来事が積み重なって、筋道だった文脈にはけっしてならない。つまり、伝わらない。
しかし、しかれども。この本は同時に、その伝わらないことを、物語にしたり、歌ったり、踊ったり、いろんなことをしながら伝えようとすることこそが生き延びるための知恵であり、テクニックであり、文学である、ということも私に教えてくれたのである。
私はもっとレベルの高い、立派な弁論を、堂々たる口調で弁じなければならないと思っていた。ところがそうではなく、もっと実感のレベルでやってよいのだ。伝えようとする姿勢こそが大事なのだ。つまり、私はミートソースの味やなんかに拘泥して、尻をブリブリ振って莫迦なことやっていたが間違っていなかったのだ!
よかったあ。この本を読んで本当によかったあ。私はこれからも、どんな手を使っても、たとえそれがどんなに拙劣であっても臆せず恥じず伝わらぬことを伝えていこう。場合によっては英語はできないから自分で言語を拵えてでもやっていこう。とりあえずは件のスパゲッティーだ! あれをなんとかしない限り、私は生きていけない。生き延びれない。
と、力み返っていると頭の中に突然、他者が現れて言った。
「いつまでもしょうむないことを言っているのだ。奮起せよ」
その、他者の顔は一度だけ会ったことのある都甲氏に少し似ていた少し似ていた。


(まちだ・こう 作家)

目次

はじめに

1 アメリカ文学の移動――『ニューヨーカー』誌が選ぶ40歳以下の作家20人
2 もう一つの国際語――『グランタ』誌が選ぶスペイン語圏の若手作家ベスト
3 若さという呪い――タオ・リン『ベッド』
4 顔のない人々――タオ・リン『リチャード・イエーツ』
5 曖昧な哀しみ――アレハンドロ・サンブラ『盆栽』『木々の私生活』
6 ユダヤ人とは何か――ネイサン・イングランダー『アンネ・フランクについて語るときに僕たちの語ること』
7 異国で生きるということ――ジュノ・ディアス『こうしてお前は彼女にフラれる』(1)
8 引きずる愛――ジュノ・ディアス『こうしてお前は彼女にフラれる』(2)
〈エッセイ〉世界文学との出会い(1) 幼稚園篇:ナマズとイエス

II
9 死ねない男――ブライアン・エヴンソン『不動』
10 復讐の連鎖を断ち切る――シャーマン・アレクシー『飛行』
11 共産主義の思い出――アレクサンダル・ヘモン『ブルーノの問題』
12 アメリカの幻――リン・ディン『憎しみに似た愛』
13 取り返しのつかないこと――コルム・トビーン『空っぽの家族』
14 鉄道が作った国――デニス・ジョンソン『列車の夢』
15 美の力――メアリー・ゲイツキル『ヴェロニカ』
16 母の襲撃――ルイーズ・アードリック『円い家』
〈エッセイ〉世界文学との出会い(2) 小学校篇:吉祥寺のマザー・グーズ

III
17 水の記憶――ジュリアン・バーンズ『終わりの感覚』
18 親父のタイプライター――ダン・ファンテ『カモ』
19 寡夫の夢――アン・タイラー『さよなら入門』
20 消された過去――J・M・クッツェー『イエスの子供時代』
21 心に沁みるポストモダン――ドン・デリーロ『天使エスメラルダ』
22 追放された人々――エドナ・オブライエン『聖者たちと罪人たち』
23 長い旅――トニ・モリスン『ホーム』
24 消えてゆく愛――ジェームズ・ソルター『最後の夜』
〈エッセイ〉世界文学との出会い(3) 高校篇:茶色のペーパーバック
[訳し下ろし短篇]
「モンストロ」ジュノ・ディアス著/都甲幸治・久保尚美訳

あとがき

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