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世界中から依頼が殺到する建築家、隈研吾。悩みつつも疾走する日々とは?

建築家、走る

隈研吾/著

1,512円(税込)

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発売日:2013/02/28

読み仮名 ケンチクカハシル
雑誌から生まれた本 芸術新潮から生まれた本
発行形態 書籍
判型 四六判
頁数 223ページ
ISBN 978-4-10-333561-0
C-CODE 0095
ジャンル 画家・写真家・建築家
定価 1,512円

話題の歌舞伎座建て替えは、アメリカでの発見や東京での挫折、地方での本領発揮、怒濤のコンペ参加など紆余曲折を経ての集大成。ぐだぐだ悩みながら、ぐるぐる世界を回ってる――年始から6ヶ国を世界一周チケットで回り、地球のいたる所で打ち合わせを重ねる生活。自らを「競走馬」に喩え、挑戦し続ける建築家の生の姿がここにある。

著者プロフィール

隈研吾 クマ・ケンゴ

1954(昭和29)年、神奈川県横浜生れ。1979年東京大学大学院建築学科修了。コロンビア大学客員研究員、慶應義塾大学教授を経て、2009(平成21)年より東京大学教授。主な作品は「森舞台/登米町伝統芸能伝承館」「サントリー美術館」「根津美術館」「la kagu」など国内外に多数。著書に『10宅論』『負ける建築』『建築家、走る』など多数。

書評

波 2013年3月号より 現在進行形の語りおろし文明論

清野由美

民主党が「コンクリートから人へ」を高らかに謳って、選挙に勝ったのが4年前。それが今は、自民党アベノミクスの下で、「人からコンクリートへ」と見事なまでの逆戻り。政局と景気はまったくアテにならない。そのアテにならない「時代の流れ」を、目にみえる形で示すものが建築であり、それを作る建築家とは、政治、経済、国際関係、文化などなど、あらゆる要素を背に負う社会的な存在である。
なのに、建築家の発言の多くは、狭く高尚な仲間内に留まっているのが現状だ。自作に込めた概念や美学についての小難しい解説はあふれていても、その言葉が社会一般にまで届くことは、なかなかない。東日本大震災の後、著名な建築家が集まったシンポジウムで伊東豊雄が、「(被災地に土木コンサルは呼ばれるのに)なぜ建築家は呼ばれないのか?」と発した問いには、笑うに笑えない「エリート」の現実があった。
今年4月に新規開場する東京・歌舞伎座の設計で話題の隈研吾は、建築家と現実の間にある壁を突き破ろうとする、数少ない一人だ。
1980年代にデビューし、「M2」「水/ガラス」など、先鋭的、繊細な作品で注目を集めた。世紀をまたいでからは、中国、ヨーロッパ、アメリカと世界中にクライアントを広げ、同時に膝元でも「ONE表参道」「サントリー美術館」「根津美術館」など、世界都市・東京を象徴するプロジェクトを連続して手がけている。
本書は、「時代とともに疾走中」の建築家による、現在進行形の語りおろし文明論だ。
といっても、内容は「カッコいい」ものではない。その論は、世界中にちらばるクライアントと現場をたずね、今日はミャンマー、明日はフランス、いったん日本に帰って、翌日は中国、と地球をぐるぐる回る、自身の多忙ぶりから始まる。そこから浮かび上がるのは、「今の時代、建築家はエリートではなく、競走馬」という、衝撃的な自己認識だ。
隈が丹下健三にあこがれた1960年代は、戦後、急速に進む工業化社会の中で、建築家が国内の仕事に不自由しない、「古きよき時代」だった。しかし、国民の生活を底上げした工業化社会は、市場の飽和とともに、やがて金融資本主導のグローバリズムへと変貌していく。
そのとき、建築家はどうなるか。国内に、もうめぼしい仕事はない。だから国境を越えるしかない。世界中にちらばるクライアントは、越境するトップクラスの建築家を競わせて、最上の案を採用しようとする。そこで負けていては仕事にならない。だから走り続けるしかない。という、実にキビしい循環が待っているのだ。時代の風を全身に浴びながら、建築家は20世紀から21世紀へのパラダイム転換を、ひしと感じざるを得ない。
隈が抱える現実は建築家に限らず、すべての日本人に通じるものだ。今、日本の企業社会が「次」へのステップを見出せず、あえいでいる。工業化社会の終わりとともに、企業が一生を保障してくれる時代の終わりも近づいている。その中で、パラダイムの転換を自覚し切れていない人々が、意識改革のできないまま、自信を失っている。
隈が本書で提示する意識改革のキーワードは「アメリカンドリーム」「コンクリート」「サラリーマン」の三つ。日本の前世紀を支えたそれらへの依存を乗り越えることで、隈自身が新しい仕事を切り開いてきた。これからはすべての仕事人が、隈のように身一つで責任を負い、海外とも渡りあいながら、個人をまかなっていく覚悟が必要になる。
かつて隈が講演で大江健三郎と同席したとき、聴衆へのサービス精神にあふれる大作家の姿に、大いに目を開かれたという。「すでに芸人の域。建築家もああでなくちゃ」。
「パラダイムの転換」や「意識改革」などのテーマは、どうしても大上段に構えがちだ。そこで、語りおろしの手法を採り、不肖ながら私が聞き書きを務めた。その結果、隈のもう一つの魅力であるポップな面白みと、裏に潜む毒が、わかりやすい形で読者にお届けできたと思う。行間には、今を生きるキビしさだけではなく、次の価値観となるべき「個人」「自由」「幸福」に向かう風も吹いている。

(きよの・ゆみ ジャーナリスト)

目次

悩んでいる日々を
第1章 世界を駆け回る
世界一周チケットで/建築家は競走馬/20世紀型建築家出世すごろく/建築は戦闘能力を持っている/新たなクライアントの台頭/中国四千年の利益誘導/中国こそ「文化」と「環境」の国家?/やってらんないよ!/利用される「隈研吾」ブランド/中国の「オーナー文化」、日本の「サラリーマン文化」/礼を尽くした「恋愛」/やっぱりフランスは手だれ/ユダヤ人は、メディアと建築の支配者/ロシア人の本領は妄想にあり/海賊版が出て、オメデトウ/ぼくって、田舎の人間なんだ
第2章 歌舞伎座という挑戦
栄誉よりも重い困難/新しい建物は褒められない法則/艶っぽい歌舞伎座/モダニズムと数寄屋の融合/唐破風をめぐる攻防/東京にバロックを/すったもんだのおかげ/世界でも希有な歌舞伎ワールド/夢でうなされる
第3章 20世紀の建築
住宅ローンという“世紀の発明”/真っ白なお家と真っ黒な石油/オイルショックで最初の挫折/サラリーマンをやってみた/ニューヨークの地下で日本の悪口/ディベート重視のワナ/別の場所で勝負してやる/コルビュジエとコンクリート/安藤忠雄建築とコンクリート/理屈でなく腕力が必要だ/人間心理に付け込むコンクリート/マンションを所有する「病」/コンクリート革命を超えるには/あきらめを知ったら、人生が面白くなった/淋しい母親/もっと淋しいサラリーマン/役人は海岸にも手すりを付けたい/現場のない人たち/「ともだおれ」を見直す
第4章 反・20世紀
バブルで浴びた大ブーイング/右手がダメになった/地方とはヒダのこと/見えない建築(「亀老山展望台」)/見えない建築の進化(「水/ガラス」)/予算がない=アイディアが出る(「森舞台/登米町伝統芸能継承館」)/石を使い尽くす(「石の美術館」)/やがてライトの建築につながる(「那珂川町馬頭広重美術館」)/成金手法の流行/オレはいったい何をやっていたのか/苦労、覚悟、挑発、開き直り(「竹の家」)/行け、現場へ/自分の基準を乗り越えていく/中央嫌いのひねくれもの/不況に感謝/原点にあるボロい実家/なぜ日本が建築家を輩出するか
第5章 災害と建築
建築家の臨死体験/人類史を変えたリスボン大地震/死を忘れたい都市/死の近くにいる建築家/小さなものから出発する/壊れ方だって一つじゃない
第6章 弱い建築
虚無を超えて/「建築ぎらい」/激しい移動が建築家を鍛える/「直接会う」が必要な理由/秒速で判断する/使える人材を見抜くオリジナル面接/組織運営も手腕のうち/けなされたくないんです/自分を疑えて幸せだった/反ハコの集大成「アオーレ長岡」/下から目線で「絆」ができる/ディスコミュニケーションだって、コミュニケーションだ/「楽しさ」を真剣に楽しむ
あとがき 清野由美

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