ホーム > 書籍詳細:ダンゴウオ―海の底から見た震災と再生―

2年間にわたり、瓦礫に埋もれた震災の海で生きる生物たちの姿を追った、生命の物語。

ダンゴウオ―海の底から見た震災と再生―

鍵井靖章/著

2,592円(税込)

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発売日:2013/02/28

読み仮名 ダンゴウオウミノソコカラミタシンサイトサイセイ
発行形態 書籍
判型 菊判変型
頁数 143ページ
ISBN 978-4-10-333581-8
C-CODE 0072
ジャンル 写真集・写真家、画家・写真家・建築家
定価 2,592円

震災直後の岩手県宮古湾――瓦礫にまみれ、生き物の気配が絶えた海底に、たった一匹、じっとうずくまっていたダンゴウオ。親指の爪くらいの小さな体で津波の海を生き抜いたダンゴウオとの奇跡の出会いに希望を託し、その姿を追いながら、灰色だった海が鮮やかな生命の色彩を取り戻す過程を2年間、定期的に撮影した写真集。

著者プロフィール

鍵井靖章 カギイ・ヤスアキ

1971年、兵庫県生まれ。大学在学中に水中写真家・伊藤勝敏氏に師事し、水中写真家を志す。オーストラリア、伊豆、モルディブでダイビングガイドを行う傍ら、水中撮影に励む。1998年、モルディブより帰国後、フリーランスとして独立。水中のあらゆる事象を精力的に撮影し、プランクトンからクジラまで、独特の世界観で水中の世界を写し取る。1998年第15回アニマ賞受賞(平凡社)「ミナミセミクジラの海」、2003年日本写真協会新人賞受賞。著書に、写真集『海色えんぴつ』(2004年・PHP研究所刊)、写真集“Deep Blue”(2008年・Carltonbooks刊/イギリス・アメリカ、オーストラリア、イタリア、インドでも刊行)、写真集『アシカ日和』(2011年・マガジンハウス刊)、写真集『海中散歩』(2012年・パイ インターナショナル刊)など。

インタビュー/対談/エッセイ

波 2013年3月号より 魚の目で見た津波の海の再生物語

鍵井靖章

この写真集は、東日本大震災直後から2012年12月まで、岩手県宮古市の海を継続して撮影した記録です。週刊誌の依頼で、震災直後の4月に、海中撮影に向かいました。編集部の狙いは、海に引きずりこまれた人間生活の痕跡を撮ることでした。それを誰よりも早く記録することと同時に、私にはもうひとつの思いがありました。それは、震災の海で逞しく生き残る海中生物たちを撮影することでした。誤解を恐れずに言うと、当時の報道は、人間活動に関わることばかりで、あたかもこの国土には人間しか生息していないのか? と思わせるものでした。私も関東圏に小さな子供と住んでいます。確かに最優先は、家族の健康と未来なのですが、誰かひとりでも人間以外の生き物への関心や思いやりがあっても良いではないか? と私は思ったのです。人間の社会活動しか見ない、もしくは重視しない世の中が、このような危ない社会を生み出したのだと言うこともできるのではないでしょうか。
また、海中の生き物を撮影することを生業とする者として、一番最初に報道される震災の海中の様子が、生き物への視点を欠いたものにはしたくなかった。瓦礫の写真だけにはしたくなかったのです。
最初は4月3日から3日間、岩手県宮古市と大船渡市の海に潜りました。どちらの海底も、陸上の景色と同じで、瓦礫が折り重なり、散在していました。私は海底に呑み込まれた人の暮らしの品々を撮影すると同時に、生き物の気配を探っていました。しかし、ヒトデや貝は見つかるのですが、泳いでいるお魚の姿を見つけることができませんでした。
そんな中、2日目の午後に潜った宮古市の製氷工場前の岸壁の下で、ダンゴウオという小さなお魚に出会うことができました。ダンゴウオは、東北を代表するかわいいお魚で、ダイバーに絶大なる人気があります。まったくお魚を見なかった海底で、私は普段でも簡単には見られない、期待以上のお魚に出会えたのです。それは、震災で傷ついた海底で見つけた小さな奇跡でした。そして、その出会いは、私が震災の海に潜る意味を明確にしてくれました。
それから、どんどん明るみになる放射能汚染が気になり、潜る勇気を持てない時期もありましたが、あの日から約2年間で、100回以上の潜水を繰り返して、震災の海に生きる命の姿にファインダーを向け続けました。「生き延びた海の生き物たち」、「震災の川に戻ってきた鮭」、「漁師が願う海藻の森の再生」、「岩手県の海の素顔」、「震災の海で生まれた新しい生命」、などと時間の経過と共に私の視点やテーマも少しずつ変化しましたが、いつも生き物たちの傍らで撮影することを心掛けました。なかでも、ダンゴウオの孵化の場面に立ち会えたことは、この写真集をまとめる良いきっかけとなりました。天敵の貝に巣穴を襲われるなど、厳しい場面にも遭遇しましたが、様々な苦難を乗り越えて、無事に生まれてきたダンゴウオの赤ちゃんは、とても可憐で美しく、その姿に震災の海が再生していくことを予感せずにはいられませんでした。瓦礫の残る海底で生まれてくる命は、全て希望の光なのです。
ダンゴウオだけでなく、様々な生き物たちが、ゆっくりと、そして着実に再生していく東北の海の姿をご覧ください。

(かぎい・やすあき 水中写真家)

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