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黒翼鳥―NCIS特別捜査官―

月原渉/著

1,980円(税込)

発売日:2014/04/22

  • 書籍

消えた凶器、姿なき犯人。飛行中のオスプレイで、密室殺人が発生した!

事件は水平加速への移行中に起きた。乗員は米海兵隊員数名と技術者、そして装備施設本部の自衛官一名。狭い機内で全員着席中だったにもかかわらず、被害者の自衛隊員は正面から二度刺されて殺されていた。直前に流れた不思議な歌声。米軍内の犯罪を調査するNCISが辿り着いた真相とは。本格ミステリーの傑作。

目次
プロローグ
1 凶鳥の影
2 黒翼鳥の密室
3 鳥は歌う
4 業火の中で
5 帰る者
6 英雄の条件
エピローグ

書誌情報

読み仮名 コクヨクチョウエヌシーアイエストクベツソウサカン
発行形態 書籍
判型 四六判変型
頁数 288ページ
ISBN 978-4-10-333872-7
C-CODE 0093
ジャンル ミステリー・サスペンス・ハードボイルド
定価 1,980円

書評

『月光蝶』で絶好調、『黒翼鳥』でも活躍中

新保博久

 かつて小林信彦は、「鮎川哲也はアリバイ破りばかりでつまらないという人があるが、それはキリンに向っておまえの首は長すぎていかんというような意見だと思う」(「深夜の饗宴」、扶桑社文庫『紳士同盟ふたたび』に付載)と述べて作家を弁護したものだ。ここで退けられたような鮎川批判の伝で行けば、「月原渉は密室ばかりでつまらない」と言われかねない。
 といっても月原作品は、年1作の丹念なペースで今のところ4長篇しかない。それでも4年前、鮎川哲也賞を受賞したデビュー作『太陽が死んだ夜』、同じ若い女性コンビが再び事件に巻き込まれる『世界が終わる灯』、NCIS特別捜査官シリーズ第1作『月光蝶』、そして今度のシリーズ第2作『黒翼鳥』と、すべてが密室殺人を扱っているのは事実だ。だからといって、日本のディクスン・カーなどと異名を捧げるのは早計だろう。二の腕に“密室いのち”と彫り込んでいる気負いは感じられない。むしろ、それぞれのミステリの肝は別にあり、構想しているうちに密室物にしたほうが効果的だと考え直したかのようだ。密室トリックそのもの以外の長所のほうが際立っている。
『世界が終わる灯』での走行する列車の客室内の首切り殺人など、およそ実現不能と思われる。さすがに、成功しなくても構わなかったと最後にフォローされているが、その準備に犯人は大変な手数を掛けており、それが出来た人物を真犯人と特定してゆく推理のほうに眼目があるようだ。論理の積み重ねによって容疑者を絞ってゆく、どちらかといえばカーよりエラリー・クイーンのほうに近い。
 この、名探偵が関係者一同を集めて真相を解明してゆく終盤も4作ながらに共通しており、密室以上に著者が固執しているのはこちらだろう。クラシックな探偵小説の様式美だが、しかし著者は古い革袋に新しい酒を盛ることを忘れていない。
 それが顕著になってきたのは、前作『月光蝶』(∀ガンダムとは関係ない)からだ。デビュー作はニュージーランドの全寮制の女子高の、外界から隔絶された教会堂という古典的な“雪の山荘”(山荘でなくともこう呼ぶ)で、建物内でも密室殺人が相次ぐ。第2作が前述したように列車という動く密室といったふうに設定を替えてきたのだが、『月光蝶』ではそうした定型的な舞台を脱して、横須賀にある米軍基地全体を密室に仕立てている。基地外で行なわれた最初の殺人では被害者が基地内で発見され、続いて基地内で殺された死者の遺骸が市街の民家に転がる。さらに、犯人はおろか被害者も厳戒の基地を出入りした形跡がない……
 そして最新作『黒翼鳥』に至っては、試験飛行中の米海兵隊輸送機MV22オスプレイ(垂直離着陸できるヘリコプターと、水平長距離飛行する性能を併せもつ)の機内でオブザーバーの自衛隊員が刺殺され、凶器も発見されない不可能犯罪が描かれる。10人の同乗者がいたが、特別製のシートベルトで座席に固定され、被害者の至近にいながら全員に鉄壁のアリバイがあるわけだ。
 この謎に挑むNCIS(米海軍犯罪捜査局)のヌーナン元中佐は、『月光蝶』には登場していなかった。前作ではNCISの若手捜査官コンビと、横須賀市役所基地対策課特別室の男女の捜査が交互に描かれていた。したがって前作を読まずに『黒翼鳥』から掛って不都合はないが、『月光蝶』で最終的に謎を解くのは誰かという、犯人探しならぬ探偵探しの答が先に分ってしまうのは我慢しなければならない。今回の密室にも、完全に独創的なトリックはない(そんなものはたぶんもう残っていない)が、凶器の消し方、被害者死亡前に聞えた鼻歌の謎といった小技が効いているし、従前の本格推理の骨格に、ヌーナンのキャラクターにより軍事冒険小説の味わいが加わって、物語性に厚みを増し、またまた代表作を更新した。

(しんぽ・ひろひさ ミステリ評論家)
波 2014年5月号より
単行本刊行時掲載

著者プロフィール

月原渉

ツキハラ・ワタル

1978(昭和53)年神奈川県生れ。2010(平成22)年、『太陽が死んだ夜』で鮎川哲也賞を受賞し、デビュー。他に『世界が終わる灯』『月光蝶―NCIS特別捜査官―』『使用人探偵シズカ―横濱異人館殺人事件―』『首無館の殺人』『犬神館の殺人』『鏡館の殺人』『炎舞館の殺人』『九龍城の殺人』『すべてはエマのために』『火祭りの巫女』『オスプレイ殺人事件』などがある。個性的な作品を発表し続けるミステリの新鋭。日本推理作家協会会員。

判型違い(文庫)

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