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ヘッセの旋律のような美しい文章を道標に、原作のイメージ世界を写真で旅する!

シッダールタの旅

竹田武史/構成・写真、ヘッセ/原作、高橋健二/訳

1,620円(税込)

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発売日:2013/04/26

読み仮名 シッダールタノタビ
発行形態 書籍
判型 B6判変型
頁数 207ページ
ISBN 978-4-10-334031-7
C-CODE 0072
ジャンル 文芸作品、写真集・写真家、画家・写真家・建築家
定価 1,620円

「人間の生きる意味」を問うヘルマン・ヘッセの不朽の名作『シッダールタ』に魅せられて、文庫本をポケットに、舞台になったインド北部の仏跡・聖地をバイクで遍歴した写真家が、小説に描かれた世界を追って撮影。修行、欲望、生と死、そして「川の流れ」を追った詩情豊かな写真に、ヘッセが紡いだ文章を添えた、小さな写真集。

著者プロフィール

竹田武史 タケダ・タケシ

1974年、京都生まれ。同志社大学神学部卒。写真家・井上隆雄氏に師事し、1997年から5年間、国際日本文化研究センター主催の日中共同研究プロジェクト「長江文明の探求」に参加。記録カメラマンとして中国各地に取材を行う。2001年、フリーランスとして独立。日本文化のルーツを求めてアジアの自然、文化、思想をテーマに旅のルポルタージュを手がける。2010年、コニカミノルタFOTOPREMIO大賞、2014年、京都府文化賞奨励賞受賞。著書に『シッダールタの旅』(2013年 新潮社)、『茶馬古道の旅~中国のティーロードを訪ねて』(2010年 淡交社)、『大長江~アジアの原風景を求めて』(2005年 光村推古書院)、『長江文明の探究』(共著 2004年 新思索社)など。

ヘッセ Hesse,Hermann

(1877-1962)ドイツの抒情詩人・小説家。南独カルプの牧師の家庭に生れ、神学校に進むが、「詩人になるか、でなければ、何にもなりたくない」と脱走、職を転々の後、書店員となり、1904年の『郷愁』の成功で作家生活に入る。両大戦時には、非戦論者として苦境に立ったが、スイス国籍を得、在住、人間の精神の幸福を問う作品を著し続けた。1946年ノーベル文学賞受賞。

高橋健二 タカハシ・ケンジ

(1902-1998)1902(明治35)年東京生れ。東大独文科卒業。ドイツ文学者。第8代日本ペンクラブ会長、芸術院会員、文化功労者。1931(昭和6)年ドイツ留学中に、ヘルマン・ヘッセを識り、交流が始まる。『ヘッセ全集』の全翻訳と別巻『ヘッセ研究』で1957年、読売文学賞を、1968年、『グリム兄弟』で芸術選奨文部大臣賞を受賞する。『ヴァイマルのゲーテ』『ケストナーの生涯』などの著書の他に、訳書多数。1998年3月没。

書評

波 2013年5月号より 写真が文学と一体化する瞬間

姜尚中

万物と人間のありとあらゆる営みをこれほどまで見事に映し出した写真があっただろうか。
緑したたるマンゴーの木陰、巍峨たる峻厳な岩山、宇宙の根本を秘めたような原始林、霧に包まれる鬱蒼とした森、腐乱した死肉の転がる平原、生きとし生けるものを飲み込んで流れるガンジス川、卑猥と豊穣の彫刻群に覆われた寺院、聖なる川での火葬と沐浴、そして猥雑な日常の営み……。すべてが変化し、静止し、動きだし、変化し、そしてまた静止し……。その情景の一つ一つが、明と暗と、存在と無と、動と静と、生と死と、聖と俗と、流転と永遠とを映し出し、時間に身をゆだね、そして時間を超えているように見えるのである。
ヘルマン・ヘッセの名作『シッダールタ』のビジュアル化をこんなふうにやってのけるとは、写真家、竹田武史はただ者ではない。ただ者ではないとは、野心家を指して言うのではない。いやむしろ、その逆だ。不惑の年に手が届きそうな大人が、これほどまでに無垢で純粋に、ひたむきにヘッセの世界にのめり込み、シッダールタの遍歴の旅を、あたかもシッダールタその人の目に映じたに違いない光景として再現しているからだ。それだからか、どの光景にも、写真家の思惑など微塵もなく、ただひたすらヘッセに、そしてシッダールタに近づきたいという、祈りにも似た願いだけが託されているのである。わたしはこれほどまでに撮る者の肉感が消え失せ、被写体そのものに一体化したような写真を見たことがない。
確かに、一見すると、撮る者の自我が消え失せたような、物我一如を装った写真にお目にかかることはある。しかし、それは、そう装っている分、あざとさが見え見えで、鼻白む思いがするだけだ。だが、竹田武史の写真は違う。そこには、撮るものと撮られるものの区別すら消え失せたような、ただ流転しながら決して動かない、動かずに流転する、大小無数の川のような姿が浮かび上がっているのである。その川面のような光景をじっと見つめていると、無数の、生きとし生けるものの面貌が消えては浮かび、浮かんでは消えていく。その不思議な心象こそ、竹田が写真を通じて語りたかったことであり、それは同時に、『シッダールタ』に託したヘッセの祈りそのものに違いない。
ヘッセと言えば、すべてを達観したようなモラリストにして、世界的な名声を得た作家というイメージが強いかもしれない。しかし、ヘッセの生涯は、波乱に満ち、ジェットコースターのように、天と地ほどの落差のある人生を生き、時には俗世に塗れ、時には救済の祈りに明け暮れる日々の連続であった。そんなヘッセが敬虔なキリスト者として自らの魂の平穏を希ったとしても不思議ではない。
ただ、ヘッセは、並のキリスト者ではなかった。ヘッセには、あり余るほどの愛が横溢していたのである。エロスとしての愛ではなく、アガペーとしての愛。この愛こそが、エゴの、自我の、自意識の牢獄から人を救い出してくれることを、ヘッセほど説き続けた作家は他にはいない。その愛の作家、ヘッセの『シッダールタ』は、ゴータマ・シッダールタに通じる、もうひとりのシッダールタの生涯を見事に描き出しているのである。
幽玄な叙事詩のひとつひとつの言葉が、竹田武史の写真と出会い、詩的言語がビジュアル化し、写真がポエムになる、そんな奇跡的なコラボレーションがこの『シッダールタの旅』で再現されているのだ。それはわたしにとって奇跡そのものとしか言いようがない。
その奇跡を可能にしたのは、ヘッセの『シッダールタ』に限りない傾倒の念を抱き続けて来た写真家、竹田武史の無心さに違いない。「世界と自分と万物とを愛と賛嘆と畏敬をもってながめる」。そんな写真家がいることにわたしは限りなく慰められている。写真が言葉の真の意味でアートになり、不朽の文学と一体化する瞬間に立ち会える喜びに何度も身が震えるような感動を覚えた作品である。

(かん・さんじゅん 政治学者)

目次

はじめに
第一部
バラモンの子
沙門たちのもとで
ゴータマ
目ざめ
第二部
カマーラ
小児人たちのもとで
輪廻
川のほとりで
渡し守
むすこ
オーム
ゴーヴィンダ
あとがき
撮影地図

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