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お願い、私の首を絞めて。もっときつく、私を貶めて――。

  • 映画化R-18文学賞 vol.2 ジェリー・フィッシュ(2013年8月公開)

ジェリー・フィッシュ

雛倉さりえ/著

1,296円(税込)

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発売日:2013/06/21

読み仮名 ジェリーフィッシュ
発行形態 書籍、電子書籍
判型 四六判
頁数 222ページ
ISBN 978-4-10-334211-3
C-CODE 0093
ジャンル 文芸作品
定価 1,296円
電子書籍 価格 1,037円
電子書籍 配信開始日 2013/12/13

クラゲ水槽の前で突然交わした、初めてのキス。夏の夜、廃墟と化した植物園での貪るようなセックス。真っ逆さまに、恋と性の狭間にころげ堕ちて行った私たちは、永遠を信じない振りして確かに信じていたんだ――。16歳の圧倒的筆力が突きつける、瑞々しい恋、残酷な生と性。デビュー作でいきなり映画化の超問題作。

著者プロフィール

雛倉さりえ ヒナクラ・サリエ

1995年生まれ。16歳の時に執筆した短編「ジェリー・フィッシュ」が、第11回「女による女のためのR-18文学賞」の最終候補に選ばれる。危うげで美しく、しなやかで脆い少女を描く瑞々しい筆致が話題となる。同作は金子修介監督により映画化された。『ジゼルの叫び』は『ジェリー・フィッシュ』の刊行から4年、待望の2作目。

書評

波 2013年7月号より 連れ戻される「あの頃」。十八歳、衝撃の処女作

藤田香織

「十六歳」から「十七歳」にかけての年頃が、危ういものであることなんて、三十年前から知っていた。
現在四十五歳の私がその年齢だった頃も、世界は〈灰色で、薄暗くて、倒錯的で、いびつで、腐っている〉と心の奥底で感じていた。まだ何者でもなくて、自分が何者になろうとしているのかもわからず、立っている世界は狭く、息苦しく、笑いながら毎日喘いでいたあの頃。
知っているつもりだった。理解しているはずだった。なのにどうだろう。本書を読み終えた今、こじ開けられた記憶から、どくどく血が流れ出している。時間薬で癒えたと思っていた傷が、深い場所に沈めたつもりでいた感情が、ぐずぐずと疼く。この痛みを忘れていたことに、いや、今まで忘れられていたということに茫然となっている。
昨年「女による女のためのR-18文学賞」の最終選考に残った表題作を含む本書は、五編からなる連作短編集である。いずれも、語り手となるのは高校一年生から二年生、十六歳から十七歳へと向かう五人だ。早々に映画化も決定し、今夏には公開が予定されているという。
映画の原作となった冒頭の表題作では、宮下夕紀と篠原叶子の「恋」が描かれる。高校に入学して間もなく、学年旅行で訪れた水族館のクラゲが泳ぐ水槽の前で、名前も知らなかった叶子に声をかけられ、唇を重ねた瞬間から始まった恋。クラスに馴染もうとせず、浮いた存在になっていた夕紀にとって、叶子が特別な存在になるまで時間はかからなかった。他の子とは違う、大事な「わたしの世界の一部」。何度も交わした甘やかなキス。なのに叶子は、同じクラスの男子とも交際を始めてしまう。〈夕ちゃんのこと、大好きだよ〉と微笑みながら。
続く第二話は夕紀と別れ、平井裕輔と付き合い始めた叶子の内側へ深く分け入っていく。初めてのセックス。初めてのピアス。大切にされている、愛されていると感じながらも、叶子は自分のからだを支配する快楽を求めてしまう。「暴力」のなかに見つけてしまったいびつな「官能」。正しい、すこやかな性交をしたいのに、あふれだす欲望を止められない。〈殴ってほしい。おもいきり、蹴ってほしい。首を絞めてほしい。叩いてほしい。貶めてほしい〉。もっと、もっと――。
春から夏、そして秋へと季節は移り、三話では叶子と仲の良い同級生、岩倉眞子へと視点も移る。付き合っていた相手に「やっぱり話が合わない」という理由で突然別れを告げられ、悲しみを抱いていた眞子は、あるきっかけで読書部に入部する。周囲の友人は誰も本を読まない。叶子も、自分を振った元恋人もそうだった。眞子は「話が通じる」喜びを実感し、部長の朝日に心惹かれていく。が、勇気を出した告白に思いがけない返事をされ、新たな屈託を抱えてしまう。
物語はその後、四話で叶子の交際相手だった裕輔の、そして最終話では二年生に進級し、新しく夕紀の同級生になった佐藤栞の視点で綴られていく。
表題作の執筆時、作者は登場人物たちと同じ十六歳だったという。作家に年齢など関係ないとはいえ、他四編も高校時代に書いたものだと知ると、本書の放つ匂いは、より生々しさを増す。たった十六、七年しか生きていない登場人物たちが囚われている過去。足掻き続けている場所。焦がれて、恐れた「きれいなもの」。純粋で、鋭利で、残酷な感情。すべてが「ほんとうの大人」になってからでは書き得なかっただろうと思わせる。
〈叶子のことを考えると必ず、あの日のことを思い出す。爛れたような丹色のひかりが射し染めた夕暮れ。下腹を血まみれにして呆然としていた彼女。白い頬に一筋、赤い痕が引かれていた。毒々しいほど鮮やかなあの光景は、ぼくのまなうらに灼きついたまま剥がれようとしない。本能的な嫌悪感を覚えたまま、ぼくはすこしずつ引きずり込まれていった。底なしの肉の沼に〉。こんなにも危うく、切実な文章で綴られた物語は、本当に久しぶりだ。
連れ戻された「あの頃」から動けなくなる。とても危険な小説だ。けれど、それ以上に、危うい季節を「今」生きる、五人への愛しさが募る。十八歳の新人作家・雛倉さりえが放つ熱に、心から灼かれてください。

(ふじた・かをり 書評家)

目次

ジェリー・フィッシュ
果肉と傷痕
夜の国
エフェメラ
崩れる春

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