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ねえ、神様。あんたにやってもらいたいことがある。世界を正しいあり方に戻すんだ。

異郷の友人

上田岳弘/著

1,512円(税込)

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発売日:2016/01/29

読み仮名 イキョウノユウジン
雑誌から生まれた本 新潮から生まれた本
発行形態 書籍、電子書籍
判型 四六判
頁数 159ページ
ISBN 978-4-10-336733-8
C-CODE 0093
ジャンル 文芸作品
定価 1,512円
電子書籍 価格 1,210円
電子書籍 配信開始日 2016/07/08

阪神大震災を予言し、信者を増やす淡路島の新興宗教。教祖Sはイザナキ、イザナミの国生みの地で、新たな世界創世を説いていた。ある日、アメリカ西海岸の秘密組織から男たちが訪ねてくる。彼らは何を企んでいるのか。すべてを見通す僕とは、いったい何者か? 世界のひずみが臨界点に達したとき、それは起きた――。大注目の芥川賞候補作。

著者プロフィール

上田岳弘 ウエダ・タカヒロ

1979年、兵庫県生まれ。早稲田大学法学部卒業。2013年、「太陽」で第45回新潮新人賞を受賞し、デビュー。2015年、「私の恋人」で第28回三島由紀夫賞を受賞。2016年、「GRANTA」誌のBest of Young Japanese Novelistsに選出。著書に『太陽・惑星』『私の恋人』『異郷の友人』がある。

書評

いい小説の条件

高橋源一郎

 上田岳弘さんの『異郷の友人』を読んだ。読み終わってすぐ、気になったことがあったので、最初から順に読み返してみた。最初に日付が出てくるのは何時なんだろう、と思ったからだ。あった。17頁目、「2011年2月21日」と書いてある。なんだかちょっと感動した……と書いても、この文章を読んでいる読者のみなさんには、なんのことだかわからないだろう。すいません。このまま続けさせてください。
「いい小説」が「いい小説」であるためには、いくつか条件がある。どんな条件だか、わかりますか? たぶん、それは読者によっても違うだろう。ストーリイが面白い、登場人物(キャラクター)が魅力的、文章が素敵あるいはユニーク、びっくりするようなエピソードが満載、(世界や社会への)鋭い認識がある、とんでもない発想が見つかる、等々。もちろん、それらのどれがあっても、けっこうなことだ。でも、ぼくの場合、「いい小説」である条件は、違うのである。もったいぶる必要はない。ぼくが「いい小説」と思えるものの条件は、以下の通りだ。
(1)ぼくたちが生きているこの世界とは異なったルールをもった世界があること。
(2)でも、異なったルールをもった世界であるのに、ぼくたちの、この世界に繋がっていること。
 これだけだ。でも、これを実現している小説は少ない。ほんとうに少ない。とても難しいのだ。「いい小説」であることは。たとえば、カフカの『変身』では、ある朝、起きると、ひとりの男が「虫」になっている。でも、それだけでは、(1)の条件を満たしていることにならない。「虫」になることが、どうやら必然であるらしい、と読者が感じたとき(1)の条件が満たされるのである。そして、その、ぼくたちにとって「異常」な世界が、実は、ぼくたちの世界の、異なった「現れ」であることを確信したとき、(2)の条件がようやく満たされることになるのである。
『異郷の友人』は奇妙な小説だ。最初に「吾輩」がいる。「吾輩」は、遙か歴史を超えて生きつづけている超越的存在だ。正確にいうと、それを「生きつづけている」と呼んでいいのかわからない。様々な人物に「生まれ変わり」、それぞれの記憶を保持したまま、現在に到達している。そして、現在、「吾輩」は「僕」=「山上甲哉」という名前で生きている。それだけではない。「吾輩」=「僕」は、他の様々な人びとと「意識」や「記憶」を共有することができる……らしい、のである。「らしい」と書いたのは、このすべてが、「僕」の妄想である可能性も捨てきれないからだ。なるほど。さて、この、きわめて、奇怪な「吾輩」=「僕」=「山上甲哉」以外にも、オーストラリア人で一匹狼的元ハッカー「J」、その雇い主で国際的秘密組織の幹部「E」、「世界の終わり」を予言する、淡路島を舞台にした新興宗教の教祖「S」などが登場する。ちなみに「S」もまた、「吾輩」=「僕」=「山上甲哉」と同様、他人の「意識」や「記憶」に参入することができるのである。さて、こんな風変わりな連中が、まるで申し合わせたかのように、一ケ所に集合する。それはいったいなぜなのか。そして、彼らは、どうなるのか。彼らを待っているものは何なのか。奇妙な世界で起こる奇妙なできごとを追いかけながら、ぼくは、ぼくが追いかけている文章や事件の「その先」で起こることを待ちつづけていた。
 そして、「それ」が起こるのだ。あの日、ぼくたちの世界でも起こったように。
 そう、これは、ぼくたちが知っている「あの日」を描いた小説だった。それにもかかわらず、この小説の「あの日」は、ぼくたちが知っている「あの日」とは少し違うように思えた。いや、もしかしたら、この小説で起こった「あの日」こそが、「ほんもの」であったのかもしれないのだが。
 ぼくたちが、「あの日」の大きさに圧倒され、それをほんとうには理解できなくなっていたのに、上田さんは、まったく別の世界にぼくたちを連れ出し、そこから、「あの日」の真の姿を見せてくれた。それは「いい小説」にだけできることのようにぼくには思えた。

(たかはし・げんいちろう 作家)
波 2016年2月号より

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