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再会したのは愛しき初恋の女(ひと)か、兄を殺めた冷酷な悪女か。

月光のスティグマ

中山七里/著

1,728円(税込)

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発売日:2014/12/22

読み仮名 ゲッコウノスティグマ
雑誌から生まれた本 yom yomから生まれた本
発行形態 書籍
判型 四六判変型
頁数 287ページ
ISBN 978-4-10-337011-6
C-CODE 0093
ジャンル ミステリー・サスペンス・ハードボイルド
定価 1,728円

この傷痕(スティグマ)にかけて俺が一生護る――。月夜に誓った幼なじみは、時を経て謎多き美女へと羽化していた。東京地検特捜部検事と、疑惑の政治家の私設秘書。追い追われる立場に置かれつつも愛欲と疑念に揺れるふたりに、やがて試練の時がやってくる。阪神淡路大震災と東日本大震災。ふたつの悲劇に翻弄された孤児の命運を描く、著者初の恋愛サスペンス!

著者プロフィール

中山七里 ナカヤマ・シチリ

1961(昭和36)年、岐阜県生れ。『さよならドビュッシー』で『このミステリーがすごい!』大賞を受賞し2010(平成22)年にデビュー。音楽を題材とした岬洋介シリーズほか、ミステリーを軸に精力的な執筆を続けている。著書に、『贖罪の奏鳴曲』『ヒポクラテスの誓い』『総理にされた男』などがある。

書評

波 2015年1月号より [中山七里『月光のスティグマ』刊行記念特集] ぼくらは誰もがスティグマを持っている

永江朗

先の展開がまったく読めない小説だ。中山七里の『月光のスティグマ』は、驚愕、驚愕、驚愕の連続である。
ぼくたちはふだん本を読むとき、それが小説であれ哲学書であれ、ある程度、先を見越しながら読んでいく。たとえば小説なら、作者が用意した設定を受け入れ、作者に導かれるようにして読んでいく。「この設定で、ここまでの展開からすると、次はこうなるだろう」と、漠然とした予測を立てている。初めての道を歩くときに、周囲の風景やこれまで来た道の様子から、先を予想するように。たとえどんなに曲がりくねった道であろうと、曲がりくねった道には曲がりくねった道なりの予想がつく。
ところが、そうした経験の積み重ねによる読みの技術が『月光のスティグマ』には通じない。次のページは予測できても、三十ページ後は予測がつかないのだ。読んでいて全く気の抜けない小説である。
小説はお医者さんごっこから始まる。いきなりだ。思わず「えっ、そういう小説なのか?」とつぶやいてしまう。
森の中で二人の少女を裸にして体の隅々まで観察する主人公である少年。これは主人公淳平のヰタ・セクスアリスなのだろうかと戸惑いつつ読み進むと、どうもそうではないらしいと分かってくる。一卵性双生児の姉妹、麻衣と優衣の違いを探すためにお医者さんごっこをしているというのである。だが相違点は見つからない。姉妹は完璧に同じなのだ。しかもとても美しい姉妹だ。外見は完璧に同じ。しかし淳平だけは麻衣と優衣の違いがわかる。二人のほんのわずかな性格の違いを、彼だけは感じ取ることができる。しかも淳平は二人にモテモテときている。
どういうことだ。これはちょっとエッチなラブコメなのか。そういう小説を中山七里が書くのか。中山七里は読者をどこへ連れていくのか。そういぶかしんでいると、森の中で事件が起きる。変態男が彼ら三人を襲うのだ。ガムテープで拘束されて自由を奪われる三人。淳平の目の前でカッターで傷つけられる麻衣と優衣。恐怖のあまり失禁する美少女たち。
変態男は股間からイチモツをつまみだすと、「口を開けろ」と少女に命じる。哀れ、美少女の運命やいかに。しかし、間一髪というところで……。おいおい、こんどはこう来たか。
変態男の魔の手から逃れたかと思うと、次は双子の実家を不幸が襲う。号泣する双子の前で淳平は宣言する。
「俺が、護ったる」「もう、二人を誰からも傷つけさせない」
まだ小学生である淳平の、この決意と宣言が小説全体の伏線となる。
一九九五年一月十六日の夜、淳平はある事件を目撃する。なぜそのような事件が起きたのか、信じられないような事件だ。しかし翌、十七日未明。巨大地震が襲う。淳平と麻衣・優衣が住む神戸市は激しく揺れる。淳平が目撃した事件の痕跡も、巨大地震の被害のなかに埋もれてしまう。震災を生き延びた淳平は、あの事件について他人には決して口にできない疑問を抱きながら成長する。謎が解き明かされるのは、小説の最後の最後である。
うーん、ネタバレを避けつつこの小説を紹介するのは、これくらいが限界だ。ちょっと書きすぎたかもしれない。
タイトルにあるスティグマ(stigma)とは、英語で恥辱や汚名、そして負の烙印を意味する。ギリシア語のstizein(入れ墨をする)が語源だ。しかし、キリスト教では聖痕の意味もある。
『広辞苑』はもう少し詳しく解説する。
〈社会における多数者の側が、自分たちとは異なる特徴をもつ個人や集団に押しつける否定的な評価。身体・性別・人種に関わるものなど〉
森の中で変質者が麻衣と優衣につけた傷は負の烙印か、それとも聖痕なのか。
本書を読み終えた日、ぼくは神戸の街を歩いてみた。いくつかの慰霊碑をのぞき、あの震災を思い出させるものはほとんどない。人びとは幸福そうな表情で歩いている。しかし、ぼくらは誰もがスティグマを持っている。

(ながえ・あきら フリーライター)

[→][中山七里『月光のスティグマ』刊行記念特集]【インタビュー】中山七里/女性という、もどかしい謎

目次

一 思春の森
二 運命の人
三 恋人までの距離(ディスタンス)
四 逢瀬いま一度
五 いのちの戦場

インタビュー/対談/エッセイ

波 2015年1月号より [中山七里『月光のスティグマ』刊行記念特集]  【インタビュー】女性という、もどかしい謎

中山七里

 ――この作品を書こうと思ったきっかけは?
中山 ラブストーリーをお願いしますというリクエストを編集の方にいただきまして、私自身、恋愛小説をほとんど読んだことがないので手探り状態から始めたのですが、プロットはいつも通り3日で完成させました。

 ――プロット作成は3日と決めているのですか?
中山 はい。正確に言うと3日間、朝から晩まで寝ないで考え続けて、頭の中で最初の一行から最後の一行まで書くんですよ。構想ではなくて、どこで誰がどんな台詞を言うかも決めています。メモも取りません。ここで小説の8割は完成して、あとは少しずつダウンロードしていくように文字に落としていきます。ですから何本連載が増えようが大丈夫なんですよ。最高で14本まで連載が重なったことがあります。

 ――とてつもない記憶力ですね。
中山 見聞きしたことを忘れない性分なんですね。小学生の時に見たテレビドラマのストーリーや配役、音楽やタイトルバックまで鮮明に覚えていて、普通の人は興味があるものだけ覚えているらしいのですが、私の場合はつまらないと思ったものも忘れられない。たぶん病気ですね(笑)。今と違って、ビデオもない時代でしたから、観た映画は絶対に忘れないぞ、という気合で、ものすごい集中力だったんでしょう。誰とどの映画館に行って、そのあと何を食べたかといったシチュエーションごと、頭の中に記録されているんです。その膨大なアーカイヴが、作家になってからずいぶん役立っていて、今回の作品の場合も、恋愛の本はあまり読んでいなくても映画からそのエッセンスを抽出することができました。ちなみに各章のタイトルは映画の題名から採っています。

 ――「思春の森」「運命の人」「恋人たちの距離」「逢瀬いま一度」「いのちの戦場」。確かに有名なタイトルもありますが、最初の「思春の森」ってどんな映画ですか?
中山 70年代のイタリア映画で、思春期の少年少女の三角関係をテーマにしたものですが、現在ではチャイルドポルノに指定されDVDも回収処分となり国内で観ることはできません。こういうときに、訳の分からん記憶力は役に立っているような気がします(笑)。

 ――確かに、森の中で少年が双子の少女を裸にしてお医者さんごっこをする過激なシーンから第一章が始まりますね。
中山 男と女って、犬と猫のようなもので、お互いの気持ちは結局最後のところまでわからない。距離感がつかめるようでつかめない。そういうもどかしさを強調するために、双子の女の子に翻弄される男の子を主人公にしたのです。幼いうちはお医者さんごっこで無邪気に遊んでいた三人が思春期となり、男の子は双子の片方と相愛になる。その途端、大地震が来てもう片方が命を落とす。さて二人の関係は一体どうなるのか? そこにサスペンスが生まれるのではないか? というのが発想の原点です。

 ――成人して再会した二人は敵対する立場に置かれます。
中山 私生活では恋人、仕事では敵となったとき、つまり公と私、昼と夜、上半身と下半身で相反するベクトルが働く状況に置かれたときに、恋愛は原型をとどめられるのか、というのも書きたかったテーマのひとつですね。ただ惚れた腫れたの恋愛ではなくて、男と女が仕事の面でも探り合っていて、最後まで手の内は明かさないけれども、精神的にはどこかで繋がっている。そういうアンビバレントな状況下での恋愛にしたかったのです。「一体この女は何者なのだ?」と、男はもどかしい謎に包まれる。殺人が起こるだけがミステリーではないのです。

 ――主人公の恋敵となる政治家も、結構いい男ですね。
中山 映画もそうですけど、敵役や脇役のキャラが立っていて魅力的なほど、がぜん面白くなります。今作は主人公をあまり特徴のない男にして、そのぶん脇役の個性を強めに押し出しています。ライトノベルって、必ずといっていいほど、主人公のオレが万能で最強というのが基本設定ですよね。そうしないと読者が買わないらしい。でもそんな話、これまで読んできた小説にも観てきた映画にも、まったくストックがないですよ(笑)。登場人物をリアルに描いて、主役をやみくもに万能にしないやり方でも、充分に面白い小説が書けることを証明していきたいですね。

(なかやま・しちり 作家)

[→][中山七里『月光のスティグマ』刊行記念特集]永江 朗/ぼくらは誰もがスティグマを持っている

判型違い(文庫)

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