ホーム > 書籍詳細:祖国の選択―あの戦争の果て、日本と中国の狭間で―

戦中の満州や戦後の中国を生き抜いた日本人が強いられた究極の決断とは?

祖国の選択―あの戦争の果て、日本と中国の狭間で―

城戸久枝/著

1,512円(税込)

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発売日:2015/01/16

読み仮名 ソコクノセンタクアノセンソウノハテニホントチュウゴクノハザマデ
発行形態 書籍、電子書籍
判型 四六判変型
頁数 282ページ
ISBN 978-4-10-338071-9
C-CODE 0095
ジャンル ノンフィクション、日本史
定価 1,512円
電子書籍 価格 1,210円
電子書籍 配信開始日 2015/07/17

帰国を果たした中国残留孤児の日本での苦境。家族を殺された国で日本帰国か中国残留かを迫られた女性の選択。元従軍看護婦にとっての「海の向こう」。逃避行のため子を殺すよう迫られた母が抱いた決意。三度「九死に一生を得た」兵士の運命の分かれ道。戦争孤児だった父の中国への熱い想い──。六つの「落葉帰根」の物語。

著者プロフィール

城戸久枝 キド・ヒサエ

1976(昭和51)年、愛媛県生れ。徳島大学総合科学部卒業。大学在学中の1997(平成9)年から二年間、中国吉林省長春市の吉林大学に国費留学。貿易会社、出版社勤務を経て、ノンフィクションライターに。国交回復前の中国から1970年に自力で日本に帰国した元戦争孤児の父の足跡を追った『あの戦争から遠く離れて』で、大宅壮一ノンフィクション賞、講談社ノンフィクション賞、黒田清JCJ新人賞を受賞。同書は、「遥かなる絆」のタイトルで2009年にNHKでテレビドラマ化された。他の著書に、『長春発ビエンチャン行 青春各駅停車』『黒島の女たち』がある。

書評

波 2015年2月号より [城戸久枝『祖国の選択―あの戦争の果て、日本と中国の狭間で―』刊行記念特集] なぜ、戦争体験を風化させてはならないのか

杉山春

「父と養母との間には、血縁や国家を超えた深い信頼関係が築き上げられていた。(略)父の養母との絆があったから、私は今をこうして生きている」
城戸さんは、本書の中でこう書いている。
父幹氏は、1945年8月、ソ連軍の満州国侵攻にともない、東部の町、勃利から、満州国軍の日系軍官だった父親の部下の中国人男性に連れられて、無蓋の列車で避難。林口駅でソ連軍の戦闘機から機銃掃射に遭う。それをきっかけに日本人集団を離れ、孤児となった。当時、3歳9カ月。その後、頭道河子村(トウダオホーズ)で養母、付淑琴(フースーチン)に育てられ、文化大革命下の激しい日本人排斥の中、1970年4月、万難を排して帰国した。日本では父の反対から願っていた大学進学はかなわず、一方、家族に恵まれ、それでも養母への思い、故郷への断ち難い思いを抱えて生きる。
城戸さんは、父について知りたいと、1997年から2年間、国費留学生として吉林大学で学び、10年かけて、日本側と中国側から取材。『あの戦争から遠く離れて』(2007年、情報センター出版局)を出版した。
本書は『あの戦争から~』をきっかけに、つながりをもった人たちへの、戦争体験を含む聞き書き。それを通じて、明らかになった父に関する新事実から構成されている。
日中間の相互の反目のなかで、それぞれの国の罪や責任を負わされ、今は中国人の妻を介護する老いた中国残留孤児。開拓団員として満州に渡り、ソ連侵攻にともなう逃避行で家族全員を失った、当時15歳だった女性。従軍看護婦として中国に渡り、戦後、8年間日本に戻れなかった女性。アメリカに生まれ、日本で教育を受け、満州国軍の軍人だった男性と結婚して満州に渡り、幹氏と同じ列車で林口で機銃掃射に遭遇、3人の幼い子どもを連れて帰還した母親。中国での厳しい行軍で飢えて民家を襲い、食糧を奪い、人を殺し、自身も大けがを負い、生き延びた男性の戦争体験。城戸さんは、この男性に祖父を重ねる。
反日感情にも中国への反感にも取り込まれることを拒み、政治的な偏りはもたず、虚心に事実に向き合い、一人ひとりの話を聞く。人はどのようなことでも起こしてしまう。同時に、どのような中にあっても人を助け、つながりを生み出す。その営みの現実を私たちは本書によって知る。そのとき国とは何か、家族とは何か、戦争とは何かが浮かび上がる。
この間、城戸さんは父とともに、また夫と息子とともに、父の育った村、頭道河子を訪ねた。親戚、父の親友との触れ合いで、父の故郷への深い気持ちに改めて気付く。父が孤児になった年齢の息子に、当時の父の寄る辺なさを実感する。
幹氏は、父娘の枠組みを超え、今はひとりの人としてそこにいる。
なぜ、戦争体験を風化させてはならないのか。
私はかつて、国策で開拓民になるために10代で満州国に送り込まれた青少年義勇隊の、妻たちを取材して『満州女塾』(新潮社)を書いた。残留婦人となった主人公の女性は、幼い幹氏と同じ無蓋列車で勃利から逃げ、林口駅でのソ連軍の機銃掃射を受けた。彼女の人生を追ったことで、私は女性の性が簡単に国に利用されること、国による守りが失われれば、子どもの命は危機にさらされると知った。その事実が、現代の児童虐待や女性の貧困問題について理解する、土台を作る。
今年戦後70年を迎える現在、多様な価値観がばらまかれている。大新聞は言葉の方向性を見失い、福島第一原発事故の所長の発言について報じた記事を取り消し、慰安婦報道検証の第三委員会の報告書を出し、繰り返し頭を下げる。反中国、反日感情は高まったまま、一向に減じない。将来に向けて何を守らなければならないのか、共通の意思が持てない。
答えは歴史の中にあるはずだ。悲惨が起きた場所・時点にまで立ち返り、一人ひとりの人間に何が起きたのか、語られる言葉に耳をすませ、丁寧に読み解くことによってしか、解は見つからない。だからこそ、城戸さんは、父が孤児のきっかけとなった、林口での機銃掃射を描かないでいられない。インタビューした人々の口を借りて、繰り返し不戦を訴える。
多くの経験と言葉が記録されなければならない。タイムリミットはもう来てしまっているのかもしれないが。

(すぎやま・はる ノンフィクションライター)

[→][城戸久枝『祖国の選択―あの戦争の果て、日本と中国の狭間で―』刊行記念特集]【インタビュー】城戸久枝/世代を超えて

目次

プロローグ 彷徨える祖国
第一章 夫の祖国、妻の祖国
再訪/唯一の養父/古い写真/身元判明/帰国/夫の祖国、妻の祖国
第二章 家族を殺された国で
開拓団の一員として渡満/東京開拓団/一九四五年八月、悪夢の予兆/麻畑の悲劇/断崖絶壁の悪夢/再び一人に/八路軍に居場所を求めて/哈爾浜で日本人として/祖国に帰る意味/祖国の土を踏んで
第三章 海の向こうの祖国
懐かしい牡丹江という響き/従軍看護婦として/産婆の資格が導いた悲運/崖から転落/牡丹江へ/牡丹江難民会にて/打ち砕かれた帰国の夢/結婚/八路軍での留用生活/中国人たちの中で/念願の祖国/海の向こうの祖国
第四章 母としての選択
つながる糸/アメリカ生まれの日本人/日系軍官の妻として/子供を殺さない覚悟/林口で何があったのか/逃避行/子を亡くした母――祖母由紀子の話/哈爾浜の収容所を出る/新京へ/あんよ痛い/帰還
第五章 運命の選択
表郷との出会い/二十歳で兵士となる/九死に一生/一本の腕/人を撃つということ/脚を撃ち抜かれる/敗戦/二百六十七人分の想い/再びの表郷/戦争を語り継ぐ意味――命のバトン
第六章 選択の果てに――父の選択
二〇〇八年秋、父と娘の訪中記/日中国交正常化四十周年/父の葛藤/五年ぶりの中国/老いゆく記憶/中秋節/変わりゆく中国の人びと/墓のある意味/心の故郷/帰らないという選択/選択の果てにあるもの
エピローグ 百歳からの手紙
主要参考文献

インタビュー/対談/エッセイ

波 2015年2月号より [城戸久枝『祖国の選択―あの戦争の果て、日本と中国の狭間で―』刊行記念特集] 【インタビュー】世代を超えて

城戸久枝

――国交がなかった中国から一九七〇年に自力で日本への帰国を果たした元戦争孤児の父・城戸幹さんのことを書いた『あの戦争から遠く離れて 私につながる歴史をたどる旅』(二〇〇七年、情報センター出版局刊。大宅壮一ノンフィクション賞、講談社ノンフィクション賞、黒田清JCJ新人賞を受賞。同書は「遥かなる絆」のタイトルでNHKでテレビドラマ化もされた。その後、文春文庫化)の出版から、七年余りが経ちました。その間、どのように過ごしてこられましたか。
城戸 十年以上かけて取材をして父の足跡を本に書いたことが、私にとってとても大きかったものですから、自分の気持ちとしては、なんだかそれでもう終わったような感じになっていました。正直なところ、その先のことについてはあまりよく考えていなかったのです。でも、『あの戦争から遠く離れて』の出版がきっかけで、いろんな出会いがつながっていきました。本を読んで、あるいはテレビドラマを見て、父の過去に興味を持ってくださる方も多かったのですが、戦争体験者の方に会う機会も増えました。たとえば、講演に行った先で、「実は私も満州にいたんです」とか、「私の母も戦争でこんな出来事に遭いました」などと仰る方に出会うこともよくあったのです。だからといって、すぐに、そういった戦争体験者の方々のことを書こうと取材を始めたわけではありませんでした。それぞれのお話はそれぞれに重く、私の中で受け止め切れないような苛酷で壮絶な事実に満ちていましたし。

――『祖国の選択』の第四章に書くことになった松永好米さんのお話を最初に知ったときは驚いたでしょう。城戸幹さんが「中国残留孤児」になる直接のきっかけとなった、林口駅付近でソ連軍の戦闘機による機銃掃射に遭った列車に、松永さんも乗っていて、城戸幹さんの姿を目にしていた。
城戸 林口で実際にどのようなことが起こったのか、当時三歳九カ月だった父から聞いた話ではよくわかりませんでした。ところが、その場に居合わせた人がいたわけです。それが、松永好米さんでした。松永さんは二〇〇七年十一月に電話をくださったのですが、そのとき私は新婚旅行に行っていて、旅行先で電話を受けたのでした。たしかに、お話を聞いて衝撃を受けました。旅行から帰ったらとにかく会いに行ってみようと思い、翌年、実際に、お住まいのある大阪へ行ってお目にかかってみたら、松永さんはとても気さくで明るい“大阪のおばちゃん”でした(笑)。おばちゃんといっても、そのとき松永さんはすでに九十三歳だったわけですが。
松永さんにお会いしたときは、やっぱり、まず、父についての話を聞きたいという思いが強かった。でも、お話を聞くうちに、松永さんご自身の体験談に私がどんどんと引き込まれていったのです。

――松永さんのみならず、『祖国の選択』には、あの戦争に翻弄された経験をもつ人たちが登場します。
城戸 本に書かせていただいたそれぞれの方々とは、偶然の出会いというとおかしいのですが、私から探しに行ってお会いしたわけではなく、自ずと縁がつながっていった感じです。
それぞれの方々のお話を聞いているときは、こんな本を書こうという具体的な計画はありませんでした。でも、何度かお目にかかってお話を聞いていくうちに、戦争体験の断片を中途半端に聞くのではなく、その人の人生を丸ごと知りたいと思うようになったのです。
ただ、私は二〇一〇年に子供を出産したこともあり、途中で「取材」が中断するようなかたちになってしまいました。そうして時間がかかったことも、たぶん結果的には良かったのだろうと思っています。それぞれの方々の体験について、時間をかけて私なりに理解を深める必要がありましたから。また、もし子供が生まれる前に書いていたら、私自身の理解の仕方や言葉の表現もかなり違っていただろうとも思います。

――二〇一五年は「戦後七十年」にあたる年です。
城戸 時間の経過にともなって、あの戦争のことを具体的に語ってくれる人のお話を聞ける機会はますます貴重になっていくでしょう。だからこそ、ちゃんと語り継がれるべき事柄がそこにはたくさんあると思うのです。私自身も、今思えば、『あの戦争から遠く離れて』を書いているときは、戦争についてしっかり考える姿勢を持てていなかったかもしれません。その後、父以外の戦争体験者の方々の様々な話を聞けたことによって、過去の戦争だけでなく、何が起こるかわからない未来も含め、自分と自分の子供の世代にも直接的に関わることとして戦争というものを考えられるようになった気がします。いろんな人の過去の「選択」の先に今があり、私たちがいるわけです。「戦後七十年」の節目をひとつの契機に、過去の戦争を、今やこれからにつながることとして、世代を超えて考えていけたらと思います。

(きど・ひさえ 著述家)

[→][城戸久枝『祖国の選択―あの戦争の果て、日本と中国の狭間で―』刊行記念特集]杉山 春/なぜ、戦争体験を風化させてはならないのか

判型違い(文庫)

つなぐ本×本 つながる読書<広がる世界

戦争に翻弄される家族の姿。

戦前・戦中・戦後から平成までの家族の歴史でもある『十三匹の犬』。『祖国の選択―あの戦争の果て、日本と中国の狭間で―』は、戦争孤児だった父を持つ著者による、戦争に翻弄された経験をもつ人たちを取材した貴重な記録。

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