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それでも、産みたい―40歳目前、体外受精を選びました―

小林裕美子/著

1,100円(税込)

発売日:2016/11/30

  • 書籍
  • 電子書籍あり

10年以上子どもができない。
治療するか、諦めるか――。

まさか自分が不妊だなんて……想像さえしなかった「現実」からずっと逃げてきたけれど、やっぱり子どもが欲しい。体外受精は怖い? お金はいくらかかる? 命を創り出すなんてエゴ? 答えのない自問自答でモヤモヤ。でも――。葛藤の日々と一歩踏み出した先にある「未来」を率直に綴り、不妊に悩むすべての人に寄り添うエッセイ漫画。

目次
はじめに
1章 治療してまで、子どもがほしい?
アラフォー夫婦
そこから、「ほしい」にシフトしていく――
人生の追体験
もしかして不妊?
30代半ば
異常なし、だから焦る
実母の気持ち
そのまま30代後半に
子どものいない人生
2章 産むか、あきらめるか
高度生殖医療クリニック
体外受精スタート
初めての採卵
期待と落胆
まさかの陽性反応!?
不妊治療クリニック卒業
超高齢出産だから
羊水検査カウンセリング
産むか、あきらめるか
1泊2日の羊水検査
私たちの答え
3章 「お母さん」になる私
存在理由?
発育不全の疑い
性別判明
フリーランスゆえの悩み
人間らしいお産
産まれてくる君へ
命の重みも抱いている
NICU(新生児集中治療室)
かける言葉
消えない不安
おわりに

書誌情報

読み仮名 ソレデモウミタイヨンジュッサイモクゼンタイガイジュセイヲエラビマシタ
発行形態 書籍、電子書籍
判型 A5判
頁数 192ページ
ISBN 978-4-10-339052-7
C-CODE 0979
ジャンル コミック
定価 1,100円
電子書籍 価格 880円
電子書籍 配信開始日 2017/05/12

書評

切実な実体験だからこそ

東尾理子

 私は二〇一二年に三十六歳で長男を、一六年に四十歳で長女を、いずれも体外受精で出産しました。もともと子供が欲しいと結婚前から希望していたので、〇九年に結婚してすぐ、いわゆる「妊活」を始めたのですが、当初は「妊活」という言葉自体も知らなかったくらいで、そもそも不妊治療にどんな方法があるのかさえ、知りませんでした。
 著者の小林さんと同じで私も、夫婦共に検査の結果に問題はなく、不妊の原因は不明。実はこの「不明」というのが、治療しようにも対処の仕方に正解がないわけで、治療を進めていく上で一番厄介なんです。それに、小林さんもそうでしたが、「もしかしたらそのうち自然にできるかもしれない」なんて希望を残してしまうから、余計に体外受精のような高度な治療に踏み出せなかったりもする。私の場合は、自分が三十代半ば、夫が五十代後半だったこともあって体外受精にためらいはなかったのですが、体外受精には、薬の副作用、高額な治療費、頻繁に通院するための時間のやりくり、夫婦間の意見の相違、精神的なストレス、妊娠しなかった時のやめどき……と、様々な不安や心配がつきまといます。その上、小林さんが十年以上迷ったように、「命を創り出してしまうこと」への躊躇など、倫理的な問題も関わってきて……。
 そんな葛藤の日々を小林さんは、丁寧に、そして正直に描いています。柔らかな漫画のタッチからは、例えば登場人物の表情ひとつとっても、言葉以上のものが伝わってきて、今まさにそのような悩みを抱えている人にとって参考になることはもちろん、そっと寄り添ってくれる内容でもあると思いました。個人的には、命の尊さを改めて感じて、叱ってばかりでなく二人の子供にもっと優しくしなくちゃ……と反省もしたり(笑)。
 また、こんなふうに体外受精の実体験がオープンにされることは、日本社会にとって非常に良いことだとも思いました。私は「不妊治療」という表現、特に「不」と定義付けられているのが本当に嫌で、「妊娠治療」と言葉を変えてくれたらいいのにと常々願っています。TGP(Trying to Get Pregnantの略で、「妊娠しようとがんばっている」という意味)という造語まで作ってしまったくらい、「不」という文字への嫌悪感があって。なぜなら、「不妊」という言葉から否応なしに感じられてしまうネガティブさが、「妊娠できないことは恥ずかしい」などと、抱く必要のないマイナスの感情を、特に女性の側にもたせてしまって、当事者の方々を余計に苦しめる要因になっていると思うからです。
 そんなふうに考えるようになったのは、体外受精を始める時に何気なくブログにそのことを書いたら、びっくりするくらい大きな反響があったのがきっかけでした。「そんなデリケートな問題を公表するなんて、信じられない」といった批判の声もたくさんありましたが、私にはそもそも「公表した」なんて意識はなくて、「○○番組の収録をしました」「我が家の夕飯、今日はこんなメニュー」という日常の出来事を報告するのと同じ感覚だったんです。そして一方で、「私も体外受精にトライ中です。でも誰にも言えなくて……とても励まされます!」と共感して下さる方がそれ以上に多かったこともまた、まったく予期せぬ反応でした。それ以来、自分の選択を恥じたり、隠したりする必要はないよ――そんな思いが強くあるので、小林さんのこの漫画は、そういう意味でもとても嬉しいものでした。
 子供を産んでみたいのか、自分の遺伝子を残したいのか、子育てがしてみたいのか、家族を持ちたいのか――作中で小林さんも自問自答を繰り返し、養子縁組について調べたりもしていましたが、体外受精によってでなくても、「子供を持つ」ということそれ自体が、自分が根本のところでどう生きたいと希望しているのかを見極める作業でもあると思うんです。それは三十代から始めるより、二十代から考え出した方が選べる道が多い分、絶対に良くて。だからこそ、この本は若い方や男性にもぜひ読んで欲しいです。
 最後の数ページ、小林さんは、「子供ができなかったもう一人の自分」を描きます。あり得たかもしれないもう一つの「未来」を考える結末に、私は深く感動しました。「不妊」は決してマイナスなことだけではない――そんな小林さんからの確かなメッセージが、一人でも多くの人に広がるように願っています。


(ひがしお・りこ プロゴルファー)
波 2016年12月号より

著者プロフィール

小林裕美子

コバヤシ・ユミコ

イラストレーター/マンガ家。東京造形大学デザイン学科卒業。書籍、雑誌、WEB媒体、新聞等にイラストやコミックを掲載中。『親が倒れた!桜井さんちの場合』『親を、どうする?』『私、産めるのかな?』『産まなくてもいいですか?』『それでも、産みたい 40歳目前、体外受精を選びました』など多数の著書がある。

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