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なぜ彼らは最愛の肉親に手をかけたのか? 
その時、彼らの何が壊れたのか?

介護殺人―追いつめられた家族の告白―

毎日新聞大阪社会部取材班/著

1,404円(税込)

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発売日:2016/11/18

読み仮名 カイゴサツジンオイツメラレタカゾクノコクハク
発行形態 書籍、電子書籍
判型 四六判
頁数 238ページ
ISBN 978-4-10-350511-2
C-CODE 0095
ジャンル ノンフィクション
定価 1,404円
電子書籍 価格 1,123円
電子書籍 配信開始日 2017/05/12

夫婦・親子だから当然と始めた家庭での介護がやがて困難を極め、長期化する——そして今、全国で後を絶たない介護苦による殺人事件。家族の絆が悲劇に変わる「魔の瞬間」は避けられなかったのか? 「加害者」となってしまった家族本人の生の声を聞き、間近にいた関係者への取材も重ねて明らかになった、在宅介護の壮絶な現実と限界。

著者プロフィール

目次

はじめに
第一章 告白
真夜中のドライブの果て/検事さんには私の苦しみは分からん
第二章 先が見えない不安
長期介護という出口のないトンネル/母の愛が絶望に変わる瞬間
第三章 残った者の日々
「もう一度、母の子として生まれたい」/悲劇の連鎖/介護殺人が残す傷跡
第四章 事件は防げたのか
ケアマネジャーの告白/医師が感じていた兆候/「もう二度と孤独にはさせない」/現場の苦悩/介護で追いつめられる男たち
第五章 苦悩と絆
「いないとやっぱり寂しくて」/「ヤングケアラー」の苦悩と奮闘/家族を引き離した「多重介護」/とんがり帽子の屋根の家
第六章 介護家族の現実――支援の限界と急がれる見直し
介護家族アンケートから見えること/支援の現状と望まれる見直し/家族に介護が必要になった時/シリーズへの反響
さいごに
執筆者紹介

インタビュー/対談/エッセイ

彼らの姿は未来の私たちかもしれない

前田幹夫

「取材を受けるかどうか、家族で相談してくれましたが、母親が拒否しているようです。家族も記事になることの影響を気にしています。もう一度考えてもらえないかお願いしましたが、厳しい情勢です」
 取材班の記者から届いた膨大な取材メモを読み返してみると、取材がなかなか進まなかったことを思い起こす。そして、介護を巡る悲劇を背負った家族の疲弊と葛藤に胸が痛む。
 この取材メモの「母親」は先天性の重い障害を抱えた娘を数十年間、介護した末に命を奪った。殺人罪で執行猶予付きの有罪判決を受けた後、長男家族のもとで暮らしていた。
 裁判所は、介護疲れや将来への悲観によって、母親が事件当時、うつ病を患っていたと判断した。それにしても、深い愛情で結ばれた母娘にいったい何があったのか。どの家族にも起こりうる苦悩や課題を抱えていたのではないか。
 母親本人から、あるいは、母娘の人生をもっともよく知っている家族から話を聞きたい。記者が長男のもとに幾度となく通い、ようやく家族みんなで、取材を受けるかどうか話し合ってもらうことになった。しかし、長男から聞かされたその結論は私たち取材班にとっては厳しいものだった。
 警察庁の統計では、介護・看病疲れが原因とみられる殺人事件(未遂を含む)は年平均で46件発生している。少なくとも8日に1件のペースで介護を巡る悲劇が起きている計算になる。
 生きるための手助けである介護を続けた結果、それも大切な家族のためなのに、その命に手をかけてしまう。こんな信じられない事件が当たり前のように各地で起きているのだ。
 介護殺人をテーマに、毎日新聞大阪本社社会部に「介護家族」取材班を立ち上げたのは2015年春だった。事件の当事者である加害者や家族に証言してもらい、悲痛な事件が後を絶たない理由を浮き彫りにできないかと考えたのが発端だ。
 取材は難航した。やはり、簡単には取材を受けてもらえなかった。それも当然のことだ。できることなら記憶の彼方へ追いやってしまいたい。加害者ら当事者家族ならそう願っているに違いない。
 それでも、何人かが貴重な告白をしてくれた。心の隅々まで悲しみが張り付いているであろう彼らの言葉はずしりと重く、私たちも心を揺さぶられた。
 彼らの証言などをもとに、2015年12月に毎日新聞(大阪本社発行版)でシリーズ企画「介護家族」を始めた。最初の連載は「殺人事件の『告白』」だった。
 その後、苦悩を抱えている現役の介護者らの物語などを連載で取り上げた。全国の介護殺人の分析や介護者アンケートもして、在宅介護を巡る実態を多面的に伝えようと努めた。全国に知られた京都・伏見の介護殺人を巡るスクープも大きな反響を呼んだ。
 少子高齢化によって、在宅介護の時代は既に到来している。間もなく、家族の介護と無縁でいられる人はいなくなるのではないかとさえ思う。
 いつの間にか追いつめられ、悲劇の扉を開けてしまった介護殺人の加害者やその家族の姿は、もしかしたら、未来の私たちかもしれない。彼らの言葉に耳を傾けると、それが大げさな表現ではないことがわかるはずだ。
 冒頭に紹介した家族の長男は突然の取材の申し入れにもかかわらず、真剣に、そして丁寧に応じてくださった。取材を断ったうえで、こう付け加えていた。
「残念ながら、自分たち家族の話はできませんが、取材されている事の社会的意義はすごくよく分かります。ぜひ、記事にしてほしいと願っています」
 告白してくれた家族らも同じ気持ちを抱いていた。こんな悲劇は自分たちだけで十分だ――と。
 日本ではこれまで、在宅で家族を介護している人をどう支えるかについて、あまり活発な議論がされてこなかった。しかし、もはや待ったなしの状況ではないかと思う。
 突然に命を落とさない限り、ほとんどの人はいずれ誰かの介護を受けて生きることになる。介護経験がある人も、今は縁がない人も、介護を巡る悲劇を直視し、現在、そして未来の介護者に思いをはせてほしい。


(まえだ・みきお 毎日新聞「介護家族」取材班代表)
波 2016年12月号より

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