ホーム > 書籍詳細:駒姫―三条河原異聞―

無実の罪で処刑される東国一の美少女を救え! 
新鋭が挑む、日本史上最悪の悲劇。

駒姫―三条河原異聞―

武内涼/著

1,944円(税込)

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発売日:2017/01/20

読み仮名 コマヒメサンジョウガワライブン
発行形態 書籍
判型 四六判変型
頁数 391ページ
ISBN 978-4-10-350641-6
C-CODE 0093
ジャンル 歴史・時代小説
定価 1,944円

文禄四年、夏。最上義光の娘・駒姫は、関白秀次の側室となるため聚楽第に入った。しかしその直後、秀次は謀反の罪で切腹。残された妻子には想像を絶する運命が待ち受けていた――。姫を救うため、最上家家臣たちの壮絶な闘いが幕を開ける! 「この時代小説がすごい!」文庫書き下ろし部門No.1の著者による慟哭の歴史ドラマ。

著者プロフィール

武内涼 タケウチ・リョウ

1978年群馬県生まれ。早稲田大学第一文学部卒。映画、テレビ番組の制作に携わった後、第十七回日本ホラー小説大賞の最終候補作となった原稿を改稿した『忍びの森』でデビュー。2015年『妖草師』シリーズが徳間文庫大賞を受賞、さらに同シリーズで「この時代小説がすごい2016」〈文庫書き下ろし部門〉第一位に。他の著書に、『戦都の陰陽師』シリーズ、『忍び道』シリーズ、『吉野太平記』『秀吉を討て』など。

書評

死に臨む者をみたす豊饒な生

高橋敏夫

 これは、武内涼にとって、新飛躍を試みた作品だ。
凶事まがごとが生んだ鋭気が、普段は静かな山内を掻き乱していた」――とは、武内涼らしい書き出しである。二〇一一年に『忍びの森』でデビューして以来、ファンタジーとも接する時代伝奇ものを主たるステージに、うごきのはげしい変事と変異を、あるいは華麗に、あるいはグロテスクに、次つぎに実現させてきた作家らしい、物語幕開けの言葉であろう。
 文禄四(一五九五)年七月十五日。高野山の大石灯籠前で、三千の兵と、三十人の山伏が、蝉時雨をあびながら睨みあっていた。側室の淀君が生んだ鶴松が亡くなると、秀吉は甥の秀次に関白職を譲り、みずからは太閤と称して無謀な「朝鮮出兵」に力をそそいだ。しかし、淀君にお拾(後の秀頼)が生まれるや、次の関白にしたいと願う秀吉は、邪魔になった秀次を謀反の疑いで高野山へ追放、ばかりか切腹を迫った。
 暴君の理不尽な命をかざす福島正則ひきいる兵に、殺生禁断の場にして世俗的権力のおよばぬ聖域アジールで、しかも学侶、行人、聖の三身分の者が等しく発言権をもつ高野山側は一歩も退かない。だがこの時代、もはや高野山には言葉の力のほか、秀吉に現実的に対抗しうる力はなかった。それでもなお自分を助けようとしてくれる僧たちに迷惑をかけられぬと、秀次は自刃を決断する。
 凶事は最悪の結末へ、よく知られた歴史的事実そのままに秀次はあっけなく死ぬが――、その瞬間、他の誰にも気づかれぬ変事が秀次に出来する。「剣が打ち下ろされ、首が飛んだ。/首が飛んでも秀次にはまだ意識があった」。
 ただし、これが変事なのはたしかにしても、真におどろくべきは、浮遊する意識にうかぶ、なんの変哲もない生の光景である。「見渡す限りの青田が眼前に開けていた。/おさなき日、岐阜から尾張乙の子村まで延々と歩いた記憶がある」。母のとも・・がいて、朝鮮出兵で死んだ弟の秀勝が赤ん坊で、みすぼらしい格好の父、弥助がいる。蒸された草と稲の香りが秀次をつつみ、水路に足を入れれば心地よい水の感触が……。そんな生の光景を静かにだきしめながら秀次は、あとに残される母と父、妻、女たち、子どもたちにわびた。
 死への恐怖でも、秀吉への呪詛でもない。神仏への願いでもない。死につづいて秀次におとずれたのは、家族のそろう或る日の記憶と皆への愛おしみだった。死に臨むひとりの人間の内面に出来する、生の鈍いかがやきと、人びとへの感謝、これを変事とよばずなんとよぼう。いや、変事、変異でもたりない。奇跡にちかいなにか、なのである。
 もっとも物語はまだ幕を開けたばかり。ここまでは「序」で、つづいて「一章」がはじまり、秀次の死のほぼ一カ月前、側室になるため山形から都にのぼる駒姫(最上義光の娘)が、一五歳の瑞々しい姿で登場するのだが、わたしは、秀次の奇跡をまのあたりにしたとき、本作品が武内涼の新飛躍の実現であるのをはやくも確信した。そして確信はつよくなりこそすれ、よわくなることは最後までなかった。
『忍びの森』はもとより、『戦都の陰陽師』、『忍び道』、『妖草師』などのシリーズもの、また、『吉野太平記』、『秀吉を討て』などまで、武内涼がえがきつづけてきたのは主に忍者すなわち歴史の陰にひそむ者たちが、次つぎにくりだし歴史をゆさぶる極彩色の変事、変異であった。そんな変事が、ここでは、歴史を生きる者一人びとりの内面に、どこまでも尽きぬ生の豊饒さとして、奇跡のごとく降臨するのだ。
 八月二日に三条河原で、秀次の子どもたち、正室、側室らと処刑されるまで内的成長をやめない駒姫。同じく処刑され、『太閤記』に名前、歳、最上衆であるとだけ記された人物で、作者に駒姫の溌溂たる侍女としてえがかれた「おこちゃ」。秀吉の前で誰も異論を述べることのできぬ事態を嘆く義光。その軍師で駒姫助命に奔走する堀喜吽……。読者はぜひ、登場人物たちそれぞれの、逆境にあってこそかがやく豊饒な生の出現にたちあってほしい。こんな、一人びとりの生の豊饒だけが、人の歴史に希望を灯す。
 本作品で新飛躍は成った。武内涼には、さらなる新飛躍をもとめよう。伝奇ものと歴史ものを互いに高めあうことのできる、現在数少ない歴史時代小説作家として。

(たかはし・としお 文芸評論家・早稲田大学教授)
波 2017年2月号より

目次

一章 一、潮鳴り
   二、黒棚
   三、暇日
   四、聚楽へ
二章 一、指月城
   二、一の台
三章 一、隠れ家
   二、施薬院
   三、紅の花
   四、剣気
四章 一、巨椋池の女
   二、厩にて
   三、秋の鴨川
   四、専称寺

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