ホーム > 書籍詳細:宮沢賢治の真実―修羅を生きた詩人―

「春と修羅」「永訣の朝」「銀河鉄道の夜」
――数々の名作の奥底に潜む実人生の慟哭。

宮沢賢治の真実―修羅を生きた詩人―

今野勉/著

2,160円(税込)

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発売日:2017/02/28

読み仮名 ミヤザワケンジノシンジツシュラヲイキタシジン
装幀 小松健一/写真、新潮社装幀室/装幀
発行形態 書籍、電子書籍
判型 四六判変型
頁数 399ページ
ISBN 978-4-10-350681-2
C-CODE 0095
ジャンル ノンフィクション
定価 2,160円
電子書籍 価格 2,160円
電子書籍 配信開始日 2017/03/10

死の床にある最愛の妹。その胸中を知った時、詩人は修羅と化した。妹の人生を大きく狂わせた恋愛事件と、それに気を留めず同性に恋焦がれていた自分。己を「けだもの」と称した詩人の叫びが「永訣の朝」となり、遺作「銀河鉄道の夜」に絶望と希望の全てが注ぎ込まれた。比類なき調査と謎解きの連続で、従来の賢治像を一変させる圧巻の書。

著者プロフィール

今野勉 コンノ・ツトム

プロデューサー・ディレクター・演出家・脚本家・テレビマンユニオン最高顧問。1936年秋田県生まれ。1959年東北大学文学部卒業、ラジオ東京(現TBS)入社。1970年TBS退社、日本初の独立系テレビ番組制作会社「テレビマンユニオン」創設に参加。テレビ草創期から数多くのドラマやドキュメンタリーの制作に携わり、既成の枠を超えてテレビ表現を追求する。著書に『テレビの嘘を見破る』(新潮新書)、『金子みすゞふたたび』(小学館文庫)などがある。

書評

誰も見たことのない宮沢賢治を描く

首藤淳哉

 子どもの頃、ラジオパーソナリティーの軽快なトークに夢中になった。なにより憧れたのが、ゲストを気安く呼び捨てにするところだ。不思議なもので、それだけで親密度が増す。アイドルとまるで友だちのように語らうパーソナリティーを心底羨ましく思ったものである。もっともそれも演出の一環であったと後に知ることになるのだが。考えてみれば当たり前だ。アイドル全員と友だちのパーソナリティーなんているわけがない(いたらいますぐにでもラジオパーソナリティーに転職したい)。
 だが宮沢賢治の愛読者となると話は別である。誰もが親しみを込めて「賢治」と呼ぶ。それも「ケンジぃ~」と嬉しそうに手を振る眩しい青春ドラマみたいな友人関係とはちょっと違う。「賢治……」と愛おしそうにつぶやいてそっと手を握るような、そんな初々しさがどこかにあるのである。それはきっと、賢治の生き方や作品がぼくたちの魂の柔らかい部分に触れてくるからに違いない。
 だから賢治を愛する者は、誰もが「自分だけの賢治像」を大切に持っている。ぼくの場合は「超一流の教師」「歩く人」「大正の煩悶青年」の三つだ。
 今野勉氏はこれまで四人の宮沢賢治に出会ってきたという。「生命の伝道者」「農業を信じ、農業を愛し、農業に希望を託した人」「野宿の人」「子供のお絵描きのように詩を作る人」の四人である。同じ賢治ファンとしてとてもよくわかるし、氏の個性も感じられて面白い。「そうそう、賢治ってそういう人でもありますよね」と盛り上がれそうだ。だがある時、氏は思いがけず五人目の賢治と出会ってしまう。
 あるきっかけから賢治の全集を読み直していた氏は、これまであまり読んだことがなかった文語詩の中に奇妙な詩を発見する。「猥れて嘲笑あざめるはた寒き」で始まる四連の詩には、「猥」や「嘲笑」の他にも「凶」「秘呪」といった字句が使われ、ただならぬ気配を発していた。しかも意味もわからない。「猥れて」なんて読み方すら不明で、ただ不穏な雰囲気だけが伝わってくる。友人の隠れた一面を目にしてはっと身構えるような、そんな異様さを感じさせる詩だった。
 賢治関連の蔵書百数十冊を繰ってみても、この異様な詩を論じているものはなかった。ここで氏の心に火が灯る。これまで数々の傑作ドキュメンタリーを世に送り出してきた名ディレクターが、賢治が遺した異形の詩の解明へと動き始めるのだ。
 本書で読者は、凄腕のドキュメンタリストの調査を目の当たりにすることになる。その徹底した取材には圧倒されるはずだ。ある時は城跡を歩き回り、賢治がその場所に立った日の風速まで計算して、賢治が目にした光景を確かめようとする。またある時はタイタニック号の事故当時に刊行された雑誌をすべて入手し、賢治がいつこの事件を知ったかを解明しようとする。またひとつ、またひとつと謎が解明されていく。この過程がとてつもなくスリリングで、ページを繰る指が止まらない。
 読みながら「再現性」という言葉が浮かんだ。優れたドキュメンタリー作品と同じように、事実の欠片を辛抱強く集めることによって、氏は歴史の彼方に消え去ってしまっていた、あの日あの時の「現場」を、ぼくたちの目の前で再現してくれるのだ。
 異形の詩の背景には、最愛の妹とし子の恋があった。その恋はとし子に生涯消えない傷を負わせるものだった。とし子が亡くなった朝の、あの名篇「永訣の朝」の現場は、庭の松の木の下である。あなたはそこでみぞれにうたれ悄然と佇む賢治を目にするはずだ。
 とし子が何を抱えたままこの世を去ったかを明らかにした後、氏は「銀河鉄道の夜」の謎の解明に向かう。「銀河鉄道の夜」の執筆中、賢治は陸中海岸への旅に出る。この時、大正十四年の一月五日から六日にかけて、夜通し海岸線を歩きながら賢治が見た光景が「銀河鉄道の夜」のある謎に関係するのだが、驚くことに氏は、この日の天空の星の配置も再現してみせる。賢治とともに海岸線を歩きながら、あなたが目にすることになる夜空は、息をのむほどに美しいはずだ。
 秘められた真実が明らかにされた時、そこには誰も見たことがない賢治が姿を現す。まさかこんな新しい宮沢賢治と出会えるなんて思ってもみなかった。最愛の者の死、喪失の悲しみ、そして孤独。それらと賢治はどう対峙したのか。多くの命が理不尽に奪われる時代だからこそ、広く読まれてほしい一冊だ。

(しゅとう・じゅんや 文化放送プロデューサー)
波 2017年3月号より

目次

はじめに 「五人目の賢治」を探して
第一章 謎の文語詩
第二章 「妹の恋」という事件
第三章 そのとき賢治も恋をしていた
第四章 「春と修羅」完全解読
第五章 ついに「マサニエロ」へ
第六章 妹とし子の真実と「永訣の朝」
第七章 「銀河鉄道の夜」と怪物ケンタウルス
終章 宮沢賢治の真実
註/主な参考文献

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