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何歳でも人生は面白い!
平均年齢76歳のメンバーの繰り広げる痛快青春小説。

Team383

中澤日菜子/著

1,728円(税込)

本の仕様

発売日:2018/04/26

読み仮名 チームサンパチサン
装幀 中島陽子/装画、新潮社装幀室/装幀
雑誌から生まれた本 小説新潮から生まれた本
発行形態 書籍
判型 四六判
頁数 262ページ
ISBN 978-4-10-351741-2
C-CODE 0093
ジャンル 文芸作品
定価 1,728円

人生には3つの坂がある。数々の上り坂、下り坂を乗り越えて来た葉介に訪れた、人生最大のまさか! 75歳になってもう一度青春時代が来るなんて……。運転免許を返納して落ち込む葉介に舞い込んだのは、自転車レースへの誘いだった。何歳でも人は新しい世界を切り拓くことができる。温かく心に沁みる人間賛歌。

著者プロフィール

中澤日菜子 ナカザワ・ヒナコ

1969年、東京都生まれ。慶應大学在学中に不等辺さんかく劇団を旗揚げ。脚本、演出を担当する。2013年、『柿の木、枇杷も木』で第8回小説現代長編新人賞を受賞。同作は『お父さんと伊藤さん』と改題し、刊行される。温かくテンポの良い文体で、ありふれた日常に訪れる奇跡のような人の絆と感動の物語を紡ぎ出す。他の著書に『おまめごとの島』『星球』『PTA グランパ!』『ニュータウンクロニクル』がある。

書評

光のどけき老いの日々

川本三郎

 40代の作家が70代の老人たちを主人公に、これほど泣かせる小説を書き上げるとはうれしい驚きである。デビュー作『お父さんと伊藤さん』で74歳の「お父さん」を娘の目を通して魅力的に描いた作者ならでは。
 70代の5人の男女が登場する。加えてそれぞれの伴侶や友人たち。読み進むうちに、彼らが、ゆるやかなもうひとつの家族を作り出してゆく。
 後期高齢者になると、車の運転に危険が伴うからと、車の免許証を返納することになる。世の中からいよいよ余計者扱いされてゆく。そこで落込んではいけないと、彼らは車のかわりに自転車に乗る。5人でひとつのチームを作って富士スピードウェイで開かれる耐久レースに出場することになる。チーム名は、全員の年齢を足して「Team383」。
 中澤日菜子のいいところは、いつも登場人物の仕事をきちんと書き込むこと。人の生は仕事との関わりでこそ形を持ってくる。
 小田山葉介(75)は個人タクシーの運転手だった。坂内菊雄(77)は家族でコンビニを営んでいる。石塚紅子(78)はいわゆる町中華のオーナー。鈴木比呂海(75)は大学の先生だった。中原玄(78)は最後まで何をしているか分からない謎めいた硬漢だが、実は、殺陣師だったと分かる。
 職業も、辿ってきた人生も違う5人が、自転車チームを作ることで、御近所内共同体を作り上げてゆく。
 とはいえ、ことはそう簡単には進まない。紆余曲折がある。それぞれが70代ならではの生活の重みを抱え込んでいる。5章から成る。各章で、5人の一人一人のいまの暮しが描かれてゆく。
 読み始めた時は、5人の老人たちが「まだ若い」とがんばる、よくある元気な老人の物語かと思っていたが、徐々に日がかげるように、それぞれが背負っている重荷が平穏な日々をおおってくる。
 第2章では、コンビニを営む菊雄の妻が乳癌になる。癌は細胞の老化現象であり、年を取れば避けられない。菊雄の妻は大人しい女性で、これまで強く自分の意見を言うことはなかった。それが、手術の前に、はじめて、やっておきたい夢を夫に語る。なんと結婚式! 自分たちは結婚する時、親族の死という不幸が重なったために、結婚式が出来なかった。だからいま、ドレスを着て結婚式をしたい。
 この小説の70代というのは、だいたい終戦の時に小学生だった世代。そして戦後の貧しい時代に育った。だから贅沢に慣れていない。それだけに菊雄の妻が、手術の前に、ずっと我慢してきた結婚式をしたいという夢を語るのは切なく、ほろりとさせる。
 大学教授だった比呂海の妻が認知症になってしまう第3章は悲しい。連れ合いのどちらかが認知症になる。夫婦に訪れるつらい試練だろう。比呂海が、他人に迷惑をかけまいと息子にも言わず、1人で妻を介護し続ける姿は他人事とは思えず胸が痛んだ。中澤日菜子は、老人たちの自転車レースという明るい物語の背景に、きちんと老いの厳しい現実をとらえている。
 出色なのは第4章。
 紅子の高校時代の同級生、マサ子は2年前に長年連れ添った夫を亡くした。夫はさまざまな下積みの仕事をし、暮しは楽ではなかったが、仲のいい夫婦だった。
 それだけに夫に死なれ、マサ子は気力を失って、家にひきこもった。心配した紅子が家に行ってみるとゴミだらけ。これは大変だと、世話焼きの紅子はゴミ片づけを始める。親切心からなのだが、ある時、マサ子は紅子に、もう家に来ないでと言う。他人にはゴミに見えるかもしれないが、マサ子にとっては、夫との大切な思い出の品なのだから。
 老いは過去の記憶と共にある。深い思い出を持つことで老いは豊かになり、そして、現在を生きる力を得てゆく。
 5人が集まるのはいつも紅子の店「紅花亭」。老人たちのユートピアに見えてくる。『お父さんと伊藤さん』のお父さんも、この店に呼びたくなる。

(かわもと・さぶろう 評論家)
波 2018年5月号より
単行本刊行時掲載

目次

第1章 Team383
第2章 438289時間
第3章 2分50秒
第4章 51年
第5章 無限

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