ホーム > 書籍詳細:うかれ女島

秘密と欲望と一瞬の愛。とまどいながら、傷つきながら、あの島で、女たちは強くなった――。

うかれ女島

花房観音/著

1,944円(税込)

本の仕様

発売日:2018/05/22

読み仮名 ウカレメジマ
装幀 カラヴァッジョ「法悦のマグダラのマリア」/装画、akg-images/装画提供、アフロ/装画提供、広瀬達郎(新潮社写真部)/写真、新潮社装幀室/装幀
発行形態 書籍
判型 四六判変型
頁数 266ページ
ISBN 978-4-10-351821-1
C-CODE 0093
ジャンル 文芸作品
定価 1,944円

届けられた死者のメモ。主婦、保育所のオーナー、一流企業のOL、女優。共通点はひとつ。「売春島」で体を売っていたことだけ。あの日の記憶が蘇り、恐怖に包まれる。ばれるかもしれない。娼婦だった母への憎悪で、胸が張り裂けそうな男もまた――。心と体を痛みが貫き、やがて快感へと変わる、戦慄の体験があなたを待っている!

著者プロフィール

花房観音 ハナブサ・カンノン

兵庫県生れ。京都市在住。京都女子大学文学部中退後、映画会社や旅行会社などの勤務を経て、2010年に「花祀り」で第1回団鬼六賞大賞を受賞しデビュー。『くちびる遊び』『花びらめくり』『恋塚』『半乳捕物帳』『鬼の家』『色仏』『わたつみ』『楽園』といった小説、新書の『愛欲と情念の京都案内』など多数の著作がある。

書評

性に搦め捕られた女達と、「普通の男」の物語

吉田大助

 第一回団鬼六賞を受賞してデビュー以来、女の「性と生」を描き続けてきた花房観音の小説を読んでいるといつも、官能とは感応である、というシンプルな真実に思い至る。
 身体的距離がゼロになる、セックスという行為から受け取った相手の情報から、心が鋭く感応し、目の前の相手に抱いていたイメージが作り替えられる。その一歩手前には、この人とセックスがしたい、してもいいと判断する瞬間が訪れている。相手をより深く知りたい、近付きたい、という思いは、性的な官能であると同時に、まぎれもなく心理的な感応だ。
 花房観音はこの官能=感応を駆使して、遠く離れた人と人とを結びつけ、その出会いの軌跡を物語に仕立て上げてきた。しかし、この官能=感応は、主に出会いの場面で機能する。出会いの「その後」を記述し、物語として大きなうねりを作り出すためには、新たな稼働装置を導入する必要があった。物語の舞台となる場所の力。張り巡らされた過去の因縁。実在する、誰もが知る女性性のアイコン……。これまででもっとも性描写の割合が少ない最新作『うかれ女島』は、さまざまな物語稼働装置を駆使して、過去最高の激しいうねりを生み出すことに成功している。端的に言えば、この一作で、化けた。
 全七章の物語は、大きく二部構成が敷かれている。「第一章 伊勢田大和(三十二歳)」から「第五章 桐口瞳子(三十五歳)」までは、章ごとに語り手が変わるオムニバスだ。全ての始まりは、高円寺で一人暮らしをしている実直な会社員の大和が、三ヶ月前に亡くなった母がメモに残した、遺言代わりの願い事を叶えようとしたこと。「死ぬまでに、この四人の女たちに会いたい。会わないと、死に切れない」。それが無理ならば、「この女たちに私が死んだことを伝えて欲しい」。四人の女に宛てて、大和は母の死を手紙にしたためる。その手紙が、四人の女達の人生にさざなみを立てていく。
 仕事の時は「真理亜」と名乗っていた大和の母は、「うかれ女島」と呼ばれる、売春宿のある孤島で女衒をやっていた。四人の女達はかつて、その島にいたのだ。保育所のオーナー、主婦、女優、一流企業のOL。時を経てまったく異なる人生を歩んでいる彼女達にとって、島にいた頃の経験と記憶は、その後の人生に何をもたらしたのか。大和の手紙をきっかけに過去と向き合うことで、四人は自らの「性と生」を見つめ直すこととなる。一人一人のエピソードを紹介する文字数の余裕はないが、四人は現実に息をし、彼女達の実体験の告白を記録したのでは、としか思えない実在感が漲っている。
 おそらく、これまでの花房観音であれば、五章までで筆を止めていただろう。本作では、五章までの記述は物語の前半、前フリに過ぎない。総ページ数の半分以上を占める「第六章、第七章、終章」からが、新境地だ。ここでも、母のために動いた、大和の行動が軸になる。実は、冒頭で著者を「女の『性と生』」の書き手だと紹介したが、本作で著者がもっとも心を砕いてキャラクター造形を企てている人物は、大和だ。ある女は彼をこう評価する。〈売春なんてとんでもない、売春婦なんて自分とは縁のない世界の堕落した人間だと思っている、普通の男〉。〈「男」や「世間」に雁字搦めになり、その価値観に縛られ苦しんでいる(中略)だからこそ、娼婦を貶め、自分自身が傷ついている〉。
 彼には年下の美しい恋人がいる。だが、母が娼婦であった負い目から、結婚には二の足を踏んでいる。母とは12歳の頃から離ればなれに暮らしており、断絶の強い言葉を口にしたのは彼の側であったにもかかわらず、母の存在に執着している……。新規に導入されたさまざまな物語稼働装置を駆使して、その状態からの大和の変化を、著者は記述しようと試みる。そこで話は終わらない。意外なかたちで人と人とが繋がり、運命のドミノ倒しが起こる、ミステリー的な快感が二重三重に張り巡らされている。不意打ちのように真相が明かされる第七章のラストは、正真正銘、度肝を抜かれた。
 処女懐胎のマリアではなく、娼婦のマリア――「マグダラのマリア」――をメタファーに採用した演出も利いている。官能=感応表現はそのままに、骨太な「物語作家」へと大きな飛躍を遂げた、花房観音の第2のデビュー作だ。

(よしだ・だいすけ ライター)
波 2018年6月号より
単行本刊行時掲載

目次

序章 島の女
第一章 伊勢田大和(三十二歲)
第二章 鳥井忍(四十三歲)
第三章 樫谷貴子(三十八歲)
第四章 愛野麻矢(四十二歲)
第五章 桐口瞳子(三十五歲)
第六章 壳春島
第七章 東京
終章 うかれ女島

イベント/書店情報

感想を送る

新刊お知らせメール

花房観音
登録する
文芸作品
登録する

書籍の分類

同じジャンルの本

うかれ女島

全国の書店、または以下のネット書店よりご購入ください。

※ 書店によっては、在庫の無い場合や取扱いの無い場合があります。あらかじめご了承ください。
※詳しい購入方法は、各ネット書店のサイトにてご確認ください。

  • amazon
  • 楽天ブックス
  • 7net
  • e-hon
  • HonyaClub
  • TSUTAYA ONLINE
  • 紀伊國屋書店
  • エルパカBOOKS - HMV
  • honto