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一番近くにいたはずの人が、一番わからない――。

生きるとか死ぬとか父親とか

ジェーン・スー/著

1,512円(税込)

本の仕様

発売日:2018/05/18

読み仮名 イキルトカシヌトカチチオヤトカ
装幀 きくちまる子/装画・題字、新潮社装幀室/装幀
雑誌から生まれた本 から生まれた本
発行形態 書籍
判型 四六判
頁数 239ページ
ISBN 978-4-10-351911-9
C-CODE 0095
ジャンル エッセー・随筆
定価 1,512円

20年前に母が他界、気づけば父80歳、私は40代半ば。いまだに家族は増えていない。会えばギクシャク、一時は絶縁寸前までいった父と娘だけれども、いま父の人生を聞いておかなかれば、一生後悔する――。戦時中に生まれ、戦後社会に出て必死で働いた父。母との出会い、他の女性の影、全財産の喪失……。父の人生と心情に迫る、普通にして特別な家族の物語。

著者プロフィール

ジェーン・スー ジェーン・スー

1973年、東京生まれの日本人。作詞家、コラムニスト、ラジオパーソナリティ。2018年5月現在、TBSラジオ「ジェーン・スー 生活は踊る」のMCを務める。『貴様いつまで女子でいるつもりだ問題』(幻冬舎文庫)で第31回講談社エッセイ賞を受賞。著書に『私たちがプロポーズされないのには、101の理由があってだな』(ポプラ文庫)、『女の甲冑、着たり脱いだり毎日が戦なり。』(文藝春秋)、『今夜もカネで解決だ』(朝日新聞出版)など。コミック原作に『未中年〜四十路から先、思い描いたことがなかったもので。〜』(漫画:ナナトエリ、バンチコミックス)がある。

目次

この男、肉親につき。
男の愛嬌
結核男とダビデの星
サバランとミルフィーユ
ファミリー・ツリー
不都合な遺伝子
戦中派の終点とブラスバンド
七月の焼茄子
それぞれの銀座
ミニ・トランプ
東京生まれの東京知らず
H氏のこと
二人にしかわからないこと
商売は難しい
ステーキとパナマ帽
騙すとか騙されるとか
ここにはいない人
ふたたびの沼津
真っ赤なマニキュア
予兆
はんぶんのおんどり
小石川の家 I
小石川の家 II
いいニュースと悪いニュース
似て非なる似た者同士
父からの申し次ぎ

インタビュー/対談/エッセイ

いつも親子は“真剣勝負”

ジェーン・スーしまおまほ

父と、20年前に他界した母のことを書いたジェーン・スーさんと、『 マイ・リトル・世田谷』などで家族のことを綴ったしまおまほさんが、腹を割って親と子の関係について語ります。

「ひとり娘」の苦悩

スー しまおさんと私の共通点は、ひとりっ子であることですね。うちの両親は放任主義でしたが、それでも常に4つの目で監視されていた記憶があります。ひとりっ子って、どうしても親子の密度が濃くなりませんか?
しまお そうですね。しかも、うちは両親とも私と近い仕事をしているので、その内容が全部見透かされちゃう。
スー それはやりにくいですね。原稿の感想とかを直接言ってくるんですか?
しまお ズバッと言う時もあるけど、大体態度でわかるから、いつも親の顔色を窺ってしまうところがあって……。
スー 色々と察してしまうんですね。
しまお もうガッチガチに察する娘です。
スー 何となくしまおさんは、自由に仕事して生きているというイメージがありましたが、そうではないと。
しまお はい。察しまくって、怯えまくっていました。母にある仕事を「若い女の子の手慰みみたい」と評されたこともあります。かなり辛辣な読者(笑)
スー ひえー。うちは、私の仕事については無関心極まりないので、楽と言えば楽だし、寂しいと言えば寂しい。
しまお おそらく、作家として、個人として「こうあって欲しい」という母の気持ちを察し、無意識のうちに追ってしまっている。
スー その理想を裏切って、親をがっかりさせたくないという気持ちが、しまおさんの中にあるんでしょうね。その意味でも、特にひとりっ子は早く家を出た方がいいのかも。我が家は、私が社会人になって間もなく母が亡くなっちゃったから、家を出たくても出られなくて。ようやく20代後半でひとり暮らしを始めました。
しまお 私はつい最近。今3歳になる子供が産まれてからようやく。
スー 初めて実家を離れてみて、どうでしたか?
しまお 快適です(笑)。自分の考えで行動できるということが、こんなにもすばらしいことなのかと。
スー 私は男性と同棲するため、というのが家を出るきっかけでした。
しまお 彼氏を親に紹介したことはありますか?
スー 何度かあります。父は、誰が好きで誰がダメだったかということをあけっぴろげに言うタイプでした。
しまお その反応を気にされました?
スー 「わかる」って感じかな。好き/嫌いの理由にいちいち納得しちゃう。
しまお 私も最初のボーイフレンドを両親に紹介したことがあって、その人に対する親の可もなく不可もなくというか、「まあ、この人と結婚するわけじゃないし」という空気を敏感に感じたことをよく覚えています。
スー そこまでわかっちゃうんだ……。
しまお それはわたしにもわかってはいたけれど、態度に出すなよって思っていましたね。容赦なく核心を突かれるから。
スー なるほど。それは辛い。
しまお 子供が産まれてからもしばらく悩んでいましたね。
スー 逆に、しまおさんの中に「理想の両親像」みたいなのはありますか?
しまお うーん、干渉しないことかな。でも、本人たちは干渉しているとは思っていない。むしろ私が過剰に察しているのかもしれません。スーさんのお父さんみたいに、娘の仕事に興味がない、という方がうらやましい。
スー うちは父が家庭という場所から早々に逸脱して、自分の人生を生きるタイプだったので、そもそも私自身が親への忠誠心が少なくて済みました。
 それに母が早く亡くなったことによって、一度家族という形が崩壊してしまったので。もし母が今も生きていたとしたら、私もしまおさんのように「どうやったら母をガッカリさせずに済むか」とかばかり考えていたかもしれません。それに比べて、父親の「干渉ポイント」ってそもそも“筋悪”だから、そんなに響かない。もしかしたら娘というのは、比較的早いタイミングで父の精神年齢を追い越すのかもしれません。
しまお わかります。私もそれまでは全く父に刃向えなかったのに、高校生になって急に対決姿勢をとれた瞬間があったのをよく覚えています。
スー 私も母がまだ生きていたら、その関係性も違っていたんだろうなあ。
しまお スーさんのお母さんはどんな方だったのですか?
スー もともと映画雑誌の編集をしていたのですが、父と結婚してからは基本的に専業主婦をしていました。娘の私が言うのもあれですが、ユーモアがあって頭の回転も速くて美人。
しまお 新刊を読んでいると、スーさんみたいな人だったのかなと想像しました。
スー 私よりセンスも容姿もよかったと思うし、理想の私に近かったかもしれない。特に服のセンスは及ぶべくもない。
しまお 私の母も服のセンスがいいんですよ。決定的に負けている感じがします。
スー 親の服のセンスを継承できなかったのは、凄いコンプレックスです。
しまお 私も。「この服は私の方が似合う」とか「この色はあなたに似合わない」とかズケズケと。
スー 私もよく子供の頃に「あなたは紺が一番似合う」って。またそれがいちいち芯を食っているんですよね。当時の写真を見ると、親に反抗して着た紺色以外の服がことごとく似合っていない。
しまお 親に悪気がないのもわかるけど。
スー そうそう。的外れだったらいいけど、芯を食っているから余計に辛い。
しまお つい最近も母と言い争いになったんです。家族で食事に行った時、両親が好きなだけ頼んで、それを平然と残したんです。しかも夕食が7時からなのに、「お腹が空いた」と3時頃にランチを食べて。それで夕食を残すのが許せなくて、私が「もったいないじゃん!」と怒ったんです。そうしたら母に反撃されて……。
スー 珍しく反論したのに。
しまお 「そんなこと言うけど、あなたはいつも部屋を散らかしたままで、服も大事にしていない。私にしたらそっちの方が許せない。服がかわいそう!」と。それでぐうの音も出なくなって。
スー 私だったら、もう1ラリーあるな。
しまお えっ、何て言い返せばよかったんだろう。教えてほしい。
スー 「じゃあ、今私が嫌な気持ちは凄いわかるよね」って。
しまお ああ、頭いい! 今それ言い返したい(笑)
スー そのラリーがあって、最後は「お互い気をつけましょうね」と。これを私はいつも父としています(笑)
しまお さすが。でも、スーさんが自分の子供だったら、大変だろうなあ(笑)
スー 私も最初からできていたわけではなくて。むしろ、ある時期までは、親に怒られることを過剰に警戒する子でした。「ひとりっ子だからといって甘やかしてはいけない」という親の気負いもわかっていたから、無意識に「小さい嘘」をつく癖があって。それを大人になってから指摘されて、ようやく気づきました。
しまお よくわかります。でも、スーさんもそうだったというのは意外。例えばそれはどんな嘘ですか?
スー 「これ食べたの?」と聞かれて、食べたのに「食べてない」と答えるとか。「犬の散歩に行った?」と聞かれて、「ううん、今日は犬が行きたがらなかった」とか、どうでもいい小さな嘘です。「ちゃんとした私」みたいなところから外れることについて、つるつると嘘をついてごまかす癖があることを、この年になって気づかされたんです。
しまお それもひとりっ子特有のものなのかな。親の寵愛と監視に過剰適応してしまうというか。だから私、自分の子供には、なるべく何も言わないようにしています。できるだけ命令しない。
スー 母と同じようなことを自分の子供にも言ってしまったと、後悔する時もあるんですか。
しまお あまりベタベタしないところとかは、母と似ているかもしれません。小学校3年生の時に、母に手を振り払われたのをよく覚えていて。
スー ええー。うちも母はそんなにベタベタするのが好きじゃなかったけど、父と私が母にベタベタしていましたね。
しまお 本当にお2人ともお母さんのことが好きだったんですね。

「奇跡の三点倒立」

スー 縁起でもない話だし、あくまで仮定のものですが、しまおさんがお父さんとお母さんのどちらかと一緒に残されるとしたら、どっちがいいですか?
しまお うーん、父と残る方が精神的には楽。バイオリズムが似ているから。特に子供を産んでから、母とはやっぱりお互い女同士なんだなと思うことが多くて。
スー それはちょっとうらやましいですけどね。私は母の母としての顔しか見てこなかったし、母が女として私に嫉妬したり、意地悪してきたりはなかったから。母は、母親が子供に対してやってはいけない、ということを一切しなかったんです。それをありがたいと思う反面、息苦しかっただろうなと今は思います。
しまお そうかあ。でも、父と残されると、世話の塩梅が大変かも。
スー 望まずにその状態になったけど、結構えぐかったですよ。この人、こんなダメだったのか、ということがわかって。
しまお 父は、今も私がご飯を作るのを嫌がるんです。
スー それは照れなんですかね。
しまお 照れだと思います。自分のために尽くす娘を見たくない、という空気も感じます。その点では母と2人の方が日常生活は円滑に進みそう。
スー 特にひとりっ子の家族というのは、「奇跡の三点倒立」と言えるような、絶妙なバランスで成り立っていますよね。それが一点だけでも欠けてしまうと、面だったものが線になって、パタンと倒れてしまう。
しまお まさにその時の経験を、この本に書かれていましたね。
スー はい。しまおさんは、親の愛情をどういうところで感じていましたか?
しまお うーん、物を全部残してくれているところかな。子供の頃から、「これは後で何かの役に立つから」と漏れなく残しているんです。
スー それはうらやましい! この本でも書きましたけど、うちは母が亡くなった後に実家を手放さざるを得ない状態になって、その時にあらかた物品を整理しちゃったんです。以来、どこか流浪の民というか、聖地を無くしたような感覚があって。けれど、しまおさんの場合、それは本当にご両親の愛情の表れですね。
しまお はい。それには感謝しています。だから、両親と自分が近い職業に就いているというのは、やりにくい部分もあるけど、理解があるから助かっている部分もあります。
スー その感じは想像がつかないな。うらやましいです。うちの父は頭のてっぺんからつま先まで商売人だったから。面白いのは、父を見ていれば業績の良し悪しがすぐわかること。それが、乗っている車のランクでわかっちゃう。
しまお うちは車もずっと無かったし、ずっと「貧乏だ、貧乏だ」と言っていました。ある時、父が口座の残高が書かれた紙を家に貼ったのですが、残高が数百円でした(笑)
スー それは穏やかじゃない(笑)
しまお 金銭感覚に疎いというか、頓着していないんですよ。
スー そこもうちと真逆。とにかく父は、ある時期まで家庭を顧みず、フル回転で働いて、自分の存在根拠も仕事にのみあるような人でしたから。それまで自分が父に似ているところなんか一つもないと思っていたのに、仕事、仕事というところがそっくりということに、私が社会人になってから気づきました。
しまお スーさんも働き者だから。
スー 母が亡くなって、父が全財産を失ったところをリアルタイム中継で見ていたから、稼いでも稼いでも不安なんです。そういうところが似ちゃったというか、親の影響を確実に受けていますね。
しまお 私も金銭感覚は親の影響を受けていますね。あればあるだけ使っちゃうし、なければないで使わなきゃいいというか。まあ、それも母の実家に家族が住むことができて、ちゃんと家があったというのが大きいと思います。
スー そこが面白いですよね。とにかく「金を稼がなきゃ!」という私と父のような人間が家を無くし、「お金に執着していない」という島尾家は都内にちゃんと家がある。なんというアイロニーでしょうか(笑)

不思議な生き物。それが親

しまお スーさんは、今になって両親に「こうしてほしかった」というのはありますか?
スー もちろんあります。週末遊びに連れて行ってくれたり、夏休みの自由研究を手伝ってくれたり、いわゆる典型的な「マイホームパパ」だったら、子供時代は誇らしかっただろうなとは思います。でも、そうじゃなかったからこそ、この本が書けたわけだから、結果オーライかも。しまおさんの「理想の父親像」は?
しまお うーん、あまりないんですよ。いわゆる「家族サービス」なんてことは一切なかったけれど、私も遊園地とか好きじゃないから、連れて行かれたらむしろ困る。家族でディズニーランドに行ったのも一度だけ。それも、浦安ではなく浦和に行っちゃった(笑)
スー 最高の初歩的ミス!
しまお 浦和の駅に降りるまで、誰も気づかなかったんです。
スー 今じゃあり得ない(笑)
しまお 何度も言うように、とにかく「察する娘」だったので、思春期特有の反抗期もあまりなく……。
スー ケンカしたり、ぶつかることもなかったんですか?
しまお はい。むしろ最近というか出産した直後が反抗期でした。子育てについて揉めたり、自分の生活全般にまつわる矛盾みたいなものを親が突いてきて。
スー 自分が大人になってから、その部分を突かれるときついですね。
しまお 父には「矛盾のない気持ちで過ごせ」と言われたことがあって。
スー それは厳しい。まだ世間体を説いてくれた方が楽ですね。「矛盾のない気持ち」というのは、つまり「あなたの本当の気持ちはなんだ」ということでしょう。それは逃げ道がない。
しまお そうなんです。何か自分の気持ちを全部見抜かれた上で言われて……。でも、そこでぶつかったからこそ、親元を離れる決意が固まったし、自立できたので、結果オーライです。
スー 私もそうですが、それまで親の顔色を窺いながら育ってきた人間が、突然「自分のことだけを考えて、自分の幸せを追求しなさい」と言われるのはきついですよね。
しまお 本当に。これまで親の価値観を最優先にして生きてきたのに、突然梯子を外されたというか、突き放された気分。
スー 「親を乗り越える」前に、向こうから離れて行っちゃって、「あーあ」と途方に暮れるみたいな。
しまお 結局、親を喜ばせるには、自分が幸せにならなきゃいけないという当たり前のことに気づいたと同時に、それがまた新たなプレッシャーになりました。
スー なるほど。よくわかります。
しまお それまで私の中に溜まりに溜まっていたものがあったんだと思います。もっと早く親元を離れていればと、いまだに思いますね。
スー 離れた方が、親のことを大事に思えるんですよね。なのに近づいた途端、よろしくない感情が芽生えるという不思議な生き物。それが親。
しまお そうそう。その距離感が難しい。
スー 私も、父親に対して親孝行しているかというとそうではないと思うし、こうして父のことを本にして、プライベートを切り売りしている。これまであんなにひどいことをされてきたんだから、それも仕方ないだろうと思う反面、完全には切り捨てることができない自分がいる。別にここまで面倒見なくてもいいだろうと思っていても、やっぱり見ちゃう自分がいて、親子って難儀だなあと思います。
しまお しかも、親が言うことって、娘の私にもわかるじゃないですか。それが厄介なんですよ。
スー そうそう。だって、それまで毎日同じ“教典”を読んで生活してきたわけだから、結論がどうなるか、お互いわかっているのは当然で。だからこそ、たまに親が抜いてくる刀の切れ味が強烈。
しまお またその刀を抜くタイミングが絶妙で。父がよく言うのは、母の先祖がお侍さんだったらしく、だから母は「いつも刀を差している」と(笑)
スー 銃刀法違反で捕まえてくれ(笑)
しまお あっちはいつも臨戦態勢だから、こっちはいつも不意打ちされる。
スー いつでも親と子は真剣勝負なんですよね。お子さんが産まれてから、ご両親との関係性は変わりましたか?
しまお 子供が産まれれば親が喜ぶと、変な暗示にかかっていましたが、全然そんなことなかったんです。孫より「まほの方がかわいかった」とか言うし。
スー それはいいこと聞いた。気が楽になりました。私も父に「結婚は別にいいけど、子供だけは産んでおけ」と言われたことがあって。しまおさんの話だと、産んだらオールOKではなかったと。
しまお 出産前、仕事で行った沖縄で占い師に見てもらったんです。占いなんて行くタイプじゃないのですが、色々ブレている時期で。そこで、「親は自分の子供が一番かわいいんだから、自分が幸せになることをまず考えなさい」と。そのときはよくわからなかったけど、今は痛いほどよくわかりますね。だからこれからのわたしのテーマは「自立と自分自身の幸せ」です。
スー 本当にそうですねえ。私もしまおさんも、それまでは「理想の子供」というタイトルの台本を必死で覚えていたところがあったけど、これからはアドリブでお芝居しないといけない。
しまお スーさんは、これからお父さんとどう付き合っていきたいですか?
スー 金の苦労だけはさせないようにしたいですね。うちの父は、お金がないと輝けない人なので。あとはパーソナルトレーナーを付ける。とにかく足腰が立たなくなると、活力が極端に失われるので、お互いのためにも。
しまお それはナイスアイデア。結局、親は親で自分の人生を、自分の幸福を追求しているわけだから。
スー そうそう。だったら、こっちもそうさせていただきます、というのが、親と上手くやる秘訣ではないでしょうか。

(しまお・まほ エッセイスト)
(ジェーン・スー コラムニスト)
波 2018年6月号より
単行本刊行時掲載

イベント/書店情報

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まとめテーマでくくる 本選びのヒント

著者インタビュー動画

20年前に母を亡くし、気づけば父は80歳、娘は40代半ば。いまだに家族は増えていない。一時は絶縁寸前までいったけど、父と娘をやり直すのは、これが最後のチャンスかもしれない――。父への愛憎と家族の裏表を赤裸々に描く、普遍にして特別な物語。

スペシャル動画ショートバージョン

「お父さんの生年月日を教えてください」「娘さんの親友の名前を教えてください」――。80歳になる父と20年前に他界した母のことを綴った、ジェーン・スー『生きるとか死ぬとか父親とか』(新潮社、5月18日発売)刊行記念動画。当然、知っているはずの父のこと、娘のことを尋ねてみましたが、その結果は意外なものに……。

スペシャル動画ロングバージョン

父と娘。いちばん気になるのは、お互いのことをどう思っているのか?――ということ。父への愛憎を娘のジェーン・スーが赤裸々につづった新刊『生きるとか死ぬとか父親とか』(新潮社)。その刊行に合わせて、普段は気恥ずかしくてなかなか話すこともない、「父のこと・娘のこと」をいろいろな方々にインタビューしました。

家族にだって、秘密はある――。「これまでずっと黙ってたけど」「絶対言わない。墓場まで持っていく」など、そのリアクションは十人十色。家族の秘密を赤裸々に綴った、ジェーン・スー『生きるとか死ぬとか父親とか』(新潮社)刊行を記念して、父や娘にそれぞれの秘密について、尋ねてみました。

父とか娘とか相談とか la kagu編

*2018年5月18日神楽坂「la kagu」で行ったトークショーの採録です。参加者のみなさまから、父や娘や家族についてのお悩みや相談を事前に募集。それをジェーン・スーさんが選び、イベントで回答したものです。

お悩み1

ふとした瞬間に孤独感に苛まれます

 スーさん、はじめまして。31歳・独身女性の「揚子江」と申します。“相談は踊る”がレギュラーだった頃からラジオを拝聴しています。今回、トークイベントとのことで勇気を出して相談をお送りさせていただきました。
 私は6年前に立て続けに病気で両親を亡くしました。ひとりっ子で兄弟もいないので、疎遠気味の親戚以外、直近の親族がいません。両親が他界したときは廃人になるレベルまで落ち込みましたが、幸い友人の助けもあって現在では平穏な日々を過ごしています。自分がしっかりしなければと思い、勤めの仕事にプラスして自営業も始めました。おかげさまでその自営業はだいぶ軌道に乗っています。多趣味なこともあり、様々なバックグラウンドの友人もたくさんいます。ただ、将来のことを考えるととても不安です。すぐに結婚する予定もないし、このまま一生シングルでいたらどうしよう……と悩みます。ふとした瞬間に絶望的な孤独感に苛まれます。
 文字通りの“シングル”の私が、この孤独な人生をサヴァイヴして行くための“エール”をいただけたら嬉しいです。

(31歳・女性)

回答

 早くに妻を亡くした父親を見てきた経験もあり、「パートナーがいる」ということが、必ずしも未来永劫の保証になるとは限らないと思っています。ある時期までパートナーがいたとしても、最終的にはひとりになるかもしれないし、パートナーが病気になってしまったり、介護が必要な状況になったりする可能性もあるわけです。
 相談者の方に言いたいのは、「パートナーがいる」というのは支えでもありますが、同時にリスクでもある、ということ。本当に表裏一体だと思うんですね。
 私の場合、両親が同時に倒れるという、誰も予想できなかったことが起きました。私が20代前半の時に、がんで母が入院したのですが、同時に父も病気になって入院。幸い父は回復しましたが、その時は商売を頑張れるわけもなく、金銭的に余裕のある状態ではありませんでした。それにもかかわらず、父は母の治療のために高額な薬を購入して飲ませたり、免疫療法を試したりして、どんどん我が家からお金がなくなりました。
「何とかして母を助けたい」という父の気持ちは痛いほどわかりましたが、結果的に父と母の両方が同時に病を患ったことが、父が商売でもうひとふんばりできなかった理由にもなりました。母が元気なままだったら……と、今でも悔しく思っています。
 パートナーがいるからといって、決してお互いにとって大きな支えになるばかりじゃない。当然リスクだって生じる。ただ、それまで歩んできた二人の人生という蓄積があるから、そのリスクも背負えるのだと思います。
 突然お父さんが失踪したり、兄弟が争い始めたりする人もいます。人間関係というのは、1人より2人、2人より3人……と、多ければ多いほどいい、ということではありません。
 相談は、「シングルの寂しさをどうしよう?」ということでしたが、自分できちんと準備をしておけば、ある程度リスクを管理できると思います。なので、「シングル=寂しい」ということではなく、どの状況であっても、リスクと寂しさが伴う。「シングルだけが、格段にリスクが上がるわけではない」。このことをまずは認識してみてはいかがでしょうか。

父とか娘とか相談とか

お悩み1】【お悩み2】【お悩み3】【お悩み4

お悩み4

娘が恋人を連れてきます

社会人三年目、25歳の娘がおります。働き始めてからは自活して一人暮らし、
仕事も楽しく元気にやっているようで、同じ都内にある我が家には、ごくたまに顔を出す程度です。
そんな娘から先日久しぶりに連絡がありました。「会ってほしい人がいるので、家に連れていきたい」とのこと。どうやら妻はすでに一度会ったことがあるようで、
娘とは一回り以上年が離れているらしい。私のいまの心境は嬉しいわけでも、嫌なわけでもなく「う~む、どうしたもんかなあ…」という気持ちです。何を話せばいいのやら、酒は飲みすぎない方がいいんだろうか、考えているとだんだん頭が痛くなってきます笑
どんな心構えと対応をすれば良いか、スーさん、ぜひお知恵をお貸しください。

(55歳・男性)


回答

どーんと構えて居間でボーっとしててください。当然です。よっぽどの強者でない限り、口から心臓が飛び出てきそうなのは相手の男性の方です。
一回り以上年が離れていて良かったですね。娘さんと同世代だったら、ちょっと違和感を持っても「最近の若い子はこんなもんなのかな…」なんて自分を説得しそうですけど、三十代後半の男性なら、相談者さんもどんな態度がその年代の人間として誠実かわかるはずです。お父さんと会う、ということは結婚を考えてのことでしょうし。
すでに奥様にはお会いになった上での話なら、そんなに悪印象な方ではないのでしょう。娘さんはモノではないので、相手が「お嬢さんを僕にください!」と頭を下げなくても不服に思わないでくださいね。きゃつらはもう結婚すると決めている可能性の方が高いです。ただの報告かもしれません。よっぽどのことがない限り、勝手に結婚してしまいます。報告を済ませたら、お酒をふるまう前にふたりでサッと帰ってしまうかも? 気負い過ぎると肩すかしを喰らうかもしれませんので、なるようになるさと大きく構えて大丈夫です。
娘さんがまだ25歳とのことで、そこが少しだけ気がかりです。おいおい、結婚したあとも仕事を続けるのか、将来のことを彼とどう話し合っているのかを聞いてみるのはアリかも? そこまで話し合ってない可能性がありますからね。

お悩み3

もしも父が母ロスに陥ったら

スーさんこんにちは! いつもラジオ、著書などで楽しませて頂いております!
私は都内在住、39歳バツイチ女です。実家は魚屋を営んでおりましたが、両親の高齢化に伴い現在お店は畳んでおり悠々自適に年金生活を楽しんでいます。私の家族は私が小さい頃から仲がとても良く私と妹が実家を出てからも頻繁に実家に集まってご飯を食べたりしています。父と母は魚屋時代からお店でもずっと一緒、家に帰ってからも一緒、休みの日も一緒に出かけてと、良くもまぁそんなに一緒にいられるもんだと思っていました。今でも変わらず両親が仲のいい事は心の底からすごいなーと娘ながら感心しています。
そこで今後の父について質問です。もしも今後母が先に亡くなってしまった場合、激しい母ロスが父を襲うと容易に想像できます。母は父とは違い行動的で社交的なので一人で生きていく事に対してあまり心配はしていないのですがそれに比べて父は母ほどではありません。それでも父は母の勧めで最近ジムに通って新しい友達をつくったりと、交友関係を広げたりしています。
母がいなくなったというもしもの時に備えて父に対して今から何か出来る事やしておいた方が良い事はありますでしょうか? また実際に母ロスに陥った場合父に対しての向き合い方のアドバイスがあればお聞きしたいです。

(39歳・女性)

回答

「妻に先立たれた夫の尻には根が生えて、夫に先立たれた妻の背中には羽が生える」と聞いたことがあります。そんな様子が想像できそうなお話ですね。まだ決まったことではないので不謹慎ですが、いまのうちにできることをすべてやっておきたくなる残された娘の気持ち、よくわかります。
我が家の父は非常に社交的で、母の没後もひとりでどこへでも出掛けていきます。それでも、よくもまぁ飽きないなと感心するほど、会えば母への後悔と懺悔が繰り言のように次から次へと出てきます。生きている限り排出される老廃物のようです。よって、社交性と母ロス後悔は反比例しないと言えます。
とは言え、年配の男性が新しい友達を作るのは簡単なことではないでしょう。社交的な我が父ですが、それでも同窓会があれば必ず参加するようにけしかけています。めんどくさいとか、遠いとかブツブツ言うのですが、行けば行ったで楽しかったと帰ってくる。そこから縁が復活することもあるかと思います。
まずはお父様の昔話を聞き、懐かしい気持ちでいっぱいになったところで同窓会ハガキの「参加」に丸をして出してしまいましょう。お母様がご存命のうちから是非!

お悩み2

挨拶をしてくれない娘

中1の娘を持つ父親です。
ここ半年くらいでしょうか、挨拶をまったく返してくれません。こちらが「おはよう」「おやすみ」と声をかけても反応なし、たまに「う…」くらいのつぶやきが返ってくるくらいです。全く会話が無いのではなく、食事中や娘からの頼みごと、連絡事項などでは話しています。思春期なのは分かっているんです。しかし!挨拶は人間関係の基本だよなーと思ってしまいます。娘に「おはよう」と言ってもらうにはどうすればいいでしょうか?

(43歳・男性)

回答

なんて優しいお父様!うちの父親にそんな態度を取ったら、大きな雷がドカンと落ちてきます。もちろん私にも態度が悪い時期がありましたが、関係が悪化しようが良化しようが、ドカンと怒りたい時に怒るのが父でしたので。
思春期というか反抗期というか、父親に対してどう接してよいかわからない時期というのはどんな人にもたいていあると思いますが、ちょっと寂しいですね。普段の会話があるからこそ、なおさら。当の本人は「めんどくさい…」って程度の軽い気持ちなんでしょうけどね。
もし相談者さんがシングルファーザーでないのであれば、妻の手を借りて「お父さんにちゃんと挨拶しなさい」と言ってもらうのはいかがでしょう。本人に言われるより聞きやすいと思います。相談者さんがシングルファーザー、もしくは妻に「そんなの自分で解決しなさいよ」と言われるならば、ちゃんと便箋を使って娘さんに手紙を書きましょう。挨拶の大切さ、挨拶が返されないことのさみしさを正直に綴ってください。
封筒を前に「ゲー!めんどくさい!」と渋い顔をする娘さんの表情が目に浮かびますが、とにかく今後の対応策を考えるのを向こうのターンにしてしまうのです。

お悩み1

待つのが嫌いな父

スーさん、はじめまして。今年79歳になる父の事で相談です。
父はなにより「待つ」事が大嫌いで、家族で外食しても注文したものがすぐ出てこないと、テーブルに突っ伏してふて寝してしまいます。私はおしゃべりをしながら料理を待つのも外食の楽しみだと思うのですが、お酒を飲めない父は、とにかく待っていられないようなのです。
以前入院した時などは、手術前にもかかわらず何度も病院から脱走しその度に連れ戻すのに大変でした。短気で怒りっぽいわけではなく、とても気のいい父なのですが、年も年ですし安静にしていなければならない時にじっとしていてくれないのは、家族としては心配です。どうすれば、待つことの出来る大人になってくれるでしょうか?

(54歳・女性)

回答

テーブルに突っ伏してふて寝!想像すると可愛らしくも思いますが、同席している家族にとってはそんな悠長なこと言ってられないですよね。わかります。子どもじゃないんだから。
正直、79歳の男性が今後「待つことのできる大人」に変わるのはなかなか難しいと思います。我が家の父もそうですが、自分のペースが崩されるのを嫌う人に、「他人にはそれぞれ事情がある」ということを教えるのはかなりの苦労を伴います。
外食時に限って言えば、私はとにかく質問攻めにして気を逸らす方法を採っています。私の父も下戸ですが、意外とこれでなんとかなっています。本人が話したそうな話からスタートして、まだ知らない父親の子ども時代の話などなど話題は探せばいくらでもあるものです。実の親でも知らないことはたくさんありますから。
病院からの脱走は、また別の話かと思います。不安なんでしょうかね。いても立ってもいられない不安を抱え病院のベッドでふさぎ込むよりは、気分転換の外出が功を奏すのかもしれません。究極的に言えば先生には内緒にするとして、いつどこへ行くかを最低限家族に伝えるよう説得し、数時間で帰ってくる癖をつけてもらうのはどうでしょうか。

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