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ぼくと羊男はここから脱出できるのか? 不条理に満ちた「大人の童話」がダークに蘇る。

図書館奇譚

村上春樹/著、カット・メンシック/イラストレーション

1,944円(税込)

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発売日:2014/11/27

読み仮名 トショカンキタン
発行形態 書籍
判型 四六判変型
頁数 76ページ
ISBN 978-4-10-353430-3
C-CODE 0093
ジャンル 文芸作品
定価 1,944円

図書館に本を探しにきたぼくは読書室という名の地下独房に囚われ、こう告げられる。「君はのこぎりで頭を切られ、脳味噌をちゅうちゅうと吸われるんだよ――」。初出から32年、あの名短篇が3度の改稿を経て、ドイツの気鋭画家カット・メンシックによるミステリアスなイラストと響きあう。村上ワールドを多元的に味わうアート・ブック第三弾!

著者プロフィール

村上春樹 ムラカミ・ハルキ

1949(昭和24)年、京都市生まれ。早稲田大学第一文学部卒業。1979年『風の歌を聴け』(群像新人文学賞)でデビュー。主な長編小説に、『羊をめぐる冒険』(野間文芸新人賞)、『世界の終りとハードボイルド・ワンダーランド』(谷崎潤一郎賞)、『ノルウェイの森』、『国境の南、太陽の西』、『ねじまき鳥クロニクル』(読売文学賞)、『海辺のカフカ』、『アフターダーク』、『1Q84』(毎日出版文化賞)がある。『神の子どもたちはみな踊る』、『東京奇譚集』などの短編小説集、エッセイ集、紀行文、翻訳書など著書多数。海外での文学賞受賞も多く、2006(平成18)年フランツ・カフカ賞、フランク・オコナー国際短編賞、2009年エルサレム賞、2011年カタルーニャ国際賞、 2016年アンデルセン文学賞を受賞。

カット・メンシック Menschik,Kat

1968年、東ドイツ・ルッケンヴァルデ生まれのイラストレーター。ベルリン芸術大学、パリ国立美術大学で学び、雑誌「A.O.C.」を創刊。以後「フランクフルター・アルゲマイネ」日曜版などにイラストを寄稿しながら書籍などの挿画をてがける。2007年、トロースドルフ絵本賞受賞、2014年、『黄金の三本鍬』が「最も美しいドイツの本の一冊」に選ばれる。

目次

図書館奇譚
あとがき

インタビュー/対談/エッセイ

ムラカミの重層を描くということ

カット・メンシック

 それは1本の電話から始まりました。村上春樹のドイツ語版を刊行しているというデュモン社の編集者から「こんど、短篇小説とイラストを組み合わせた小ぶりの本を企画しているのですが、ハルキ・ムラカミを知っていますか?」と。「もちろん知っていますとも!」私はかれこれ20年ほど前に『羊をめぐる冒険』を読んで以来の大ファンでしたので、電話口で飛び上がらんばかりに喜んでしまい、「まあまあ、そんなに興奮しないで。あなたの作品を村上さんに見せて、承認をもらうまでは仕事が決まったわけじゃないから」と編集者にクギを刺されたほどでした。
 幸い、私のイラストは気に入ってもらえたようで、最初に手がけたのが『ねむり』という短篇(2010年小社刊)。ある主婦が突然眠れなくなり、1週間、2週間と一睡もできない状態が続くのですが、彼女は疲労困憊するどころか昼間は泳いで夜は読書に没頭し、以前よりも若々しく充実した自分を見出すというお話です。他のムラカミ作品と同様、どこか翳りがあってミステリアスな結末が待っており、結局彼女は夢を見ているのか、無意識の昏睡状態なのか、死んでしまったのか判然としません。いろいろな可能性が喚起され、それらが重層的に物語全体を包み込んでいます。
 読み終えて、まず私の頭に浮かんだのは、青と銀色の二色刷りのイメージ。青は深い夜の色で、とても高貴な色でもあります。偶然にも担当編集者も全く同じイメージを抱いたそうで、基本コンセプトは固まりました。次にイラストの絵柄を決めるわけですが、私の場合は文章の中からひとつひとつ言葉を選び出し、物語の別のところから感じ取った要素をどんどん付け加えて、イラストレーションの層を重ねていくのです。眠れない妻のとなりで夫が寝ている――これだけなら普通ですが、私の場合はそこに菊の模様とか、分子構造模型とか、鳥とか、およそ筋書きに関連がなさそうなものを組み合わせます。そのイラストを見て、読者はさらに連想の幅を広げていくことができるのです。
 私の経験でいえば、小説にイラストを添えるときに読者の想像力をあまり甘くみないほうがいいですね。各々の頭の中にはすでに物語世界のイメージが浮かんでいますから、単に一場面の情景を描くにとどまらず、さらに小説を読み進んでいくのが楽しくなるようなヴィジュアルを用意しなければなりません。どうしてこの場面に鳥が描かれているんだろう、といった疑問が、さらに何か新しいインスピレーションを生み出し、イメージの重層が物語を豊かにしてゆく。私はつねにそういうイラストを目指していますし、それができるのがムラカミの小説だと思っています。
『ねむり』が好評でしたので、次に『パン屋を襲う』(2013年小社刊)を手がけ、そして第3弾として出版されたのが、この『図書館奇譚』です。一読してまず考えたのは、物語全体を覆う闇の深さをどうやって表現するかということ。黒を基調にしてさらにひと工夫、何かできないものかと思案していたところに、ニスの版というアイデアを編集者が提案してくれました。透明なニスで描くわけですから、ぱっと見ても何が描かれているのか全体が把握できず、光の当たっている部分だけ絵柄が反射して見える。なんだろうこれ? と本を右に左に傾けてみると、繊細な蜻蛉の羽根が浮かび上がってくることもあれば、芋虫がうじゃうじゃ現れてぎゃっと驚くこともある。突然暗闇に放り込まれると、最初は何も見えないのにだんだん目が慣れてきて、部屋の中に何があるのかうっすら知覚できるようになりますよね。あの体験にちょっと似ているのかもしれません。そして前二作と同様に、ニスの層に描かれているのは、ストーリーとはおよそ無関係に思えるものだったりします。鍵束を持った手の背後にカタツムリがぎゅうぎゅう詰めで並んでいる。これは何を意味しているのか? 皆さんはどうお感じになるでしょうか。とにかくそうやって色々なことを考えさせる本にしたかったのです。
『図書館奇譚』は初期に書かれた短篇ですが、地下の迷路に入っていったり、大切な誰かを失ったり、新たな出会い、友情など、その後の長篇作品において重要なファクターとなるものが詰まっています。舞台は地下のごく小さな空間でも、そこで起きている物語は、時間的にも空間的にも豊かな広がりを持っており、とても魅力的な作品だと思いました。
 いま仕事はひと休みの期間ですが、今後もムラカミの短篇を手がけていければと思っています。もし自分で選べるとしたら……「象の消滅」のような、神秘的な雰囲気をもったストーリーに挑戦してみたいですね。(談)

(カット・メンシック イラストレーター)
波 2014年12月号より

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