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ほんとうに生きるとは、前に進むことだ。
熱き魂の伝道師による「人生の羅針盤」!

荒野に立てば―十字路が見える―

北方謙三/著

1,404円(税込)

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発売日:2017/06/30

読み仮名 コウヤニタテバジュウジロガミエル
装幀 長濱治/写真、新潮社装幀室/装幀
雑誌から生まれた本 週刊新潮から生まれた本
発行形態 書籍
判型 四六判変型
頁数 255ページ
ISBN 978-4-10-356214-6
C-CODE 0095
ジャンル エッセー・随筆
定価 1,404円

迷っている間、人はほんとうに生きてはいない。迷うのは、ひと時でいい。生きている時間には、かぎりがあるのだから――長い小説を書き終えた作家に訪れたのは、次の物語をはじめることへの不安、そして思いなやむ自分との決別だった。ページから溢れ出す至言の数々にKO必至。人生の滋味、エッセイの醍醐味をあじわい尽くす一冊!

著者プロフィール

北方謙三 キタカタ・ケンゾウ

1947(昭和22)年、佐賀県生れ。中央大学卒業後、1970年に『明るい街へ』でデビュー。1981年の『弔鐘はるかなり』で脚光を浴び、1983年『眠りなき夜』で日本冒険小説協会大賞、吉川英治文学新人賞受賞。1984年に『檻』で日本冒険小説協会大賞、1985年『渇きの街』で日本推理作家協会賞を受賞。1988年から歴史小説にも挑み、1991(平成3)年『破軍の星』で柴田錬三郎賞受賞。2006年、『水滸伝』全19巻で司馬遼太郎賞を受賞。2007年、『独り群せず』で舟橋聖一文学賞を受賞。2010年、日本ミステリー文学大賞受賞。2011年、『楊令伝』全15巻で毎日出版文化賞を受賞。2016年、『水滸伝』『楊令伝』に続く『岳飛伝』全17巻を完結し「大水滸伝シリーズ」全51巻が完成。2017年、断たな大河小説『チンギス紀』の連載を開始した。

目次

第一部 雪の荒れ地へ
知らない土地に迷いこむまで歩こう
また君との散歩からはじめるか
冬の陽溜りはいいものだ
嗤いすぎて胃の上がよじれた
歩きながら考えた些細なこと
いま天敵を吹き飛ばそうとしている
まずは行ってみることだ
腐った蟹から眼をそらすなよ
ふりむけばそこにあるもの
ケンゾウのはずなんだけどな
いつかここで泣くのだろう
第二部 芽吹きの丘が
躰が喜んでいるんだよ
鮫などいらない釣りの日
なんでも貫き通してみればいい
蹴飛ばすと眼を閉じるもののあわれ
時には鼠の食らい方を考えよう
山に籠ってなにができるのか
五十年前の口笛が聴えてきた
時には心に火をつけてみろ
言語が美しかったころに
強い酒で焼きを入れられた
左右どちらも駄目な人生かな
孤独と料理は両立するのか
絶対に食えないものがあるのだ
第三部 緑なす原野で
なんでも受け入れようと思った
雲のように生きたいと思った
いずれ明らかになる真実がある
真夏の夜の悪夢だった
鏡を見ていてもはじまらないのだ
手紙のむこうに自分が見える
匍匐前進なんかせずに歩こう
唄声は遠くて近くて美しい
英才教育をされた部分もある
どこまでも続くのが旅というものだ
いつまでも腐らないものはある
思いついたことは実行しよう
およそ感性の及ぶかぎりは
第四部 燃える稜線にむかい
空とビールが一緒に飲めるぞ
いつか喚いている自分に気づく
祭りの時はどこにでもやってくる
霧の中でもはっきり見えるもの
時化の日に音が流れてきた
人間にとって厄介なものは
日々は過ぎて老いが残るのか
遠くで見ているやつは嗤うだけか
この血はどこからやってきたのか
尻の痛みで人生を感じてしまう
あの島が心の中にまだあるのなら
いつか自分を掘り出して輝きを手にする
あえて荒野などと恰好をつけてみたが

インタビュー/対談/エッセイ

ハードボイルド映画 俺の五本、おまえの五本

北方謙三原武史

 週刊新潮の人気連載「十字路が見える」が『荒野に立てば―十字路が見える―』として刊行されます。北方さんは「年間100本以上観る」という大の映画好き。まだ観ぬ面白い映画を探して、昨年の本誌対談でTSUTAYA映像部門のバイヤー・原さんに教えを乞うて以来、2人は意気投合。北方さんのエッセイにあるような、タフな世の中を生き延びるための強さを、映画の中に求めてみると――。

北方 今日は、原さんと「ハードボイルド・テイスト」の映画について語り合いたいと思います。ハードボイルドというジャンルは、小説においては文体からの明確な定義がありますが、映画はそれがないんだよな。だから、あくまで「テイスト」になる。ハメット原作の「マルタの鷹」とか、いかにもな作品ではなく、友情とか、生きることの意味とか、男のセンチメントがじわっと滲みだしている映画について語りましょう。
「波」編集部(以下、波) 小鷹信光氏によると、‟ハードボイルド・エッグ(固ゆで卵)”が「タフな奴」を指すようになったのは、〈beat〉という言葉の持つ「やっつける」「かき混ぜる」という二重の意味からだそうです。固ゆで卵は〈beat〉できないから「強い男」。
 強い男が出てくる映画、大好きです。でも、無敵では面白くない。ふとした弱さ、甘さが映像から滲みでている作品は、レンタルでも根強い人気を獲得する作品が多いですね。

1.ザコだと思っていた相手が、実はスゴかった

北方 「狼の死刑宣告」って、ケヴィン・ベーコン主演の映画がありますが、あれ、いいでしょ? 保険会社の社長が家族を殺されて、暴力組織に復讐をする話。
 「ソウ」シリーズのジェームズ・ワン監督が20代の時に撮った、彼の出世作ですね。2007年の作品ですが、映像に匂い立つような色気があって、所謂ゼロ年代映画とは一線を画しています。
北方 銃もまともに撃ったことがないような平和主義者が、家族を殺されていきなり強くなる。いきなり強くなって、不屈の闘いをする。下手な役者がやったら目も当てられないけど、ケヴィンが演じると失ったものの大きさが伝わってきて、大きな変貌にリアリティが出る。そういうことを表せる俳優って少ないな。
 彼の作品選びは素晴らしいですよね。本当にハズレがない。この作品は代表作といえると思うのですが、日本での劇場公開とDVD発売が2年以上塩漬けされてました。しかし、レンタルが開始されると、じわじわと人気が出てきた。
北方 復讐される敵方にも暗さや屈折があって、一般的なリベンジものとは一味違う。逆パターンで「ヒストリー・オブ・バイオレンス」というのがあるけど、これはプロの殺し屋だった男が、普通の生活を送る話。俺は、こっちの演技の方が易しいと思うんだよね。昔のことを思い出す、という演技だから。
 奥さんに高校時代のチアリーダーの衣装を着せてセックスするシーンにはリアリティがありました。
 最高でした。クローネンバーグ監督は絶対そういうの入れてきますよね。

2.女と男の生き様がぶつかり合う

北方 セックスシーンといえば、「ラスト、コーション」は、エロチックな映画だけど、ハードボイルドだと思う。主演女優のタン・ウェイの身体が、ぐっと二つに折り曲げられて、後ろから……あれは、完全に本番行為を撮影してるよな。
 ぼかしが入っているのに、どうして本番だと分かるんですか?
北方 ……それはね、この話題の本質とは関係がありません。この映画は、殺さなくてはいけない男を愛した女と、愛した女を殺さなくてはならない男の、2つの生き様のぶつかり合いを描いていて、セックスシーンの迫力が凄まじい。そこらのポルノ映画じゃ比較にならない。
 2人の感情と関係の変化をセックスで描写していくんですよね。
北方 そう。セックスシーンに必然性がある。女は演技のつもりだったのに、バンバン激しくやっている中で、「うわーっ」と泣きながら、「くわーっ」といっちゃったりするわけ。タン・ウェイのわき毛がまた色っぽくて……。
 はあ。
北方 それも本質じゃないけどな(笑)。そこを通して描かれる「葛藤」の中に女のハードボイルドがあって、「決断」に男のハードボイルドがある。結局、やっぱり男の方が精神的にひどい目にあうんだよな、ハードボイルドっていうのは。

3.矜持を取り戻すための戦い

 男と女のハードボイルドだと、少女とボディガードという組み合わせも名作が多いですよね。デンゼル・ワシントン主演の「マイ・ボディガード」とか。
北方 俺はさ、この作品を「レオン」と比較してしまうんだけど、後者はちょっとあざとい。少女役のナタリー・ポートマンがボディガード的な存在のレオンに「愛してる」とか言っちゃって、その瞬間になんかシラッとしちゃうんだよ。一方「マイ・ボディガード」は、少女でなく男のプロの矜持に焦点を絞っているところがいいんだ。ボディガードが、守るべき少女をさらわれてしまう。もちろん全力で戦ったんだけど、敵が多過ぎてやられちゃう。男にとっては、自分を犯されたようなものだ。そこから執念深く、自分を犯したやつらに復讐していく。
 デンゼル・ワシントンの演技に引きこまれますよね。それに、監督のトニー・スコットが素晴らしいです。どん底から立ち上がる男を撮らせたら、右に出るものがいない。
 みんな、一度はどん底に落ちるんですね。
北方 ハードボイルドには、完璧なスーパーヒーローは出てこないんだよ。

4.ダメ男の開き直り

 トニー・スコットといえば、「トゥルー・ロマンス」も暴力描写がハンパないのに爽快感があって好きです。タランティーノが本当は自分で撮りたかったのに、脚本を売ったという……。
北方 主人公の男も女も両方バカでね。男の父親役のデニス・ホッパーを殺すクリストファー・ウォーケンがよかったな。ジャック・パランスと存在感が似ている。
 元警察官で厳しかった父親が、最後はバカ息子をかばって死ぬ。父と息子もそうですが、少年と老人という設定もハードボイルドの定番ですよね。
北方 ロバート・B・パーカーの『初秋』以降そうなった。同じ時期に刊行された俺の『逃がれの街』の方が傑作だけど(笑)。
 これは本気で、同感です。
 ビル・マーレイ主演の「ヴィンセントが教えてくれたこと」がよかったです。愛情に飢えた少年が隣のダメじじいと心を通わせていくという。
北方 「グラン・トリノ」も設定が似ているんだけど、じじいがとことんダメ人間というところが決定的に違う。それでも少年は、じじいからケンカの仕方とか、男に必要なものを学んでいくんだよ。じじいはロクデナシだから教えるつもりはないのに、それでも教えられるということが、男同士にはあるわけ。

5.女のために身を滅ぼす一途な男

 監督から語れる作品はありますか。
北方 ビリー・ワイルダーだな。「深夜の告白」は女のために人を殺した男が、その女を疑いはじめたせいで完全犯罪が崩壊していく。男ってのはね、こんなふうに女を疑って、自分で自分をひどい目にあわせるんだな。俺も若い頃はしょっちゅうだったよ。そういえば、「サンセット大通り」もそんな話。
 同じワイルダーではマレーネ・ディートリヒが出演している「情婦」もそんな話でした(笑)。男性は一途な思いを貫き、女性は嘘を吐く。結局どちらも、幸せになれない。
北方 幸せなんて、妥協の産物だよ。現実生活ではみんな妥協して産物を獲得することが必要だけど、それだけでは満たされないものがあるから、映画や小説が存在するんじゃないか。
 夢とか逃避、息抜きですね。
北方 マレーネもいいけど、俺が好きなのはフェイ・ダナウェイ。「俺たちに明日はない」「華麗なる賭け」も傑作だが、おっぱいが垂れるギリギリの頃の「チャイナタウン」が最高。探偵役のジャック・ニコルソンがナイフで鼻を切られる場面が忘れられない。後味の悪さも含めて、作品全体にある寂寥感は古典的なハードボイルドだね。
 そのころのLAといえば、今年、「TSUTAYA発掘良品」でロバート・ミッチャムがフィリップ・マーロウを演じた「さらば愛しき女よ」と「大いなる眠り」がリリースされて好評です。

6.日常に潜むハードボイルド

北方 フレンチ・ノワールだったら、「チャオ・パンタン」が好きだな。どうってことのない奴らの日常を淡々と映しているだけなのに、言い様のない影がある。デビューしたばかりの頃、新宿ゴールデン街の「深夜プラスワン」で飲んでる時に薦められて、そのまま藤田宜永と一緒に観に行った。大沢在昌もいたかな?
 フレンチ・ノワールはストーリーが歯切れが悪いものが多いですが、カッコいい作品が多くて僕は好きです。アラン・ドロンの「サムライ」とか。
北方 あれ、カッコいいよな。人殺しに行くときに、トレンチ着て、ボルサリーノかぶって……よく真似したよ。物語とは別の部分に深いものを見出すのがフランス映画なのかもしれないな。
 そうですね。最近だと、「あるいは裏切りという名の犬」とか「預言者」などが、ノワール系では必見ですよ。
北方 しまった、見逃してるな。
 イタリア映画ですが、同じく日常の、もっと小さな事件を描いた「自転車泥棒」も好きです。
北方 これ、ラストが切なすぎるだろう。父親と息子が、自転車泥棒を探す話。父親は、自転車がないと仕事ができないから必死なんだ。
 1949年にアカデミー賞最優秀外国語映画特別賞を獲っています。その時代に、こんな小さな事件で1本映画を撮るというのが、もうハードボイルドですね。
北方 ラストで、ボロボロになった父親に息子が手を差し伸べるあたりはハードボイルドといえるかもしれない。

7.ハードボイルド・テイストとは

北方 ちょっと変り種では、SF設定の「ガタカ」も面白かった。
 観たときは、もうびっくりしましたね。SFなのにセリフで魅せる、トーンを抑えた大人の映画です。ジュード・ロウ、イーサン・ホーク、ユマ・サーマンと役者も上手い人たちがそろっている。
北方 これは主人公の設定ではなくて、描かれ方がハードボイルドだよな。あと、登場人物がそれぞれ、他人のために自らを犠牲にする心意気。
 僕は、自分のやるべきことを貫き通すことがハードボイルドだと思うのですが、この作品はまさにそういう映画です。
 他人のために何かを貫こうとする心意気……幅広いジャンルの映画が登場しましたが、ハードボイルドというのは「強さ」だけでなく「優しさ」だと思えてきました。それにもいろいろな形がある。
北方 言葉で定義するのではなく、観て、心で理解するものだと思う。「ラスト、コーション」を観れば、タン・ウェイがわき毛まで覚悟に満ちているのが分かる。役柄のせいだけど、「存在の耐えられない軽さ」のジュリエット・ビノシュのだらしないわき毛とは大違いだ。わき毛にも、ハードボイルド精神は読み取れるんだよ(笑)。

北方謙三の5本
「狼の死刑宣告」(2007)
「ラスト、コーション」(2007)
「マイ・ボディガード」(2004)
「チャイナタウン」(1974)
「チャオ・パンタン」(1983)

原武史の5本
「トゥルー・ロマンス」(1993)
「ヴィンセントが教えてくれたこと」(2014)
「あるいは裏切りという名の犬」(2004)
「自転車泥棒」(1948)
「ガタカ」(1997)

(きたかた・けんぞう 作家)
(原 武史 TSUTAYAレンタルユニット映像チーム)
波 2017年7月号より

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