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消えようのない記憶を刻んでいった人々がいよいよ鮮やかに甦る――。

月日の残像

山田太一/著

1,728円(税込)

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発売日:2013/12/20

読み仮名 ツキヒノザンゾウ
雑誌から生まれた本 考える人から生まれた本
発行形態 書籍
判型 四六判変型
頁数 262ページ
ISBN 978-4-10-360608-6
C-CODE 0095
ジャンル エッセー・随筆
定価 1,728円

疎開先で亡くなった母、早世した四人の兄たち、後妻としてやってきて、三年で去っていった理知的な義母、若き日の松竹撮影所時代の思い出、木下恵介、寺山修司、向田邦子ら忘れえぬ人々。時間の堆積のなかからうかびあがる苦さと甘やかさのないまぜになったさまざまな記憶を練達の文章で描きだす、大人のためのエッセイ集。

著者プロフィール

山田太一 ヤマダ・タイチ

1934年東京浅草生まれ。脚本家。早稲田大学卒業後、松竹大船撮影所入社。演出部で木下恵介監督の助監督に。1965年独立。以後約半世記にわたって、「岸辺のアルバム」「早春スケッチブック」「ふぞろいの林檎たち」「キルトの家」など多くの名作テレビドラマを手がける。1988年『異人たちとの夏』で山本周五郎賞受賞。主な小説作品に『飛ぶ夢をしばらく見ない』『冬の蜃気楼』『終りに見た街』『空也上人がいた』ほか。

書評

波 2014年1月号より 全体のための印象

荒川洋治

山田太一の『月日の残像』は、季刊誌「考える人」に連載したエッセイをまとめたものだ。四百字詰原稿用紙で十枚ほどの文章が、合わせて三十五編。十枚という長さはエッセイとしては「中編」の部類かと思うが、その長さにふさわしい深みと、おもむきがある。
幼少期の体験、助監督時代の思い出、日常のできごとから、映画、小説など作品世界の話まで、題材は多彩。木下恵介、向田邦子、市川森一、寺山修司などの人物論や、読書にまつわるものもある。思ったほどまっすぐに進まないところも魅力かもしれない。いまこのことについて書いているけれど、これは何を書いていくものなのかということを、いくつかの時点でたしかめながら書くのだ。
「時折、夕食をとりながらのんだり、しゃべったりする友人がいる。しかし、結局話の大半は忘れてしまう。会っているときの大ざっぱな残像以上になにを知っているのかと考えると、呆れるほど心もとない。ただもう残像のよさでまた会うようなものだ。それが一番確かだという思いもあるが、ことによると本人とはかけはなれた勝手な絵を描いているだけかもしれない。」(「下駄を履いていたころ」)
この「残像」は、本書の表題の一語でもあるが、「残像のよさ」ということばも印象的だ。作者としてはさほど心にとめずに使っているのかもしれないと思うことで、さらにこの文章は印象を高める。いま引いたところがそうであるように、ひとつの文章のなかに、いくつかの「残像」がある。流れでる。それが読む人の注意を引く。
次は「シナリオライター」。あるシナリオライターが、どういう扱いをうけても、穏やかに自分の仕事をするようすを見て、「その事務的な対応、無抵抗の印象は、私のシナリオライターについての偏見の基礎となった」。そのあとは、アルベルト・モラヴィアの長編「軽蔑」の一節。「シナリオライターは、彼がその映画作品に対して自己の最良のものを注ぎ込みながらも、自分の個性を、ほんとうに表現したことを確認できる喜びを持つことのできない芸術家である」のくだり。少しあとで山田太一は書く。「だったら誰よりもシナリオライターがその不当に声をあげればいいではないか、ということになるが、それをしないのもシナリオライターになる人のタイプのような気もする」。作者は、「三十近くなったころの私の迷いの種だった」ということばでこのエッセイを結ぶ。
この「中編」をたどっていくうちに、ぼくは、映画監督、助監督、製作者、俳優、シナリオライター、さらにはそれらの人影を通して、この世のすべての人を知るような気持ちになることができた。なんとエッセイとはおおきくて、ひろくて、あたたかいものなのだろうと思った。人物やできごとの書き方、おさえ方にかたよりがない。それで、こちらもかたよりのないまま展開に身をゆだね、この世界を感じとるのだ。こういう文章はおのずと読む人のありかたや立場をこえて、深い印象を残すものである。
「消えた先の夢」も、心に残る。テレビドラマ「七人の刑事」の資料を集めて、一冊にした人の話だ。昔のものだけに、この時点でわかる範囲で、という気持ちから、その人がつくったものらしい。「これは限られた人だけが享受できる詩なのだ」と、山田太一は思うのだ。
本書には「抜き書きのノートから」と題するエッセイが二編あるが、その箇所だけではなく、ほぼ全編にわたって、さまざまな人のことばや作品が登場する。磯田光一の批評、阿部知二の短編、山之口貘、中桐雅夫の詩など。なかには、「限られた人だけが享受できる」ものもあるのかもしれない。だが山田太一はそれらのひとつひとつを重要な景色のなかに置く。文化のたいせつな「残像」を伝えるという面でも心を尽くしているように思われる。ちいさな日常とおおきな世界の区別なく、その全体を心にかける文章は貴い。「エッセイ集」の真価を示す一冊である。

(あらかわ・ようじ 現代詩作家)

目次

武蔵溝ノ口の家
下駄を履いていたころ
Oさんの綿の話
減退
七回忌もすぎて
一九六〇年以前
シナリオライター
土の話
三男と五男
抜き書きのノートから I
下町と山の手
映画の周りで
オスマン・トルコ軍楽隊
眼鏡トンネル
抜き書きのノートから II
アメリカの夜
陰の存在
「女と刀」
食べることの羞恥
本の話
忘れた自分
下積みの記憶
木下恵介さんのこと
トルイユと六区
消えた先の夢
ルナールの日記
オフレコ
寺山修司
市川さんのこと
絶対矛盾的自己同一
ビールの夜
ロシアの話
ひとりカラオケ
届かない領域
この先の楽しみ
あとがき

判型違い(文庫)

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